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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
14章 告白のその後で
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え?誰が?

 オレはロッテの口から理解できない言葉を聞いた。

 オレ、ライリーは今日、ロッテに告白して結婚の約束をするつもりだった。


 ロッテが平民でもいいように、根回しは済んでいる。

 ドニーに頼み込んで、カッティーニ家の養女にしてもらうつもりなのだ。

 ドニーには話してある。

 それには、もう少しロッテの事を知らなくちゃいけないから、夕食を食べながらご両親の話とかを聞こうと思っていた。


 マリーはボナールでは下級貴族だった。

 きっと、ロッテもそれなりの生まれだと踏んでいたんだ。




「えっ、あの、結婚してるって、誰が?」

「私が」

「えっ、ちょっと待って、ロッテ、君って歳いくつ?」

「16だけど…」

 ロッテの手を取っていたが、するりと離れる。

 そのままオレの手は、頭を抱えた。


「ちょっと待って、落ち着こう。えーと、まず、ロッテ。君は結婚してるってことで、間違いはない?」

「はい」

 コクリと頷くロッテ。

「もしかして、旦那さんの家に住んでるから、オレに送って欲しくなかった?」

「……ええ。まあ、そうね」


「なんでそんなに若いのに結婚してるんだ!?」

「えーっと、言うなれば政略結婚?元養父の都合で嫁がなければいけなくなったので」

「元養父?」


 ロッテは寂しそうに笑う。


「私には、一切構わない人だったけれど、名目上は私の父になっていて、断れなかったの」

「それって、マリーの旦那さん?」

「違うわ。マリーは私の養父の下で働いていただけ。養父とマリーたちは、ほとんど関係がないわ。だいたい、マリーが親だったら例え義理の親だとしてもそんなこと言わない」


 暗い表情でそう言うロッテに、なんて言っていいけわからない。


「…結婚、嫌だったのか?」

「もちろん、嬉しい訳がありません」

「…旦那、どんな人なんだ?」

「えっと、ガッシリしていて筋肉質な感じで…私ではない正妻さんをお迎えになって、私の他にも第二夫人がいらっしゃって、私は第三夫人です」


 だ、第三夫人……。

 待ってくれ。本当に頭が追いつかない。


 次の言葉が出てこない。

 だが、何を聞いても、何を言っても、ロッテが結婚しているという事実は変わらない。


 ガラガラと、車輪を回していた馬車が止まる。

 御者が町に着いたことを告げる。

「ロッテ、町に着いたみたいだ。君はやっぱり旦那さんの家に帰るの?」

「だって、今はあそこが私の家ですもの」


 目の前が真っ暗になるとは、こういう事を言うのだろう。

 それでも動かない訳にもいかず、オレは馬車からロッテを降ろし、乗り合い馬車の乗り場までロッテを送っていく。


 乗り場まで来ると、ロッテがオレに小箱を返してきた。

「ライ、ごめんなさい。これ…」

「これはロッテに買ったものだから、受け取って。…もしかして、旦那さんに見つかったら怒られる?」

 ロッテは困ったように言う。

「旦那様は私に関心がありませんから、見つかることなんて絶対にありませんけれど…」

「旦那さんが関心がないって?」

「必要がある時だけ呼ばれる関係で、旦那様が普段私の部屋に来る事はありません」

「だったら、もらって?」


 ロッテは躊躇いながらも、ブレスレットはもらってくれた。

 今日は、後ろを何度も振り返りながら馬車に乗り込む。


「ロッテ、今日はありがとう。…またね」

「ええ、また」

 オレはちゃんと笑えてるかな。

 ちゃんと、彼女に手を振って、いつも通り送り出すんだ。

 オレ、笑え!

 心で泣いていても、それを悟らせるな。


 オレは、ロッテの乗った馬車が見えなくなるまで、顔に笑いを貼りつけていた。


 今日一日乗った馬車に戻る。

 馬車に乗り込んだまま、何も言わないオレに、御者がおずおずと声を掛ける。

「殿下、この後は」

「帰城してくれ」


 馬車は動き出す。

 さっきまで目の前に座っていたロッテがいない。


 第二夫人どころか、第三夫人だって?

 必要な時だけ部屋に呼ばれて?

 政略結婚で?


 オレの頭が考えることを拒否している。




 どちらにしても、ロッテはもう他の人のものなんだ。



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