第1話 高々度襲撃3(通常版)
暫くすると、アナウンスで護衛対象と合流したと流れた。窓の外を見ると、3機のジャンボが併進している。しかも機上には不思議な物体を搭載していた。
・・・非常に嫌な予感がする。確かに不確定要素への対策には打って付けだ。しかし逆を言えば、宇宙にある母船や大母船を狙いかねない不安要素に化ける可能性も十分ある。
ただし、この護衛対象のジャンボは人工知能搭載による無人機のようだ。もし不穏な行動をしようものなら、撃墜しても構わないだろう。まあ最悪の事態に陥ったら、だが・・・。
・・・ここは、この依頼を達成させるしかないのかね・・・。
どれだけ待っただろう。複数のフォーメーションを取りつつ、何やら試みている様子だ。こちらは護衛としているが、この高々度では実質為す術はない。
あるとすれば搭載されているハリアーⅡ改やレプリカTa152Hでの応戦だが、この大空では非常に厳しいだろうな。
「・・・ジャンボすら無人機化か。」
「ハワイでの奇襲時に複数の無人機体を拿捕したそうで。それらを解析して運用しているそうです。」
一服したいのだが、周りの女性陣が煙草を嫌うとの事。そこでミツキが用意してくれた、清涼菓子を食している。今回初めて食したが、ハッカの効果が清々しい。最近彼女はこれにハマっているようで、茶菓子がない場合はこれを食しているとの事だ。
「悪側の不穏物質・・・というか、それは全部取り除いてあるんだろうな・・・。」
「何らかの切っ掛けでこちらを裏切るような行動をするロジック、ですか?」
「そう。軍服連中の頭すら分からず仕舞いの現状だ。そのテクノロジーを使うというのは非常に危険だと思わないのかね。」
「今は力があれば何でも使う、が本音でしょう。ギガンテス一族やドラゴンハート一族のテクノロジー流出はなくなったようですし。私達だけが恩恵に肖っている状態です。」
「・・・要らぬ火種を起こさねばいいが・・・。」
俺達だけという特例的要因からして、地球の各国は相当苛立ちを積もらせているに違いない。まあそれでも大企業連合の力や躯屡聖堕フリーランスの力は絶大だ。泣く子も黙るとは正にこの事である。下手な横槍を入れようものなら、国すらも潰しかねられない力を持つしな。それに強烈なバックボーンとしては警護者軍団だろう。
「まあ何だ・・・地球に住む方々へ悪影響を及ぼすのなら、妨害要素は全て叩き潰してやるわ。」
「心から同調します。全ては天下安寧を求めての行動。警護者も大企業連合も全て世界を守る側に動いていますから。実際にそれ相応の実力も伴っていますし。」
俺達は力とは何ぞや、を体現しているようなものだ。今では警護者の世界は、単体戦闘力では世界最強である。軍隊レベルだと各国の特殊部隊が群を抜くが、単体では話にならない。それにオーバーテクノロジーの加勢もあって、正しく名実共に最強と言っていいだろう。
「俺達が誤った道に進まないように戒めているのもあるからの。それに今回の依頼を見る限り、どう考えても胡散臭い。これらを見定めるのも“ミディエーター”だな。」
「ハハッ、英語で示しますか。“調停者”としての役割を担いつつ、で。」
「力があるからこその重要な役割だな。それに根底は天下安寧、世界の平和でもある。それを世界最強の警護者が担わせて貰うとなると、本当に烏滸がましい感じがする。」
「しかし・・・実際には誰かが担わなければならない、ですね。」
「ああ。だからこそ、世界最強の警護者が適任となる訳だ。堂々巡りだがね。」
話の流れからして、殆ど繰り返している感じがしてならない。しかし実際に担うまでの力を持つかどうかが重要になってくる。それを全て得ているのが警護者界だ。より一層気を引き締めていかねばならんわ。
「俺は一生涯戦い続ける。そこに己の生き様がある限り、な。」
「問題ありませんよ。貴方は貴方の生き様を貫くだけで。そこに同調するのが私達です。皆様も同じお考えですから。」
「ですね。」
この2人の女傑に心から感謝したい。何度も言うが、些細な事で原点回帰できるのは実に幸せな事である。その都度、己自身と対峙できるのだから。これらの切っ掛けすらなくなった場合が、あの愚者共になるのだろうな。
その後も遠方からの護衛は続く。大空とあって護衛のしようがないのが実状だが・・・。それでも今現在の己の使命を全うするまでだ。
突然だった。機外から激しい銃撃に曝された。無数に散乱する銃弾に、一瞬にして修羅場へと変貌していく。しかも尾翼側で小規模の爆発も起こった様子。突然の襲撃に現状は混乱するしかない。
ただこの巨大ジャンボジェット機はギガンテス一族とドラゴンハート一族のテクノロジーを駆使している逸品だ。銃撃こそ防げなかったようだが、外気圧と内気圧の差が生じる最悪の事は防げている。空間の防御壁的なものだろう。バリアとは異なるものである。
突然の襲撃に周りは騒然とするが、何とか落ち着き周りを見渡したが・・・。
「・・・大丈夫か?!」
白煙で薄曇りの機内、床に力なく倒れている人物がいる。その人物に歩み寄り安否を気に掛けるのだが、その人物はエリシェ本人だった。腹に銃弾を受けたようで、出血が広がっている。目を開けて喋り掛けようとしてきたが、それを静止して静かにするように促した。
「だ・・大丈夫ですか?!」
「医療キットを持っていたよな、応急処置はできるか?」
「お任せを! エルシェナ様方に簡単な救護ができる方はいますか?」
「私達も叩き上げられましたから問題ありません!」
エリシェが着用している服を裂こうとするも、防御面を考慮して堅固化してある。そこで背中に格納していた携帯方天画戟を取り出し、その刃先で裂く事にした。流石は一級品の得物、見事に衣服を裂いてくれる。
再び激しい銃撃に曝される機内。俺が携帯方天画戟を取り出すため脱いだ黒コートを、彼女達に覆い被さるように拡げる。この黒コートはマグナムの弾丸ですら貫通させる事はできない代物だ。この程度の銃撃ではビクともしない。
と同時に表から激しい閃光が入ってくる。機外を見ると、無人ジャンボの1機が火を噴き墜落していった。ある程度落下した所で大爆発し飛散する。
(機長、機体の方は問題ないか?)
(こちらは問題ありません。しかし後方格納庫が被弾している模様で、ハッチが開きません。)
(分かった、直接行って対処してくる。)
機長とヘッドセットによる通信を終える。非常に冷静なのが見事だわ。それだけ修羅場を潜った数がモノを言うのだろうな。巨大ジャンボの事は彼らに任せよう。
今も応急治療をしているエリシェの額に、自分の額を当てて頭を優しく撫でた。そして周りの女性陣に後を任せ、後方格納庫へ向かう。格納庫にはハリアーⅡ改とレプリカTa152Hがあるため、どちらかが銃撃により破壊された可能性もある。
後方格納庫に入ると目に映ったのは、激しい銃撃により半壊したハリアーⅡ改の姿だった。これでは飛行は不可能だ。対してレプリカTa152Hは全くの無傷である。
丁度、銃撃を受けたのは巨大ジャンボの右側からだ。格納庫にあるハリアーⅡ改も右側に配置されていた事から、モロに銃撃に曝されて破損した感じだろう。逆に左側にあるレプリカTa152Hは無傷であった訳だ。
このまま半壊したハリアーⅡ改を機内に留めるのは危険だ。しかし後方ハッチは先程の銃撃で右側開閉装置が破損している。これでは機外に出す事もできない。そこで少々強引に動く事にした。
ハリアーⅡ改の両翼には、特注のレールガンが搭載されている。これは実際の弾丸ライフルとしても使用できるもので、取り外して使う事にした。流石はギガンテス一族のテクノロジー品である。全くの無傷だわ・・・。
それに2挺とも取り外したのには意味がある。レールガン自体がオーバーテクノロジーである事から、それが連中に渡るのは危険過ぎる。ここは手元に置くのが得策だ。
2挺のレールガンを構えて後方ハッチに射撃する。電気を帯びた弾丸が後方ハッチに当たると同時に爆発を巻き起こした。完全にハッチを破壊するため、巨大ジャンボの機体に影響がない程度に破壊を続ける。
数分後、後方ハッチは見事なまでに破壊された。これなら従来の使用にも耐えられるわ。
ミュティナから預かっている重力制御ペンダントの効果を使って、半壊したハリアーⅡ改の左翼側の車輪を持つ。難なく持ててしまう部分には毎度ながら驚かされるが、そのまま同機体を巨大ジャンボの表へと放り投げた。
こちらも技術転用の可能性もあるため、落下していくハリアーⅡ改に向かってレールガンを射撃。電気を帯びた弾丸が命中し、機体は木っ端微塵に吹き飛んだ。これで一応は安心か。
表を見ると飛来する飛行物体があった。見た事がない飛行兵器だが、従来の戦闘機と同じ動きができるようだ。これも軍服連中が使っていたテクノロジーの一端だろう。
第1話・4へ続く。
補足、清涼菓子はミンティアです(-∞-)




