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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
14章 告白のその後で
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パルフェのお菓子を

「ところで王子。お前はあのパウンドケーキに心当たりがあると言ってから、何日経ったと思っている。買えたのなら早く出せ。こうも問題ばかり泉のごとく湧いて出てくると、甘いものが必要だ」

 ディリオンが執務室のソファに踏ん反り返ってオレに言う。

「ディリオン、いつからそんな甘党になったんだよ……」

「問題が山積みになってからだ」


 はあ。

 まだオレの気持ちの整理がついていないんだ。

 パルフェに行くのはつらい。

「…売ってる店はわかってる。ディリオン、自分で行って買って来いよ。城下町の中央商店街の一番端にある、パルフェって店だよ」

「中央商店街というと、ロジャーのやっている店の近くか?」

「ロジャーの店は中央通りから中にはいってるだろ? パルフェは中央通りの端だよ」

「その距離なら近くだろうが。貴様、昨日もトランケに行ったであろう。何故買ってこんのだ」

 だから、気まずくて店に入れないんだって……。

 ってディリオンには言えないけど。


「わかったよ。リサにでも言って買ってきてもらうよ」

 オレは3人を残し、執務室を後にした。




 ランバラルド城は、5つの棟から成り立っている。


 王族の居住地がある南棟。


 重要な客を泊めることもある東棟。


 東棟よりは高い地位にないが、王城にてもてなす必要のある客を入れる西棟。


 舞踏会等が開かれる中央棟。


 使用人が主に仕事をする北棟。

 北棟には食糧庫や庭師の倉庫が併設されており、北棟から南棟にかけて、広い庭園が広がっている。


 確か、北棟から庭を抜けた所に離れがあったな。


 父上が40代に差し掛かろうと言う頃、立てこもるのに建てさせたこじんまりとした建物だ。

 なんでも、父上は、政略結婚を嫌がり、離れを建てさせて母上と一緒に篭城したらしい。


 当時、世継ぎを強く望まれていたにもかかわらず、なかなか子どもができなかったので、年若い側妃を娶るように大臣達から要請があったのだ。


 父上は、最愛の妃がいるのに愛のない側妃を娶ることを嫌い、夫婦で立て篭もったのだそうだ。


 小さい家で夫婦ふたり。

 食事を母上が作ったり(作ったことがなかったから大変だったらしい)、誰にも邪魔されずにそこでイチャイチャできたおかげで、オレ誕生という、オレにとってはなんとも複雑な建物なんだけど。


 そんな両親の、小っ恥ずかしい話を聞いてからは離れには近付いていない。



 気まぐれに庭園まで出て、そこから少しだけ見える離れを眺めた。

 白い、新婚夫婦が喜びそうな乙女チックな建物だ。

 親父のやつ、どんなツラして設計したのか……。

 当時、もう新婚でもなかっただろうに。


 ロッテと結婚できたら、ロッテは王宮に住むのは慣れなくてかわいそうだから、あそこに住むのもよかったな。

 あんなにお菓子がうまく作れるんだ。

 きっと、料理もうまいだろう。

 父上の要望で、キッチンもある。

 王宮と比べたら狭いから、いつでもロッテの姿を見ることができただろう。



 ありもしないことを考えるのをやめて、オレは侍女たちの集まる休憩室に足を向けた。


 廊下の角を曲がると、5メートルほど先に休憩室のドアが見えた。

 パタンっとドアが開くと、白金の髪を編み込んだ侍女が出てきて、オレとは反対側の方へパタパタと走って行った。

 すぐにまたドアが開き、リサが顔を覗かせる。

「王宮内は走ってはいけません!」

遠くから「ごめんなさーい」と声が聞こえた。

 白金の髪の侍女を叱ってはいるが、リサの顔は少し微笑んでいる。

 仕方のない妹を見るような表情だ。

 あの侍女が、かわいいのだろう。


 ドアが閉まる前にリサに声を掛ける。

「リサ、悪いが頼みがある」

「殿下……! お見苦しいところを」

 リサは慌てて部屋から出てきて頭を下げる。

「いや、いい。突然休憩室まで押しかけてきたオレが悪い。新しい侍女か?」

「はい。少し前に入った者で、休憩時間が終わるのを忘れていたようで、慌てて調理場に向かいました」

 ふーん。キッチンメイドか。

 髪の色がロッテと同じだったからか、少し気になった。

「お呼びいただければ、執務室まで参りましたのに…。お急ぎの御用でございましたか?」


 白金の髪の子の走り去った方を、ぼうっと眺めてしまった…。

「あぁ、すまないが、城下町まで買い物を頼まれてくれないか?中央商店街にある、パルフェというパン屋なのだが」

 オレがパルフェと言った瞬間、リサの頬が緩んだ。

「最近、話題のお店ですね」

「話題なのか?」

「はい。侍女の間ですごく人気のある店でございます。恋の叶うクッキーがあるそうで、なかなか手に入らないそうです」


 恋……。

 なんとも、オレが失恋したこのタイミングで恋の叶うクッキーとは……。

 ん?ロッテが作ったクッキーのことだよな?

 だとすると…。

「そのクッキー、恋が叶う効き目はないぞ」

「あら、殿下もご存知なんですか」

「……まあな。で、行ってくれるか?」

「はい。パンを買うのでしょうか?」

「いや、そこで売っているパウンドケーキと、あればクッキーも頼みたい。パウンドケーキは2個で、クッキーはあるだけ」

「かしこまりました。……ディリオン様ですか?」

「よくわかったな」

「殿下は最近外に出ていることも多いですからご存知ないかもしれませんが、甘いものが足りないと言って、ディリオン様自ら調理場を訪れることがあるようで、調理場の人間が困っております」

「あー……。わかった。なんとかしよう。ひとまず、菓子を買ってきてくれ」

「かしこまりました」

 リサはそう言って休憩室に戻って行った。



 リサは、パウンドケーキを買いに行ったらロッテと会うのだろうか。



 何度ため息をついても、オレはまだロッテに会えない。

 せめて、なんでもない顔で、今まで通り振る舞えるようになるまでは。

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