第2話 海上防衛網4(キャラ名版)
落ち着いた頃を見計らい、早速行動を開始しだす。既に超大型豪華客船は出航していた。高所と水は苦手だが、船酔いや強いては乗り物酔いはまずない。環境に順応すれば動く事ができるのは嬉しい限りである。
また今回の依頼は船上での大規模パーティーの護衛だ。事実上、逃げ場はない。それは逆に襲撃者に対しても言える。そこでミツキとナツミAには隠密行動を取って貰う事にした。
姉妹やナツミツキ四天王の本領発揮は裏方作業。こういった隠密行動で真価を発揮する。それに動物的な直感と洞察力が強いミツキに、物事を強烈なまでに見定めるナツミAの実力。この2人に掛かれば隠密ほど効果がある行動はない。
ナツミYUは護衛対象を守りつつ動くとの事だ。その彼女を支えるのが俺になる。彼女が言う様に、公私共のパートナーになれれば幸いである。これを面と向かって言ったら、何を言われるか分かったものではないが・・・。
ちなみにエリシェとラフィナには専属の護衛がいる。シンシア・メルデュラ・トモミという人物である。特にメルデュラはナツミツキ四天王に匹敵するほどの裏方作業に通じており、妨害工作などはお手のものとか。
また今回の護衛対象は前者のエリシェとラフィナなのだが、態とバトラーとして動いているという。影武者としてシンシアとトモミが担うらしい。カツラやウィックを付けて、しかも髪まで染めての念の入り様である。
更に遠方で活躍中のスペシャリストも召集との事。エシェラ・ダーク・ディルヴェズLK・ウィレナ・リヴュアス・メアディルと。よくぞまあレディースばかり集めたものだ・・・。
ただ実力は火を見るより明らかだな。ナツミYUが内部に秘めるオーラが、彼女達からも痛烈に滲み出ている。
俺はタキシードに黒コート、そして覆面の出で立ち。背中には格納式の方天画戟を装備し、両腰にはミツキ愛用のマグナムを借りている。また日本刀も健在だ。
対するナツミYUは怖ろしいまでの妖艶なドレスを身に纏っている。何でもこの姿なら相手から客人として間違いさせて、そこを鋭く突くのだという。正しくキラービーそのものだ。
ミスターT「大企業連合が成せる技、か・・・。」
ナツミYU「三島ジェネカンとシェヴィーナ財団、それに各国や国内の主力陣が一同に介しているそうよ。」
ミスターT「要人襲撃には打って付けだな。」
集まりの内容には関知しなかった。これは警護者としての最低限のマナーだ。ただし、相手が必要と言うのなら別である。それに俺達の本題は、この大会議を無事終える事が重要だ。
ミスターT「しかし、エリシェの顔見知りも凄いものだわ。」
ナツミYU「各国の支社で活躍している専属の警護者を召集したそうよ。本来なら彼女達だけで済むらしいけど、保険を掛けて私達も呼んだみたい。」
ミスターT「懐刀は多い方がいいわな。」
ワインと見せ掛けて紅茶を啜る。俺は酒が大の苦手だ。飲もうものなら、その後はどうなるかは分かったもんじゃない。ナツミYUもワインと見せ掛けて紅茶を啜っていた。
ミスターT「先刻の襲撃者みたいに、ブツを持参した場合の対処はどうする?」
ナツミYU「ミツキさんとナツミAさんが任せろと仰ってましたよ。今は陰で半ば暗躍していると思います。」
ミスターT「ハハッ、暗躍か。その表現頂きだの。」
まるで闇の中を疾走する地獄の番犬ケルベロスの如くである。彼女達の真価は裏方で発揮するという事が十分肯ける。だから俺達の事務所の名前もケルベロスにしたのだろう。
ミスターT「何事もなければいいんだが。」
ナツミYU「そうならいいけどね。」
ソッとグラスをテーブルに置くと、今までの温和な表情が消え失せるナツミYU。俺もグラスをテーブルに置き、彼女が気配を向ける方を見つめた。
この超大型豪華客船は、全盛期のアルカトラズ監獄を彷彿させるぐらいの堅固な監視体制を敷いている。
船内にいる人物は全て個別のIDタグを所持されており、仮に持っていなくても奥の手で監視されているとの事だ。何でも衛星軌道上からのGPSレーダーにより、この船内を常に監視しているという。
まあ上船した人物達が超重要人物ばかりなので、このぐらいは当たり前だろう。その中で場違いな雰囲気の人物が数人、周辺のテラスを徘徊している。ざっと10人ぐらいか。
どうやってこの防衛網を掻い潜ったのか不思議でならないが、今は連中の動向を探るしかない。問題なのは広範囲炸裂装置こと爆弾が使われていたりする部分だが、ここはミツキとナツミAに任せるとする。
・・・もしかして、この大会議を襲撃する人物を態と招き入れたのか・・・。だとすれば自然と乗船できるのも肯ける。敵対人物を手の内に入れ、そこで叩き潰す。怖ろしい事を企画するものだ・・・。
となるとエサはエリシェ達自らが担ったという事か。そこを超一流のスペシャリスト達で徹底的に駆逐する。大企業連合の考える徹底抗戦というか、それには脱帽するしかない。
ミスターT「どうする、俺は左に行くか?」
ナツミYU「そうね、私は右に行くわ。挟撃して様子を見ましょう。」
静かに動き出す彼女。酔い醒ましにテラスに出る振りを演じている。何から何まで凄い女傑である。俺は逆に堂々とテラスに出てみた。威風堂々の姿でどう出るかを見てみよう。
俺が左舷のテラスに出ると、不審な人物達は余所余所しくしだす。対して右舷のテラスに出たナツミYU。付近にいる不審人物達は何げない雰囲気だ。これは面白い事になりそうだ。
すると突然、大振動と共に爆発音が響き渡った。それに驚くも、もっと驚くのは不審人物達の様相だ。自分達の予想とは別の展開に至った、という雰囲気だろうか。
船内の人物達は大慌てで動き出す。しかしそれがまるで演じているかのような雰囲気なのが何とも言えない。これはひょっとして・・・。まあともあれ、俺達の方も動くとしよう。
右手で鞘から日本刀を抜き、左手で腰のマグナムを手に持った。それに殺気立つ不審者達。俺は態とらしく滲み寄るように威圧を掛けていった。ちなみに正面は船尾の方角である。
対してナツミYUの方は凄まじかった。詳しくは窺えないが、その場に蹲るようにする。そして突然立ち上がると、不審者に向けて拳銃を発砲しだすではないか。
彼女の出で立ちはドレス風のバトルスーツ。ミニスカートから織り成す妖艶な姿はフェイクのようで、どうやら太股の付け根に愛用の拳銃を隠し持っていたようだ。隠し持つとすれば、そこしか考えられない。何ともまあ・・・。
これ、あの勢いだとこちらに回ってきそうだな・・・。
予測した展開になっていった。目の前の不審者達が逆に後退りしだした。つまり俺と対面しながら、俺の方に向かうようである。つまり反対側のナツミYUの猛攻が迫ってきている証拠だろう。
意を決したのか、隠し持っていたダガー風の刃物を取り出していく彼ら。そこに突然銃弾が襲い掛かってきた。その射線上を見ると、甲板のマストの最上部。そこにスナイパーライフルを構えるナツミAがいるではないか。
更に突然現れるミツキ。テラス上部に隠れていたようで、降り立つと両手のマグナムで相手を狙撃していった。一切の無駄がない強烈な一撃である。
あっと言う間に不審人物の掃討は終わった。予測した通り、連中は総勢10人。大会議を狙った妨害工作のようである。他にも船内の探索を入れたようだが該当する人物はいないとの事だ。
またあの爆発はエリシェ達が自作自演で行ったようである。更に上船した人物達の右往左往も演出だったようだ。これらにより不審者を炙り出し、そこに鉄槌を下した形になる。
戦闘もナツミYUが猛攻を加え相手を怖じさせ、俺が不動で威圧を掛け続けていた。そして残る人物達が動き出そうとした所を、ナツミAとミツキが奇襲した形になったのだ。
これ、どうやら船内探索に赴いた時にミツキが発案したらしい。敵を欺くには味方からと言うのか、俺やナツミYUには全く知らされていなかったからな。
まあ長期戦と踏んでいた展開が早期対処できたのは幸運な事だ。それに狙撃された不審者達は全員死亡していない。ただ両肩・両腕・両脚を打ち抜かれたのは言うまでもないが・・・。
また全ての妨害要素を排除して、改めて大会議となるようだった。が、これもまたフェイクだったようである。大会議を行うと偽りの情報を敵方に流し、不審者達を招き入れた。そこを叩き潰した形になる。つまり今回の大会議はなかったのだ。
う~む、妨害要素を排除するための大規模な演出か。ここまで大袈裟にする事で重役が集うと見せ付けたのだろう。何から何までスケールが違いすぎる・・・。
ミスターT「・・・出鼻を挫かれた気がしてならない・・・。」
ミツキ「まあそう言わんでわぅよ。」
大会議は行わず、埠頭に戻るまではパーティーで時間を潰す事になる。ドレスに着替えたミツキとナツミA。が、片っ端から出し物を食い尽くすミツキに呆れ顔のナツミAである。
ミスターT「まさか遠距離射撃の名手だったとはな。」
ナツミA「病床の頃にプレイしていたゲームの影響ですよ。それを実戦に取り入れた形です。実際に戦闘訓練をしなければなりませんでしたが、問題なくこなせました。」
自慢気に語る彼女。何でもナツミツキ四天王が言うには、ナツミAは生粋のゲーマーとの事。それに影響されたのがミツキや彼らとの事だ。う~む・・・この6人は怖ろしい・・・。
ミスターT「なあ、エリシェ。今回は俺達は必要なかったんじゃないか?」
エリシェ「いえ、それはありませんよ。正直に申し上げれば、貴方達の実力を窺いたかったのです。それに今後は別の展開も在り得るでしょう。今回の展開がお役に立てれば幸いです。」
紫色のドレスを身に纏った彼女。またラフィナは赤色のドレスを身に纏っている。他には専属のレディース警護者も、それぞれにドレスを身に纏っている。どうやら社交的な部分も学んでいるようで、この仕草とかから十分痛感できた。
ナツミYU「私の方も正直に言うとね、貴方がダウンしていた時のミツキさん達の言動。アレで何か企んでいる事が分かったのよ。でもここは知らない方が動けるかもと思って、態と貴方の傍にいた訳。」
ミスターT「何だ、本当に居てくれた訳じゃなかったのか。」
ナツミYU「えっ・・・いや、そうではないけど・・・。」
態とらしく残念がってみた。それに申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女。まあ実際に当時は動ける状態じゃなかったのは事実。いてくれるだけで安らいだのは言うまでもない。彼女がどんな強かな思いを抱いていようとも、俺はそう感じたのだから関係ないわな。
ミスターT「反省して貰うため、後で船尾甲板に来るように。」
ナツミYU「え・・ええっ?!」
ミツキ「ぬぅーん、オシオキタイムわぅねぇ。」
ナツミA「もっと酷い事をされそうよねぇ。」
俺の悪態に悪乗りする姉妹。それに顔を青褪めるナツミYU。それに周りの女性陣は小さく笑っている。この何気ない雑談の所以はミツキ縁なのだから不思議でならない。やはりこの姉妹は俺の永遠の師匠そのものだ。
その後も雑談に盛り上がる船内。特にミツキの明るさは超絶的で、それらが周りを大いに沸かせていた。見事な手腕である。
そんな中、俺はナツミYUを連れて船尾に向かった。彼女の方はエラい青褪めているが、今は素直に従って貰うとする。
ミスターT「うぇ・・・ここも高い・・・。」
ミスチョイスだったようだ。船尾から後方海面を見ると、かなりの高さである。立ち眩みを覚えると、咄嗟に支えてくれるナツミYU。
ナツミYU「大丈夫?」
ミスターT「あ・・ああ、すまん・・・。」
彼女が支えている構図だが、体格の問題から俺が彼女を抱き締めている図にも見える。それを感じると顔を赤くしだす。
慌てて離れようとする彼女だが、俺の方は支えを失うと非常に困るのが現状。今度は逆に優しく抱き締め返した。それに一層顔を赤くしていた。
ミスターT「大丈夫、そのままで・・・。」
ナツミYU「あ・・はい・・・。」
ナツミYUの身体を支えとしながらも、最大限の抱擁をしてあげた。先程のダウンした時の礼でもある。胸の中に収まる彼女の身体は、超絶的な動きをするとはとても思えない。
ナツミYU「・・・もしかして、反省って言ってたけど・・・嘘?」
ミスターT「さあ・・・どうでしょう?」
俺の言葉に膨れっ面になっていく。そんな彼女の顔を両手で優しく持ち、ソッと唇を重ねる。そのまま額と額を合わせた。額合わせは恩師が困っていた時に行ってくれた癒しの厚意だ。
ナツミYU「・・・大胆ね。」
ミスターT「へぇ・・ならディープの方が良かったのかね?」
ナツミYU「え・・それは・・・その・・・。」
ミスターT「ハハッ、ごめんな。」
額を合わせたまま語る。今の口付けに相当緊張しているようだ。ただ額の合わせで即座に落ち着きを取り戻している。この額合わせの効果は絶大である。
ミスターT「・・・君の胸に空いた穴を埋められる存在には、なれるかどうかは分からない。だが、お前が望むのなら・・・できる限り応じるが。」
ナツミYU「・・・ありがとう。でも今はこのままがいいな・・・。」
ミスターT「フフッ、お望みのままに。」
抱擁と口付けと額合わせで、心ここに非ず状態のナツミYU。しかしその雰囲気から、心中に燻る不安は薄らいでいるのが良く分かる。
ミスターT「さっきのお前の言い回しじゃないが、これは俺の本気だからね。お前に嘘偽りで接するのは失礼極まりない。」
ナツミYU「うん・・・ありがと・・・。」
ミスターT「ありのままの姿で、そんな君が好きだから・・・。」
俺の言葉に涙を流す。その彼女に心の篭った口付けをしてあげた。しかし先程は俺からの軽いものだったが、今度は彼女から痛烈な口付けを返された。この度合いからして、相当な思いが込められているとしか言えない。まあ少しでも心が安らぐのなら嬉しいが・・・。
口付けを終えると、すっかり普段の彼女の姿に戻っていた。顔は赤いままだが、瞳は今までに見た事がないぐらいに据わりを見せている。
その彼女を胸に抱きながら、今は静かに時を過ごした。不思議な事に近場の高所と水の恐怖が全くないのには驚くしかないが。間違いなく彼女の癒しの一念が、俺の恐怖心を抑えているのだろう。本当に素晴らしい女傑だ。
埠頭に戻るまでの航海の間、俺はずっとナツミYUを抱き締め続けてあげた。何も言わず心を通わせるのは、実に痛快極まりないものである・・・。
第3話へ続く。