第12話 私利私欲現る3(通常版)
東京湾南方に臨時の基地を置いた。司令塔は小型豪華客船をベースに、その周りに臨時の設備を置いている。領土問題が出そうな感じだが、幸いにもここは日本国内扱いだ。それに特殊部隊や軍服連中の目を引くという事で、日本政府からはお墨付きを貰うに至っている。
国内事情で有事での加勢は望めないが、こういった妥協案を提示してくれる所は流石だわ。我が祖国の懐の深さというか、欲深さがない所は一応関心はする。まあだから隙を突かれて横槍をされたりするんだが。
まあ良くも悪くもその国々の味はある。アメリカから日本に戻ったのは正解だっただろう。それに我が祖国を守るという意味合いの戦いを展開できる点に、日本人として生まれてきた事に心から感謝しているわ。
(国内の駐屯地が殺気立っているわね。自衛隊自体は日本独自の部隊になるから問題ないけど・・・。)
(正にお察し下さい、と言う事ですね・・・。)
数日後、臨時基地は完成した。小型豪華客船を頭にし、レプリカ大和とレプリカ伊400が駐留する様相だ。ハリアーⅡ群の遠方臨時基地として、自衛隊所属のヘリ空母を導入する事にした。これはエリシェやラフィナの計らいと、自衛隊に多大な影響を持つシルフィアのプランである。
(お・・おおっ、やったわぅ! また釣れたわぅよ!)
(・・・はぁ、賑やかでいいわね・・・。)
(逆に賑やかさや大らかさを見せ付けないと、それこそ連中と同じになりますよ。)
今度はレプリカ伊400の甲板で釣りをしているミツキ。日本近海とあって良く釣れるとの事だ。今の所の食事などは全部魚料理である。
(しかし・・・こうもあからさまに見えるのはねぇ・・・。)
(隠し事すらせずに、むしろ威圧的に見せているとも。)
(それだけ私達の力が脅威を秘めている証拠よね。)
念話による会話は俺達や躯屡聖堕メンバーにしか伝わっていない。というかミュティナが言うには、邪な心がある者には絶対に伝わらないというのだ。ここはどういった概念になるのかは不明だが、むしろ好都合であろう。
そしてナツミYUが示すのは、俺達の周りに原子力潜水艦が睨みを利かせている。ハワイからずっと付けられているものだ。一応名目上では監視を付ける事で、行動を自粛させると言うものか。
と言うか相手が間違っているがな。今は一致団結し、軍服連中を完全駆逐する方が先決だと言うのに。これぞ正しく誤った力の使い方だ。しかもそれが世界最大の軍事力を持つ国家が行う事なのだから泣けてくる。
まあそれでも最大限威圧を掛けて来ない所を見れば、俺達の力が遥かに逸脱しているという事になる。三島ジェネカンを含む大企業連合の経済力。そして極め付けはギガンテス一族とドラゴンハート一族のオーバーテクノロジーだろう。衛星軌道上に位置する母船と大母船。それが超絶的な威圧になっているのは言うまでもない。
(全部片付いても、変な目は残りそうだな。)
(そうね。しかし警護者は忌み嫌われる存在。まだ傭兵の方が良いとも。だからこそ自分を持ち続けるしかないし。)
(誰彼が~わぅ♪ おっしっ! またヒットわぅ!)
重苦しい雰囲気を一瞬で変えるミツキの生き様。それに俺は大笑いしてしまった。それに釣られて周りの面々も笑っている。特に念話はミツキの心情すらも透写するため、その純粋無垢な一念に当てられた感じとも言えた。正に彼女の生き様こそ、今の世上に燦然と輝く太陽の如くだわ。
とにかく今は特殊部隊・軍服連中の隙を突ける瞬間を狙い続けるとしよう。奴等を完全に駆逐できれば、以後の騒乱はなりを潜めるだろう。が、もし提携した場合が怖いが・・・。
それから数日が経過。レプリカ大和とレプリカ伊400を完全に使えるようにするため、俺達は徹底的に訓練を積んだ。特に追加兵装として、今までの武装を更に強化した。顕著になるのが弾薬だろう。
先のハワイ沖での艦隊決戦では、早い段階でレプリカ大和の弾薬が枯渇してしまった。後に駆け付けてきたレプリカ伊400に助けられた形だが、単独でも長時間戦える兵装は備える必要がある。
そこで、少々度が過ぎる兵装を施してみた。弾薬を電磁力で射出する超兵器だ。衛星軌道上に位置するギガンテス一族の母船と大母船が武装、電磁加速装置ことレールガンである。
本来なら原発1基ほどの電力がなければ運用はできないと言われているが、そこは既に実戦投入してあるお墨付きだ。ギガンテス一族のオーバーテクノロジーを前にすれば、地球上では実現が厳しい兵装も難なく作れる。
そのレールガンをレプリカ大和に20挺、レプリカ伊400に10挺搭載した。後者の最大攻撃力を持つ砲門よりは小型だが、威力は遥かに桁違いである。超長距離弾道ミサイルをも超える火力は、その一撃で原子力空母を沈めるほどのものとか。
これら兵装は衛星軌道上の母船から提供を受けた。当然転送装置による移送である。この行動が周りにマークされているとは到底思えない。転送装置の力自体、オーバーテクノロジーになる。唯一それを感知できるとすれば軍服連中の軍勢だけだろう。
「“500円玉”をレールガンで飛ばしてやるわぅ!」
「それ、某とあるアニメね。」
「個人兵装泣かせそのものかと・・・。」
超装備がなされたレプリカ大和とレプリカ伊400。それ以外にも動力源や装甲なども以前よりも超強化を施してある。ありとあらゆる自体を想定せねば、今後の戦いは勝ち抜いていく事ができない。まあできれば個人決戦で終えたい所だが・・・。
「このレールガンの威力はよく分からないんだが、相当なものと言えるのか?」
「重力と大気がある地球上での発射は行った事がありませんが、宇宙空間では迫り来る浮遊岩石を一撃で破壊できます。その規模は地球の衛星たる月も一撃ですよ。」
「おういえい、モンスターわぅね。」
本当だわ・・・。このレールガンの一撃が月クラスの浮遊岩石を破壊するという。ただそれは重力と大気がない宇宙空間での威力。どちらも存在する地球上では幾分か威力は落ちると推測できる。物理の法則だと何らかの要因、この場合は重力や大気だが。それらがあるだけ巡航速度は激減するという。案外地球での兵器群は宇宙空間でも通用しそうな様相だわ。
「まあとりあえず、このぐらいの追加兵装で十分でしょう。先程の戦い以上の艦船が出現したとしても、実弾の枯渇はしてもレールガンの枯渇はほぼ有り得ませんから。最低限の弾薬で事足りますよ。」
「言わばレーザー兵器に近いからね。エネルギー源があれば無限大に攻撃が可能と。」
「これはレプリカ大和とレプリカ伊400の動力機関で成し得るものなの?」
「そこは重力制御の理などが役立ちます。少量のエネルギーを増幅増大化させ、それをエネルギー源として射出。小母様がお持ちのライターでも充分なエネルギーを得る事が可能ですよ。」
今正に一服しようと取り出した煙草セットを指し示す。ナツミYUが持つはジッポライターである。それがレールガンのエネルギー源になるというのだから怖ろしい。
「わたの笑いのパワーで、世上から悲惨や不幸を吹き飛ばしてやるわぅ!」
「・・・それができるなら、心から賛同するわ。」
「本当よね。」
茶化しで語ったのだろう内容は、逆を言えば本当に実現してくれれば最強の一手にもなる。笑いで悲惨や不幸を吹き飛ばす、これ程素晴らしいエネルギーは他にはない。ミツキ流のその生き様が正に当てはまると言えた。
ともあれ、これで最低限の長期戦闘に関しては磐石だろう。兵装も弾薬も食料なども問題はない。向こう数ヶ月は単独で戦えるだけの装備は整えられた。
後は向こうがどう出るかだが・・・。ここは静かに待ち続けるしかないわな。
第12話・4へ続く。




