第4話 大規模襲撃5(通常版)
凄まじい現状だ。人型機械兵器や傭兵軍団がそこらかしこに倒れている。ただ人型機械兵器の方は完全に破壊しても問題ないが、傭兵軍団の方は人間なので注意が必要である。まあ殺害しなければ、徹底的に痛め付けても問題はない。
相手はこちらを殺しに掛かってくるのだ、要らぬ感情を抱く自体間違っている。当然不殺は貫くが、それ相応の対応はさせて貰うわ。ここは思い知らせる事も必要な行動である。
「あの特殊部隊との戦いの方が、いかに楽だったかが思い知らされるわ。」
「ですね。少なくとも相手は軍服連中に懸念を抱いていましたし。そこを突くと言っては失礼ですが、説得した感じになりましたから。」
当時の特殊部隊の兵士達の殆どが、軍服連中の言動に懸念を感じていた。自分達を捨て駒当然に扱う様に反感も抱いていた感じである。そこを利用した形にはなるが、正しい生き様を示す事で説得できた感じになる。
「同じ人間なのに、何でいがみ合うのですかね。」
「過去の歴史が全て物語ってるわよ。スミエ様が一番目にしてきたと思いますが。」
「それこそ暗黒面の兆し、それが当てはまります。」
無尽蔵で動けるミュティ・シスターズとルビナ以外は、休憩を挟んでの対決となる。戦闘の最中に休憩は非常に危険だが、お互いに守り合うため全く以て問題がない。茶菓子を頬張って寛いでいるミツキには呆気に取られるが・・・。
「もぐもぐ・・・アレわぅ、正義の騎士でも発足するわぅか?」
「でもそうすると敵方を暗黒卿にしないといけませんよ。」
「にゃらば、ここはワンコの騎士でOKわぅね!」
「はぁ・・・。」
この戦闘中に茶菓子を頬張り雑談する様相は、本当に見事としか言い様がない。そこに襲撃しようとする傭兵軍団を、トラガンの女性陣が一蹴しているのも何とも言えないが。
「・・・また性転換でもするかね・・・。」
「はぁ・・・女性ならではの目線でいられるから、ですか・・・。」
「俺だけ浮いているわ・・・。」
こちら側では俺しか野郎がいないため、非常に浮いているのは言うまでもない。それに周りの女性陣の戦う姿が非常に美しい。この大乱闘でも洗練された姿を出すのは、生粋の女性という性別だから成し得るものなのだろうな。
「TちゃんはTちゃんのままで良いのです、性別など関係ありませんよ。」
「そうですねぇ。それにイヤラシい目線で見つめる存在を蹴るのも醍醐味ですし。」
「あー、確かに。」
「何とも・・・。」
相変わらず異性に関して下心目線で見れば、周りの女性陣に殺気に満ちた目線で睨まれる。身内の女性陣なら分かるが、最近はトラガンの女性陣からも睨まれている。この様相からして非常に居辛いわ・・・。
「それでもナツミA様方やルビナ様方の力を出せる技を除く場合だと、力仕事をする場合は本当に助かります。その部分は女性は非力としか言い様がないかと。」
「・・・9女傑の中で逸脱した3人がいてもか?」
「むっふー♪ ビッグ・レディまっしぐらわぅ!」
今ではエリシェとラフィナの専属警護者になる9女傑。その中のメルデュラ・リヴュアス・メアディルは身内女性陣の中で一番体格が良い。彼女達なら力仕事はお手の物だろう。
「そう言えば、失礼だけど9女傑の中の3人って歴戦の強者なの?」
「サンフランシスコの壁ってご存知ですか?」
「・・・あの依頼を戦い切ったのですか・・・。」
エリシェが語る内容に、ナツミYUが物凄い驚いた表情を浮かべだした。俺も詳しい事は分からないが、相当な激戦であったと言われている。
「そんな凄い戦いだったのか。」
「アメリカで1・2位を争うマフィア同士の抗争に、地元の保安官郡が巻き込まれたのが発端で。そこに偶々休暇中だった3人が、簡単な装備で挑んだのです。」
「立て前だと、“警護者は依頼を受けねば動かない”とあります。しかしマフィア同士の抗争は熾烈を極め、お住いの方々にまで飛び火したのが発端だったと思います。言わば無償での介入という事で。」
「更に凄いのは、重火器を一切使わず終息させた事です。」
「・・・体躯が成せる技、か・・・。」
驚愕するしかない。マフィアと言えば重火器の使用は当たり前の流れである。そこに重火器を使わずに介入するのは相当危ない。更に言えば3人は女性だ。もし捕まれでもしたら、その後の末路は想像が付く・・・。
「その思われている部分は大丈夫だったそうですよ。」
「これだから野郎は・・・、本当によかったわ・・・。」
「フフッ、本当に女性目線で。」
本当にそう思う。性転換をしてトラガンへの潜入捜査と修行を行った経緯から、女性側の目線に立てるようになった。しかも元の野郎に戻っても、その目線は失われるどころから更に強くなっている。こうして女性陣と共に戦う事で開花させられている感じだ。
「結果だが、ここに3人がいる事が正にそれか。」
「ですね。正に無血革命で終息させました。誰1人として死者を出さずに。まあ負傷者は相当な数になりましたけど。」
「その後の話だと、マフィアからも一目置かれるようになったそうよ。死者が出る事を覚悟の上で抗争を開始したのが、言わば喧嘩両成敗で終わった。そのレディ・パワーに心から感服したそうで。」
「レディ・パワーねぇ・・・。」
警護者の介入は、どちらかの勢力に加担して動く事になる。当然敵対した側からは目の敵にされるのは言うまでもない。更には加担した側からも、イレギュラーな戦闘力を持つ警護者を煙たく思う場合もある。3人の場合は両者共に成敗した事により、言わば仲良しこよしな感じにしたとも思われる。しかも誰1人として殺さずに、だ。
「アメリカは重火器社会で、世界各国から目の敵にされています。国内でもそれらから派生する抗争もありますし。しかしそこは大企業連合と躯屡聖堕チームですよ。幅広い情報網を構築し、犯罪や抗争を未然に防いでいく。まあ全部防ぐ事はできないので、その場合は警護者の出番になりますが。」
「なるほどな。日本は国内での抗争は殆どないから感じなかったが、海外では警護者群が大活躍している訳か。」
「警護者も徐々に変わりだしていますよ。依頼がなければ動かない所を、明らかに理不尽極まりない抗争や紛争には問答無用で介入していく。まあスポンサーが大企業連合と躯屡聖堕チームですから、実働部隊な感じになりますけど。」
「実働部隊ねぇ・・・正に調停者だわな。」
今も暴れる女性陣を見つつ、一服しながら思う。先の軍服事変により、世界規模で警護者の存在が見直されだした。
圧倒的戦闘力で介入するため、煙たく思われるのは無論で目の敵にされるのが通例である。そこで大企業連合と躯屡聖堕チームの出番なのだろう。この2つからすれば泣く子も黙ると恐れられる程の集団に近い。調停者集団とも言えるか。更に突っ込めば裁定者集団に近い。
しかしそれらを面々は大いに嫌っている。人としての人権や尊厳を最優先とするからこそ、問答無用で介入し終息させる。大企業連合も躯屡聖堕チームも、所属する面々の殆ど全てが戦闘を経験しているという。だから天下安穏を求めるのだろうな。
誰よりも悲惨や孤児を悲しむからこそ、大企業連合と躯屡聖堕チームが必要になってくる。そこに同調した形が警護者となる。言わば今のトラガンの位置付けと同じだろう。
今後も抗争や紛争は続いていく。人とは争いの業からは逃れられない。だからこそ警護者の存在が役に立つのだろう。しかも活人技で制するため、誰も殺さずに終息させる。警護者が世界最強の戦闘集団と恐れられるのは、不殺の信念と執念を以ての力だからだろうな。
もし警護者が不殺の信念と執念を解いたら、その時こそ最強最悪最低の存在に成り下がる。某宇宙戦争で挙げるなら、正義の騎士が暗黒面に落ちたそのものであろう。暗黒卿の姿も、あながち今の世界ではフィクションとは言い切れない。
「不殺の精神か・・・。」
「もぐもぐ・・・警護者の最低限の一念わぅね。」
トラガンの女性陣の戦闘力をマザマザを見せ付けられている。戦えば戦うほど力が増すのは気のせいではなかった。何でも吸収して強くなる様は、生粋の戦闘集団と言い切れる。しかも短期間でモノにしていくのだ、非常に恐ろしい様相である。
「常にミツキちゃんの一念に立っていれば、絶対に陥らない境涯よね。」
「だが、大切な人を傷付けられた場合は絶対とは言い切れない。お前やナツミYUが最愛の娘達が正にそれだ。」
「確かにそうですが、私達だけが大切な存在を抱えている訳ではありません。警護者群以外にも大企業連合に躯屡聖堕チーム、どれもが大切な人を抱えています。」
「俺の場合は、差し詰め全員だわな・・・。」
本当にそう思う。今では大切な人の概念が、身内を通り越して世界の人々に拡大しつつある。だからこその警護者の道だ。でなければ、この道を貫く事などできはしない。
「分かった。今後は一同を可能な限り守り通そう。それが俺の警護者としての集大成と取れる。死守とまではいかないが、徹底的に厳守し続けてやるわ。」
「むっふー♪ 念話じゃないけど、Tちゃんの一念が意思の疎通の部分から十分感じ取れるわぅね!」
「本当よね。しかもそれが女性特有の大海原の様に広く深い。まるで母の胸の中に抱かれている様な安心感。」
ミツキが言う様に、俺が胸中で決意した一念が念話の応用で一同に伝わった様子である。この場合は強い信念と執念が一定の力を生み出すと、それが伝わると取れる。ギガンテス一族やドラゴンハート一族の十八番たる念話の触りを理解した感じだ。
「まあ今は、目の前の愚物を片っ端から叩き潰すとしますか。」
「いいねぇ・・・そのギラ付いた殺気、ゾクゾクするわぁ・・・。」
「ウッシッシッ♪」
一服をし終わり、両腕の拳を鳴らしながら戦場に介入する。休憩は終わりだ、ここからは全力で叩き潰すとしよう。また殺気も出ている事からか、それをいち早く察知したシュームが同じ様に殺気を出していた。彼女の場合は他者の一念に同調や共感する部分があるのだろうな。その強さを漸く窺い知れた感じである。
残りの残党も彼女達と共に徹底駆逐して回った。当然殺害はしないが、二度と間違った道に進まないように楔を打つ必要はある。それこそ傭兵軍団には死ぬ様な恐怖感を叩き込みつつ、人型機械兵器は生命体ではないため完全破壊を行っていった。
言わばこの人型機械兵器の完全破壊の姿で、傭兵軍団に死ぬ様な恐怖感を叩き込んでいると言っていい。人である・人ではない、その差ではあるが。不殺の一念を解いたらどうなるか、それを徹底的に見せ付けていった。
この部分は俺は無論、シュームが得意としている戦術のようだ。普段は見せない末恐ろしい恐怖の姿を曝け出している。となると、普段は態と力をセーブしている感じだろう。
それでも、結果的に悪道に陥る存在が少なくなるならそれでいい。そのためには、俺は今の役割を徹底的に演じ続けてやる。それが俺の生き様だ。
第5話へ続く。




