第5話 再来のカーチェイス・前編2(キャラ名版)
ミツキ「おういえい! デロリアンわぅ~♪」
ナツミA「ほぉ~・・・クラシックカーが勢揃いですか。」
数日後、国内の護衛依頼を受ける事になった。先日発覚した窃盗団への対策で、エリシェ達が再び車を買い漁りだしたのだ。ただ今回は高級車ではなくレトロ車になる。スーパーカーには程遠いが、価値的には遥かに上回る名車揃いだ。
ミツキ「ここにあるのが全部わぅか?」
オーナー「いえ、全てではありません。この手のクラシックカーは海外の方が圧倒的に多いので、実際に取り扱っているディーラーから入手しています。」
ナツミA「運輸費だけでも相当な額になりそうですよね。」
エリシェ「全部こちらが負担しています。まあ前回の窃盗事変よりは格安に近いですが。」
ミツキ「“オーダーワンコを発動せよ!”わぅね!」
ミツキのそれで周りは笑っている。あの窃盗事変時に暗号として用いたもので、今ではこの手のディーラーの間では語り草になっている。全ディーラーの総意を抱き、あのカーチェイス事変を勝ち取ったのだ。それぞれのディーラーにとっては誇り高いようである。
ミスターT「しかしまあ・・・国外からは軍事的横槍があるのに、国内では窃盗事変か。四面楚歌とは正にこれかね。」
ミツキ「んにゃ、絶体絶命わぅ!」
ナツミA「にしては、笑顔でいられるのは不思議よね。」
ミツキ「幸せだから笑顔になるんじゃないわぅ、笑顔でいるから幸せになるんだわぅよ。それを連中にも思い知らせてやるわぅ!」
この厳しい状況でも絶対に笑顔を絶やさないミツキ。ナツミAが言う疑問に、その理を明快に述べる彼女だった。笑顔でいるから幸せになれる、本当にそう思う。その笑顔を作り出すのが、ミツキが常日頃から行っているギャグなどだろう。些細な事でもいい、それで幸せが作り出せるのなら思う存分貫いていくべきだ。
オーナー「ハハッ、本当に凄いもので。このお嬢様の生き様が、あの窃盗団を捕まえるに至ったと言っても過言ではありませんね。」
ミスターT「いや、ミツキ自身は超自然体なんだがね・・・。これを意識的に行っていたら、相当な道化師だわ。」
ミツキ「わたは道化師じゃないわぅ! 颯爽と疾走するワンコわぅよ! わっふーわっふっふー♪」
ナツミA「はぁ・・・。」
本当に何と言うかまあ・・・。その一挙手一投足が全て笑いに変じる彼女は、天性の才能を持った女傑そのものだわ。そして周りは不甲斐ないと言わんばかりに笑ってしまう。それがミツキ・スタイルだろう。これが俺達全ての人間に内在する力の1つなのだから、不思議としか言い様がない。
ミスターT「ともあれ、今後はどうするので?」
オーナー「今はまだ相手の出方が分かりません。よって、エリシェ様が考案のエサ蒔きをします。これだけのクラシックカーが大型ガレージにあれば、相手は否が応でも近付いてくると思いますので。」
エリシェ「別の場所でも同じ様な流れを展開しています。スーパーカーも紛れ込ませているので、今回はどの車両を狙うのかが特定できると思いますよ。」
提供してくれた紅茶と茶菓子を頬張りながら作戦会議を行う。背後にはあのカーチェイス事変で半壊したウアイラが堂々と鎮座している。しかし今回の目的はスーパーカーではなく、クラシックカーを狙って来ると推測できる。
ミスターT「連中が来たら、再びカーチェイスで追走か。今度は車両のスピードが遅いから、問題なく追い付けそうだわ。」
ナツミA「ウアイラやムルシエラゴなら、速攻で追い付けますからね。」
ミツキ「ナツミYUちゃん泣かせわぅ。」
茶菓子を頬張りながら、搬入されたクラシックカーのリストを見るミツキ。俺も隣で見せて貰ったが、その車種は凄まじいまでの名車揃いである。
マスタング・チャージャー・デロリアン・スティングレイ・コルベットC3などなどと、コレクターには感涙の逸品ばかりである。下手をすればムルシエラゴに匹敵するような高額の車両すらある。希少価値の問題では、スーパーカーを遥かに凌駕しているだろう。
ただ先にも述べたが、スピードに関してはお世辞に速いとは言えない。どれも300kmを出す事はできず、その壁を超えるか匹敵する車両がスーパーカーとなる。更にその先を行くのがハイパーカーであり、ウアイラやヴェイロンなどの車が該当してくる。
そもそも、これらクラシックカーはスピードを出す車じゃない。ゆったりと運転を楽しむ車だ。スピード狂が乗る様な、走り屋専門の車両とは全く異なる。まあ中にはエンジンを凄まじいものに換装し、スピード狂好みの暴れ馬にする変人もといマニアもいるが・・・。
俺はスピードを出す派ではないため、こういったクラシックカーの方が性分に合う。今も使っているミニクーパーもそれで、ゆったりのんびりと乗るのが楽しい。ハーレーもそれで、ドッシリと構えて乗るから迫力があるのだ。高速走行をする車両ではない。
ミツキ「Tちゃんはどれを選ぶわぅ?」
ミスターT「俺か? う~ん・・・選ぶなら、ダッジ・チャージャーかね。マスタングやデロリアンも捨て難いが、いざという時のパワーはチャージャーの方が凄まじいからの。」
ミツキ「おおぅ、にゃるほど。わたはデロリアンわぅ!」
まるでカーディーラーに車を買いに来た親子のようだわ。ミツキの背丈からして、俺とは父親と娘のように見えるだろう。彼女の口調が余計幼く見せている。
エリシェ「それなら、この窃盗団事変が終わったらプレゼントしますよ。この手の車両は海外には数多くありますので。」
ミツキ「おういえい! 願ったり叶ったりわぅ~♪」
ミスターT「本気にするお前も凄いわ・・・。」
エリシェ「いえ、本気ですけど?」
アッケラカンと喜ぶミツキに、アッケラカンとプレゼントをすると語るエリシェ。それに俺は爆笑してしまった。釣られて周りの面々も笑っている。
最近はミツキに感化されてか、周りの女性陣がミツキ・スタイルを示す姿が多い。それが今の姿をより一層輝かせるため、物凄く魅力的にもなる。完全にプラスの力そのものだ。
ミツキに内在する力は全ての人間に内在する力を開花させたようなもの。つまりその起爆剤により、本来以上の力を引き出しているとも言える。いや、自然回帰とも言うべきだろう。
この姿勢が世上で蔓延する悲惨や不幸を一掃するのは間違いない。が、開花させるには相当な努力が必要になりそうだが・・・。
とりあえず、今現在は何事もないので引き上げる事にした。エサ蒔きは行っているため、何れ連中の目に留まるだろう。その時が勝負の時である。
まあ何と言うか、高級車やレトロ車をエサにするエリシェの発案も見事なものだわ・・・。それでも、これらが特効薬になり問題解決になるやら安いものか。大企業連合の総帥の機転溢れる行動には恐れ入る。
数週間後、それは起きた。ほぼ夜半になった頃、行き付けのディーラーから連絡が入る。各店舗の大型ガレージで待機中のクラシックカーが盗まれたとの事だ。しかも今回は面々の予測通り、スーパーカーを一切狙わない流れのようだ。
前回は高級車たるスーパーカーばかりを狙った犯行だったが、今回はクラシックカーばかりを狙った犯行となる。同じ連中かどうかは分からないが、炙り出せた事には変わりない。
この話を伺ったナツミYUは何時も以上に奮起し、必ず捕まえると躍起になっている。だが今現在はその手口が巧妙で隠密、痕跡を残さない犯行の様子。つまり特定が非常に難しい。
防犯カメラ郡も配置してあったが、どれもハッキングやカメラ自体の破壊により無効化となっている。今回の窃盗団は相当頭が切れるようだ。
デュリシラ「へぇ・・・連中は多重防壁を築いて、行方を眩ます手法を取っていますね。」
ミスターT「前の時は漠然と動いていたようだが、今回は手口が違うという事か。」
喫茶店の奥側はDJブースになっているが、その少しカウンター寄りはサーバーブースになっている。そこではデュリシラとビアリナがパソコンを使った情報収集に明け暮れていた。と言うか、ビアリナもデュリシラに匹敵するかのような腕の持ち主だとは驚きだわ。
ミスターT「お前さん・・・欠点がないんじゃないか?」
ビアリナ「何を仰います。頭脳的なら引けを取りませんが、行動的では皆様に敵いません。それに私以前に、警護者は何方かを補佐してこそ真価を発揮しますし。」
デュリシラ「ですね。あのシルフィア様でさえ、スミエ様とタッグを組まれてこそ真価を発揮していらっしゃいますし。まあ異色とすれば、貴方ほどソロが合う方もいませんが。」
ミスターT「ソロねぇ・・・。」
俺も警護者の手前、スタンドプレイはまず有り得ないわな。ただデュリシラが指し示したその意味は、単に単独行動を指し示すものではない。言わば先陣を切っての独立行動だろう。過去を例に挙げれば、トラガンへの潜入捜査が正にそれだ。
デュリシラ「そうですねぇ、正に思われたそれでしょう。」
ミスターT「はぁ・・・デュリシラにすら読まれるか。」
デュリシラ「あら、最近の貴方は内情を包み隠さず吐露していると思いますけど。」
ミスターT「何とも。」
今や身内の女性陣に心中を見透かされる事が多々ある。それは裏を返せば、俺が内情を隠さず思うからだろう。野郎より直感と洞察力が非常に優れている女性ならば、俺の内情を読むのも容易いものだ。これは俺自身も性転換をしてから痛感しているものになる。
第5話・3へ続く。




