喉を通らぬ食事
支配人さんが出て行き、2人きりになったところで、私はライに言った。
「ライ、申し訳ないけれど、帰ってもいいかしら?持ち合わせがないの。こんなところでお食事なんてできるような金額は持っていないのよ」
ライは目を大きくしてこちらを見る。
「何言ってんだ?ロッテに払わせる訳がないじゃないか。頼むから帰るなんて言わないでくれよ」
「だって、こんな高いところ…。それに、ごちそうになる理由がないわ」
「えぇー…。フレッドのやつ、女の子は奢られたり物を買ってもらうのが好きだって言ってたのに…」
「え?何?聞こえないわ」
「いや、オレが誘って付き合ってもらってるんだから、ロッテからお金をもらおうとは思ってないよ」
「そんなこと言われても…」
「この間、パウンドケーキをもらったろ?そのお礼だと思ってくれればいいから」
パウンドケーキは1050ランで売っているものなのよ…。こんなところの食事と釣り合うわけがないのだけれど、ひとまず、お言葉に甘えることにした。
だって、お金持っていないんですもの。
そして、前菜から始まり、スープ、サラダとコース料理が始まった。
「ところでさ、ロッテからもらったパウンドケーキ、最近仕事場で見たんだけど、パルフェでもう売ってるの?」
「ええ。持って行ける時に3本だけ卸しているの。すぐ売れちゃうみたいだから、あんまり買えないって言われているけれど」
「そうなんだ。友人が無理を言って仕事場の女の子からもらったみたいでね、買って返したい、あわよくば自分ももう一度食べたいって言ってるんだけど、そんなに少ないんじゃ無理かな」
「でしたら、また焼きますよ?」
「ほんと?あいつも喜ぶよ」
和やかに食事は進んでいく。
「ロッテは、出身はどこなの?アーサーと同じ、ボナール?」
くっ、と咽せそうになるが、なんとか持ち堪える。
「どうして、ボナールだと思うの?」
「んー、オレたちが会った森って、ボナールとの国境だろ?なんとなく、あの日に国境を越えて移住してきたのかなって思って」
大丈夫。アーサーも言っていたわ。
入国許可証はちゃんとした物だから、心配することないって。
「ええ、そうよ。ボナールから移住してきたの」
「この厳しい時期に、よく入国できたね」
「お、お店を出すつもりで許可を取っていたから、かしらね」
「ああ、そんなにずっと前からこっちにくる予定だったのか」
「ええ、そうなのよ」
こくんとスープが喉を通るけど、全然味がしない。
「ボナールでは、何をやっていたの?」
「え、えっと、お城で働いていたわ」
「マリーとジュディはお城の侍女っぽいよね。ロッテもなの?でも、マリーと家族って訳じゃないよね?」
今日はライはどうしたんだろう。
根掘り葉掘り聞かれて…。動揺は隠せているかしら。
「私は両親が早くに亡くなったので、マリーに育てられたの。たから、血の繋がりはなくてもマリーは家族よ。アーサーはいいお兄さんだし、ジュディはいいお姉さんだわ」
「………そっか」
ライはお皿から顔を上げて、にっこりと笑う。
料理はメインまで食べ終わっていた。
「ロッテはすごく綺麗に食事をするね。まるで貴族のお姫様みたいだ」
人質姫と忘れんぼ王子をお読みいただき、ありがとうございます。
そして誤字報告、ありがとうございます。助かります。
こんなに誤字が! と、申し訳ない気持ちでいっぱです。
そんな拙い小説ですが、たくさんの人に読んでいただき、評価やブックマークをしていただいて、とても嬉しく思っています。
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まだまだ続きますので、またお読みいただけたら嬉しいです。




