素敵な場所
「まあ!なんて素敵なの…!」
馬車が止まり、降りたところは一面のお花畑だった。
色とりどりの花が咲いていて、天国かと思うくらい。
「ここは王立フラワーガーデンなんだ」
馬車から降りる時に、手を差し出してくれたまま、ライが言う。
「ランバラルドは山の近くの温泉以外、目立った観光地がないんだ。国土全体にあんまり栄養がないのか、作物もすごく手間を掛けてやらないと育たない。隣の国なのにボナールはここ数十年、農作物は豊作だろ?だからランバラルドでも肥料の改良を進めて、植物の研究をしている。ここでは一年中なんらかの花が見られるように、工夫をしてきたんだ」
「ライ、ライ、私、あっちに行ってみてもいいかしら?」
「ん、ああ、大丈夫だよ」
「ありがとう!」
私は走り出した。
塔の上から眺めていた風景。
セリーヌ様は、お母様に手を引かれて王城の花が咲き乱れる庭を歩いていた。
日の光を浴びて、キラキラしているお花たちに囲まれていて、とても羨ましかった。
私が庭に出られるのは夜だったから、もう夜には萎んでいるお花があったり、よく見えなかったりした。
だから、こんなに近くで、太陽の光を浴びているお花が見られるなんて、とても嬉しい。
大きな花弁の花の近く、白い蝶々が飛んでいる。
立ち止まって、そっと指を出すと、蝶々は私の指にも止まってくれる。
「こんにちは。はじめまして蝶々さん、あなたも綺麗ねぇ」
蝶々を指に止めたまま、カーテシーをする。
指を上へと上げると、蝶々はそのまま飛び立ち、私の周りをひらひらと飛んだ。
微笑んでそれを見ていると、今度は黄色い蝶々ごやってきて、また白い蝶々がやってきて。
蝶々達が頭の上でくるくる回る。
走ったり止まったり、夢中になって遊んでいると、後ろからライに抱きしめられた。
「ロッテ、一人で遠くに行かないで」
「あら、ふふっ。ごめんなさい。つい嬉しくて夢中になってしまったわ」
くるっと、ライの方に体の向きを変えたのに、ライの腕は私の腰に回されたまま。
近くでライを見ると、優しい笑顔を私に向けてくれる。
「ライ?なあに?」
「うん、ロッテといられて嬉しいなぁって思って」
そして2人で笑い出す。
ライは私の腰から手を離し、今度は私と手を繋ぐ。
今度は私も走り出さずに、ライと2人でゆっくり歩いた。
花畑の端っこまで来ると、一角に蕾ばかりでお花の咲いていない区画を見つけた。
「ああ、そこは今研究中なんだ。毎年蕾をつけるけど、なんでか花が咲く前に枯れてしまうんだ」
ライからそう聞いて、私はその花の近くにしゃがみ込んだ。
じーっとお花を見ると、今にも蕾が開きそうな気がした。
「ライ、もう少しお水をあげてみて。ほら、ここは日当たりが良すぎて土が乾いてる」
私がそう言うと、ライはどこからかジョウロを調達してきてくれた。
私はそれを受け取って、その蕾のある一角にお水を撒いた。
お水がキラキラと太陽を反射するのが楽しくて、くるくる回りながらお水をあげていたら、足が滑って転んでしまった。
ジョウロからシャワーのように水が出て、キラキラと私を含めてお花たちに降り掛かる。
ライは何も言わずにそれを眺めていた。
「ふふっ、ごめんなさい。つい、楽しくて、ライを置いてけぼりにしてしまったわ」
転んでしまったのも、お水をこぼしてしまったのも可笑しくて、私はくすくす笑いながら立ち上がってライを見る。
「ライ?どうしたの?」
ずっと私を見て動かなかったライが、私が声を掛けるとゆっくりと動き出した。
「…今、君の上に虹がでた」
「あぁ、お水をこぼしたからかしらね」
服も少し濡れてしまったので、手で払う。
少し染みてしまったけれど、冷たくはない。
「……綺麗だ…」
ライはそう呟いて、私を抱き寄せた。
「ちょっと、ライ、あなたまで濡れちゃうわ」
「あっ、ごめん」
パッとすぐに離れる。
「管理棟にタオルがあるから、借りに行こう」
「…うん」
私たちは、手を繋いで来た道を歩いて行った。




