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覆面の警護者 ~大切な存在を護る者~  作者: バガボンド
第1部・生き様の理
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第2話 海上防衛網3(通常版)

 数日後、今は東京湾の埠頭にいる。喫茶店の方は先に挙げたメンバーに全て任せてある。このメンバーとは、元暴走族で名高い躯屡聖堕チームだ。今はフリーランスとして何でも屋を営んでいる。


 彼らの経緯は後日語るとして、現地は彼らに任せておけば安心だ。今の俺達は任務を遂行する事だけを考えればいい。


 で、またもや非現実を目の当たりにする。遠方に停泊中の超大型豪華客船は、世界最大の豪華客船の10倍以上だという。裏稼業をしていれば分かる事だが、この船舶には特殊兵装を施してある。


 国家の能力を再現できる程の経済力もそうだが、原子力潜水艦を複数隻停泊させる事が可能なドッキングベイ。特に凄いのが船底だろう。


 上辺は超大型豪華客船だが、水面下は同客船を3隻分のウェイトを占めている。そこに先の原子力潜水艦を停泊させる事が可能という。航空機も配置可能、乗せようとすれば原子力空母すらも格納可能とか。化け物な船舶だ・・・。


 これらを罷り通したのは、各国の裏稼業の実力者からのオファーもあったようだ。傍らにいるナツミYUもその1人という。これら超重装備の乗り物があれば、作戦遂行は完璧なまでに至れると豪語している。



「凄いわぅ~。」

「運用費とか相当掛かりそうね。」


 またもや呆気に取られるナツミYU。これだけの規模の力を見せ付けて、アッケラカンとしている姉妹に開いた口が塞がらない状態だ。俺の方は先の航空機の問題もあり、そんなに気になるものでもなかった。


「・・・私的にはお2人の方が脅威としか言い様が・・・。」

「うにゅ~・・・あー、規模の部分わぅか。」

「確かに驚きましたが、私からすれば貴方の方が驚きですけど。」

「わぅわぅ。これらを平気で運用できる部分が化け物わぅよ。」

「俺には普通の女性にしか見えないんだがね・・・。」


 物に対して特に執着を見せないナツミツキ姉妹。2人が驚くのは語る通り、ナツミYUの手腕であろう。流石は伝説のガンマンと言った所だわな。


 それよりも怖いものを見てしまった。本船があまりにも巨大過ぎるため、通常の港では寄港する事ができない。よって小型船舶で近付き、タラップで本船に乗り込む流れになった。


 その際に真下の海面を目の当たりにする。海面から相当な高さもあり、水と高さとダブルノックアウトを受けそうになった。それに気付いたミツキが慌てて支えてくれた。


「しっかりするわぅよ。」

「無理だこれは・・・。」

「やれやれわぅ。姉ちゃん、Tちゃんの荷物頼むわぅよ。」

「はいはい。」


 倒れそうになる俺を難なく支えるミツキ。それにもナツミYUは驚愕している。ミツキの体格からしたら、俺の3分の1ぐらいしかない華奢なものだ。それがどうだ、問題なく支える様は脅威の何ものでもない。


「さり気なく口説き文句入ってたわぅね。」

「あ・・ああ、さっきのやつか。」

「ナツミYUちゃんの顔を見れば一目瞭然わぅよ。」


 指摘されて彼女の顔を見ると、慌ててソッポを向いてしまう。どうやら彼女に相当好かれてしまったようだ。まあそれでも、この一念で彼女の安らぎになるなら安いものだ。心中には相当の思いを秘めているだけにな。



 船内に入ると、バトラーに出迎えられた。というかエラい若い女性のバトラーだ。水色のロングヘアーが印象深い。しかしミツキと大差ない華奢な体躯からは、信じられないほどの覇気を感じる。


「お久し振りです、ナツミYU様。」

「こんばんは、エリシェさん。」

「・・・大企業の総帥が自らお出迎えか。」


 三島エリシェ。三島ジェネラルカンパニーの社長令嬢だ。実質はオブザーバーを担っているようで、殆ど全権を握っていると言っていい。また傍らには黒髪の女性がいる。エリシェと同じ雰囲気の女傑である。


「初めまして、ミスターT様。それにミツキ様・ナツミA様。三島エリシェと申します。そちら様の事は全てご存知ですので、自己紹介は後日改めてで。」

「ああ、分かった。」

「ダメわぅよ、エリシェちゃん! そちらの方も紹介しなきゃ!」

「あ・・申し訳ありません。参謀のラフィナ=レイリヴァイトです。」

「すみません、よろしくお願い致します。」

「うむ、それでいいわぅ♪」


 案の定の展開だ。世界最大の大企業の社長令嬢とあれば、物怖じしてしまうのが常だろう。しかしミツキやナツミAにはその手は一切通用しない。純粋無垢な性格故に、相手の肩書きではなく一個人を見つめている。これに2人は驚くよりも嬉しがっているようだ。


「物怖じしない性格、か。」

「さっきTちゃんがナツミYUちゃんに言った通りわぅよ。普通の女性にしか見えないと。エリシェちゃんもラフィナちゃんも正にそれわぅ。」


 俺が動けるようになったのを見計らい、持参した茶菓子を頬張りだすミツキ。この美丈夫はどこまで凄いのか、俺には理解の範疇を超えている。本当にナチュラルすぎるわ。


「マスターがそうですよね。目の前の相手は一個人で見つめろ、と。私達もその経緯で今に至りますから。四天王の方もそれを信頼して、裏方の作業を買って出ていますし。」

「そうだったな、本当に感謝しているよ。」


 エリシェとラフィナに案内されながらも、人のあるべき姿を示すミツキとナツミA。それに脱帽といった雰囲気で聞き入るナツミYU・エリシェ・ラフィナ。


「私達の財閥の指針も、ミツキ様やナツミA様のようにあるべきですよね。実際に行動に出すのには難しいものですが。」

「ん~、難しく考え過ぎわぅよ。」

「そうだな。ナツミYUはある程度把握しだしてるが、エリシェとラフィナも生き様の真髄に目覚めれば鬼に金棒だと思うよ。」

「その一翼を担うのがTちゃんわぅね。Tちゃんの生き様に感化されれば、誰だって覚醒するわぅから。」

「覚醒、か。そんな大層なものじゃないがね。」


 船内で喫煙可能とあり、歩きながら一服をした。それに釣られてナツミYUも一服しだす。ササッと灰皿を差し出すラフィナには驚きだが。


 そういえば、ミツキもナツミAも言っていた。俺と会った人物は、例外なく今以上の力を発揮しだすという。この姉妹もそうだが、ナツミツキ四天王もそれで開花したと言っている。


 何でも超絶的な生き様を目の当たりにし、それに触発されて目覚めたのだとか。漠然としたものだが、実際に彼らの成長振りは凄まじいものがある。


 理路整然と解釈できない物事が確かに存在する。この生き様に当てられて、覚醒するのもまた1つと言えるわな。




「到着しました。今後はこちらでお過ごし下さい。」

「にゃっはー! スウィートルームわぅね!」


 超巨大な船舶故に、目的地に着くのに相当時間が掛かった。やっとの思いで到着した部屋、そこは船舶内で一番豪華なものである。ここを使っていいのかどうか・・・。


「ちょっと高過ぎじゃないかここ・・・。」

「いえ、実際に発生する料金はそれほどは・・・。」

「ラフィナさんにエリシェさん、ちょっと・・・。」


 ミツキに手を引っ張られて窓越しに連れて行かれる。そこから一望できる眺めは凄まじいまでの壮大さだ。が・・・同時に高さを見て驚愕してしまった・・・。


「あちゃ~・・・やっぱダメわぅか。」


 俺はその場に座り込んでしまう。感動と恐怖が同時に襲い掛かり、自分ではどうしようもない状態に陥ってしまった。後で伺って分かったのだが、この船舶の全高は東京タワーに匹敵するほどデカいとの事だ。


「た・・大変申し訳ありませんでした・・・。」

「こ・・高所恐怖症だとは知らず・・・。」

「いや・・・構わんよ。ただ、できればソファーに運んでくれれば有難いが・・・。」

「まったく、前途多難よねぇ。」


 俺の傍らまで来るナツミA。すると自分の2倍以上の自重がある身体を、難なく持ち上げてしまうのには驚いた。まるでテコの原理のようである。


「思われている力用ですか。ほら、いつぞやの腕相撲のアレです。」

「あー、あの力か・・・。」

「もしかして・・・貴方は力の出方を把握できるとか?」

「殆ど全て把握できます。人が発する力の作用限界点を見極め、それに力を添えるだけでこの通りで。」


 ササッと俺の身体を操り、ソファーへと座らせる。俺の方は可能な限りの力出しだけで、後はナツミAの力用によるものだ。見事としか言い様がない。


「そのお力は何度か耳にしましたが、実際に繰り出せる方を見たのは初めてです。」

「姉さんは数年前まで、今からでは想像もできない程の病弱な身体だったのです。生きるか死ぬかの瀬戸際で、それを救ってくれたのがTさんでした。」

「そうね。その間にイメージトレーニングで培ったのが、この力用の手法ですよ。」


 実際に演じだす彼女。ナツミYU・エリシェ・ラフィナをそれぞれ手で繋がせて、俺の傍らに座らせる。その3人をヒョイッと立たせてしまうナツミAに驚愕しだした。改めて見た俺も驚愕するしかない。


「Tさんのお陰で、今では健康そのものです。それにミツキや四天王にも何度も支えられ、ようやく今の身体に至りました。」

「私達がTさんと共にあるのは恩返しそのものです。四天王の方も同じ思いですよ。」

「そ・・それは理解したけど・・・この力は・・・。」

「格闘術ではナツミAには絶対敵わないわな。」


 テコの原理を最大限の力で活用した力用、か。病床の時にイメージトレーニングで修行した賜物としか言い様がない。それを体得できてしまったナツミAも凄いものだ。


 ちなみにタラップでのふら付きでも披露していたが、ミツキも同じ様に力用を扱えている。ナツミAほどの力はないが、それでも俺を支えられるぐらいだ。実力は相当なものと言える。


「でもTちゃんの本気は凄いわぅよ。殺気と闘気の心殺し、悪人心折あくにんしんせつは絶大わぅ。」

「な・・何なのそれ・・・。」

「ふふり、今度喰らってみるといいわぅ。命の保証はできないわぅけど。」

「ですねぇ。」


 不気味なまでの笑みを浮かべるミツキとナツミA。実際にこの2人には放った事はないのだが、その実力は彼らを助ける時に実演した事がある。当然相手の襲撃者は心を折られて即死したも当然だったが。


「簡単に言えば、心理戦封じ後手側戦法わぅね。」

「素直にカウンターアタックって言えばいいのに。」

「ノンノン、それじゃ面白くないわぅ。」

「何とも。」


 多分6人を助けた時、少なからず彼らにもその影響は受けていると思われる。彼らが言うには受ける前と受けた後では、雲泥の差の心構えになったとの事だ。それを間近で喰らった相手がどうなるかは、見た事がないので何とも言えないが・・・。


「ともあれ、今はTちゃん動けなさそうわぅね。エリシェちゃん・ラフィナちゃん、姉ちゃんと一緒に船内を全部案内してわぅよ。」

「そうですね。あまりにも広過ぎるので何処が何だか。それに実際の依頼時には地の利を生かす事も大切ですから。」

「か・・かしこまりました。」

「い・・一緒にご案内しますね。」


 戦々恐々といった感じのエリシェとラフィナ。今正にナツミAの実力を垣間見て、更には俺の恐怖度も窺い知った。これに当てられて相当参っているようだ。まあ慣れれば何の問題もないだろう。今は我慢して貰うしかない。


「私は傍にいた方がいい?」

「任せます・・・。」


 若手4人組が船内探索に赴くのを尻目に、態とらしく聞いてくるナツミYU。何事もなければ反論する所だが、今は先程の高所の当てられで動きが取れない。間違いなくそれを狙っての尋ねだろう。何とも・・・。


 傍らに座ると、ジッと俺の方を見つめてくる彼女。一体何をされるかと気が気ではない。しかしその仕草は何処にでもいる女性そのものだ。伝説の二丁拳銃ガンマン・学園の覇者、これらの異名とは掛け離れている。


 本当なら何らかの支えをすべきだろうが、現状が現状なだけに厳しいもの。心中にはどれ程の複雑な思いを抱いているのか。実際に彼女の支えになれるかどうかも分からない。



「・・・まずいなぁ・・・。」

「な・・何だ?」


 エラい沈黙した雰囲気の中、徐に口を開く彼女。こちらも態とらしく聞いてみたが、大体その内容には察しが付く。


「君にね・・・相当恋しちゃったみたい・・・。」

「お前の言動を見てれば、何を今更な感じだけどな・・・。」

「それはそうだけど・・・。」


 う~む、完全に恋する乙女の表情だ。娘達がいるという事から、過去に同じ恋路は至ったとは思う。ただこの雰囲気を察すると、久し振りの感情にどうしたらいいのか分からないといった感じだろう。


「娘達と言っていたが、ご主人もいるんじゃないのか?」

「娘達が生まれる前に亡くなってるわ。」

「すまん・・・。」


 やはりそうだった。久方振りに恋路に走る様相、どうしたらいいのか分からない感情。今まで娘達を育て上げるために捧げてきたのだろう。そこに過去に彼女を助けた経緯がある俺と再会した。複雑な心境から恋路に走るのは何となく肯ける。


「大丈夫よ、娘達がしっかりと育ってくれたから。それにこの裏稼業からして、正直な所だと何時死ぬか分からない。可能な限りの貯えを施しておかないとね。」

「・・・お前を支えられればいいのだが。」

「フフッ、ありがとう。今は大丈夫、でも何れ・・・ね。」


 満面の笑みを浮かべる彼女だが、それが本当の笑顔ではない事は重々承知だ。彼女の力になれれば幸いだが、今の俺にはそこまでの度胸はないのかも知れない。あれば既に動いているだろうから。


 ただ、彼女が何を述べたいか。そして何を望んでいるかは明確に理解できる。これだけは何れ応じなければ失礼極まりない。俺の知らない自身を知っており、更に陰ながら見守ってくれていた。


 受けた恩には報恩で返さねば礼儀に反する。それがどんな形であれ、俺にできる事はすべきである。愚かながらもこれだけは痛烈に分かる。


 傍らにいるナツミYUの頭を優しく撫でてあげた。今の俺にできる精一杯の労いだ。これに驚くものの、先程の笑みとは別の本当の笑みを浮かべてくる。少なくも報恩感謝ができた感じがした。


    第2話・4へ続く。

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