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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第2部・激闘と死闘
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第2話 深海調査依頼1(通常版)

 高々度襲撃事変から数週間後。諸々の流れから不穏な動きが目立ちだしている。特に顕著なのが、大企業連合の総帥エリシェのダウンだ。それにより外部からの横槍が目立っているとの事だ。


 彼女は今は大事を取って休んで貰っており、臨時の総帥をスミエが担っている。例の性転換や体格の調整ができるペンダントを駆使した、完全な影武者的なものである。副総帥は引き続きラフィナが担っている。


 このプランはシルフィアの発案らしく、スミエでなければ担えないと言うのだ。ここは恩師に任せるしかない。まあ彼女自身、この手の行動はお手の物のようなので問題ないだろう。


 しかしまあ、頭が倒れれば要らぬ横槍か。外部からの大財閥へのヤッカミが強い現われとも言える。それだけ影響力が強い証拠の裏返しだろう。ただし、大財閥内部はエリシェのダウンにより一層奮起しだしているのが何とも言えない。



 そもそも前回の依頼への襲撃は、明らかにこちらを潰そうと画策している連中の回し者に過ぎない。言い換えれば、連中にエリシェが倒されたと思っても良い。これには大企業連合全体が怒りの声を挙げ出した。敵対側にすればチャンスと取るのだろうが、こちら側も今以上に団結力が増したという流れになった。これは敵対側にとっては逆効果だろう。


 特に顕著なのが躯屡聖堕の面々だ。ヘッドを元に結束力を高める彼らにとって、そのヘッドへの攻撃は大反撃の合図にも繋がる。正に獅子の尾を踏んでしまったと言い切れた。仲間がやられたのに激昂しない仲間などいない。躯屡聖堕チームはそういった純粋熱血漢の集まりそのものだしな。


 案外、エリシェの負傷は内部と外部への揺さ振りになったのかも知れない。外部はここぞとばかりに攻めてくる要因となり、内部は一段と団結力と結束力を高めるに至ったのだ。


 それでも確実に言えるのは、このぐらいで一喜一憂する外部はまだまだ甘いという事だな。大企業連合・躯屡聖堕チーム、そして警護者軍団。こちらはより一層強い一念を抱いて進み出したのだから。




 エリシェへのお見舞いを終えて喫茶店に戻る。厨房とカウンターでは、新しく雇った女性達が奮闘中だ。フィオヌとレーティスという姉妹で、トラガンのヘッドはエルシェナの三つ子姉妹の次女と三女になる。


 エルシェナ自身はトラガンの運営があるから動けないが、逆にフィオヌとレーティスの2人は躯屡聖堕チームの元で数年に及ぶ修行を経て戻ってきた。ある意味、長女を超える警護者の実力を持っていると言える。ただ逆に外交や対人が苦手であるため、こうして喫茶店業務で慣れさせているようだ。


 相変わらず奥の一角ではミツキとナツミAがDJを担い、ラジオ放送を繰り返している。今ではこの流れが当たり前になりつつある。地下工房では四天王とミュティ・シスターズやルビナが新たな得物の開発に挑んでいた。


「エリシェ様はお変わりなく?」

「ああ、超が付くほど元気だったわ。数週間前に腹を撃たれたのにな。」

「何度か身辺警護を請け負いましたが、その活発さは姉を超えるものですし。」

「彼女のウリはタフネスさだろうな。」


 カウンターに座り一服をする。この2人はエルシェナと違い、調理師免許を取得済みだ。よって厨房をローテーションで任せる事ができる。姉がトラガンの運営に一辺倒だったため、2人の妹は多岐のスキル取得に奔走できたのだと言う。何れ3姉妹揃ってトラガンを支えるようになるだろう。


「そう言えば、マスターも戦闘機のライセンスを取得なさるそうで?」

「完全に取る訳じゃないけどね。レプリカTa152Hを単独で操縦できる位になれれば良いわ。まあ・・・高所が苦手だから、実際に乗る事は希だろうけど・・・。」

「高所恐怖症なのに戦闘機乗りは・・・。」


 俺の苦手とする2つの要因に、この姉妹も呆れ返っている。しかし実際に怖いものは怖い、これだけはどうする事もできない・・・。まあメンタル面が凌駕している場合は、それらの苦手要因を押し殺す事はできる。ただし、その状況は滅多に訪れないが・・・。


「それでもエリシェにした行為は絶対に忘れん。確かに不測の事態で防御面が疎かだったのは確かだが、そもそも襲撃事態でそれに至ったんだ。この部分は必ず親玉を叩き、一矢報いてやるわ。」

「そこは同調します。私達も数多くの依頼の中で、仲間が倒れる事を目の当たりにしてきました。その時の痛烈な怒りと悲しみは忘れられません。」

「私達にできる事は限られていますが、それでもできる事をし続けるまでです。そのための警護者の道ですから。」

「・・・エルシェナとは全く違う生き様だわ・・・。」


 本当にそう思う。長女エルシェナは知略的で大局的に動く事が多い。正にヘッドに相応しい存在だろう。対して次女フィオヌ・三女レーティスは叩き上げの警護者だ。デュシアLと同じ実戦で実力を掴み取ってきた強者である。三つ子なのにこうも違うのには驚きだわな。



 警護者の世界には異体同心の理が力強く根付いている。個々の戦闘力が重なり合って、今の超絶的な戦力に至っているのだ。そこに追随するのが躯屡聖堕チームや大企業連合となる。こちらも凄まじい様相なのだ。


 躯屡聖堕チーム以外にも、大企業連合内でも実戦経験者が数多くいる。叩き上げの実力者が集い合うため、戦烈の戦闘集団とも言えるだろう。その彼らが財閥の運営などをしているのには驚きだが・・・。


 最前線の様相を知るが故に、世上から悲惨と孤児の各二文字を無くそうと奮闘している。だからこそ、躯屡聖堕チームと大企業連合に所属する面々は強いのだ。上辺の右往左往では揺らぐ事など滅多にない。いや、絶対にないと信じている。


 そして根幹に据えるは、ミツキの生き様である。“敬い・労い・慈しみの精神”だ。この点を見失えば愚者になるのは言うまでもない。敵対する人物にさえ手を差し伸べる精神こそが、世上から悲惨と孤児を無くす最強の一手になるのだから。




「はぁ・・・裏方は参るわ・・・。」


 姉妹と雑談をしていると、ボヤキながら入店してくるナツミYU。表情から疲労の色が見て取れる。今の彼女はオブザーバーそのもので、多岐に渡る役割を担っていた。


「おけ~り。と言うかお前さん、総合学園の校長だろうに。このぐらいで弱音を挙げては未来の申し子達に悪いぞ?」

「そうなんですがね・・・。ここ最近の行動、最前線が多かったじゃないですか。その余波なのでしょうけど、裏方がここまで辛いとは・・・。」

「なら俺が暫くの間だけ、向こうの運営を担うか? 教師の免許がないから、教える事はできないが。」

「ね・・願ったり叶ったりだけど・・・大丈夫かしら。」


 非常に不安そうな表情を浮かべてくる。彼女の表情から推測するに、オブザーバーの戦いより教師としての戦いの方が遥かに辛いと言いたいのだろう。確かにその通りだわな。


「何も教鞭を取るだけが教師じゃありませんよ。生徒様方の悩みなどを聞いて回る事も立派な教師の姿です。むしろマスターはその方が合いますよ。」

「姉から窺っています。トラガンでの叩き上げを行ってくれた時、性転換してまで担ってくれたと大変感謝していました。相手のためを思えば、何振り構わず突き進むのが貴方の生き様だと確信しています。」

「その後は彼女に“ミスT”と必ず言われているがね・・・。」


 姉妹の激励何のその。姉の茶化しに参ると言うと、直ぐに笑う2人である。これも彼女から伺っているのだろう。何振り構わず突き進むが、まさか性転換してまではな・・・。エリシェの発案には驚くしかない。


「まあ何だ、俺の生き様が役立つのなら担わせて頂くわ。それで彼らがより一層奮起して行くなら嬉しい限りだし。」

「その姿勢こそが教師に適任している所以よ。生徒あっての教師、この姿勢を欠いては絶対成り立たないからね。」

「頭の悪い俺でも、何が正しく何が間違っているかぐらいは分かるわな。」


 ナツミYUから、教師ではない俺が教師の心得を得ている部分にお墨付きを頂いた。確かに教師たる者、この部分は否が応でも回帰すべき概念である。いや、常日頃から心得ておかねばならないものだ。これが欠落した先が不登校・学級崩壊などに繋がっていくのだから。


「よし、アポの方は何とかしてくれ。己が使命を全うしてくる。」

「分かったわ。ただし・・・囲まれないように注意してね。」


 俺の決意を余所に、意味有り気に語るナツミYU。大体は想像は付くが、今は勢いで進む事が先決だろう。喫茶店の運営はフィオヌ・レーティスに任せれば問題ない。ナツミツキ姉妹は相変わらずの様相だが・・・。



 この事をミュティナ達に告げると、必殺技的アイテムを貸してくれた。何と学園全体を覆うバリアを張れるペンダントである。更には個々人を識別してバリアを展開するペンダントも。先のエリシェ事変と言うか、彼女の負傷から新たに開発したテクノロジーらしい。これなら不意の襲撃には対処できる。


 俺が行く先々で襲撃を受けるのが分かっているのだから、本来なら動かない方が得策だ。しかしだからと言って動かず仕舞いなのもよろしくない。ここはそれらに一切怯む事なく、突き進む姿勢を知らしめていくとしよう。この対策を欠いては負傷者が出る怖れも十分ある。


 もう1つの必殺技として、ミュティナ自身が体躯変換をして補佐に就いてくれると言う。地下工房の開発はミュティラ・ミュティヌが居れば十分らしく、ミュティナは専ら会計の役割を担っていたそうだ。これはサイバーやエンルイが最も得意とするもので、彼らだけでも十分担えるとの事。


 それにミュティナ自身は先のエリシェ事変で共に同伴する予定だった。しかし開発側の人手不足で赴けなかった矢先のあの流れだ。恐らく負い目を感じているのだろうな。ただそれをエリシェは既に見抜いていて、自分に詫びを向けるなら俺を気遣えとも言っている。だからこのタッグに至った訳なのだが。


 療養中でありながらも、最大限周りを気配る彼女の姿は凄まじいものだ。常に大企業連合の総帥として動いているからか、簡単な事では倒れないという決意の現われだわな。それに奮起しだしたのが、先の大企業連合所属の面々と躯屡聖堕チーム全体である。


    第2話・2へ続く。

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