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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
12章 告白への道のり
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…が叶うクッキー

 一昨日、パルフェに卸したクッキーは、次の日にジュディが行った頃には売れ切れになっていたそうだ。

 なので、昨日はパルフェ用のクッキーを焼いて、売り物用パウンドケーキも焼いてみた。

 レーズンを入れて甘酸っぱく仕上げている。

 パウンドケーキは4つ焼いたので、3つはパルフェに卸して、もう1つはライに会ったらあげようと思う。


 全部キレイにラッピングして、バスケットに入れ、今日も私は町へと向かう。

 場所の中から流れる景色を見ると、不思議な気分になってくる。

 もうこの道のりも随分慣れた。

 この国は平和だ。

 こんな所に戦争を仕掛けるなんて、ボナール国王はなんてバカだったんだろう。


 場所を降りてトランケに向かう。

 入口からそっと中を窺うが、今日はライは来ていないようだった。

 それなら、中に入らない方がいいかなと、ロジャーさんにも声を掛けずに立ち去ろうとしたら、ロジャーさんが私を見つけて、凄い勢いで追ってきた。


「待って、待ってロッテちゃん!」

 店から出てきたロジャーさんは、私の肩をがっしりと掴んだ。

「こんにちは、ロジャーさん。そんなに急いでどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも、ロッテちゃんが中に入ってくれないからですよ」

「ごめんなさい。今日は来るのが遅くなっちゃったので、ライがいないならパルフェに行ってクッキーを卸したら帰ろうかと」

 パウンドケーキはたくさん焼けなかったので、ロジャーさんの分がない。

 それなのにライにあげる予定のパウンドケーキをロジャーさんに託けるのは悪い気がして、トランケに入るのはやめようと思ったのに。

「いやいや!ダメです!ライが来るまで待っていてください。このところすれ違いだったので、ライの機嫌が悪いったら…。今日こそは、ロッテちゃんに会わないと、オレたちの胃に穴があきます!!」


 胃に穴があくって…。

「ふふっ、大袈裟ですねぇ」

「…いや、大袈裟じゃないんですよぉ…」

「でも、クッキーを持っていきたいので、パルフェに行きますね。お手伝いとかも終わったら、トランケに必ず顔を出しますから」

「必ず!必ずですよ!待ってますからね!!」


 ロジャーさんと約束をして、私はパルフェに足を向けた。

 パルフェでクッキーを棚に置くと、すぐに3つも買ってくれた女の子がいた。

「たくさん買ってくださってありがとうございます」

 私が笑顔でお礼を言うと、女の子は恥ずかしそうにこう言った。

「あ、あの、ここのクッキー、女の子の間で恋が叶うクッキーって評判なんです。だから、友達の分も頼まれてて」

「まあ、恋が叶うの?ステキね。あなたも好きな人がいるのかしら?がんばってね」

「はいっ!」


 恋が叶うっていうのは単なる偶然だと思う。

 もしかしたら、甘いお菓子を食べて、リラックスした時に想いを告げてうまくいったのかもしれないわね。


「マリー、こんにちは。今日も少しお手伝いしてもいい?」

 マリーは座っているレジの前から立とうとした。

「姫様、ではお会計をやっていただけますか?」

「ううん。私は立ってても大丈夫だから、マリーは座ってて。イートインのお運びするわね」

 もう歳なのに、マリーは私をあまり働かせずに自分が動こうとする。

 でも、私は自分が体を動かす方が好きだから、マリーにはレジに座っていてもらいたい。


「アーサー、こんにちは。今日もよろしくね」

 厨房に向かって声を掛ける。

「ロッテ、いらっしゃい。こちらこそよろしくお願いします」

 そして、早速アーサーからスープをもらい、テーブルに届ける。


 体は忙しく動かしながら、私はまったく別の事を考えていた。


 いいな。あの女の子。可愛かったな。

 頬を赤く染めて、好きな人のことを想って。

 私も、恋というものをしてみたかったな。

 このまま人質でいても、解放されて平民になったとしても、きっとまともな恋なんてできるはずがない。

 だって、そんないわく付きの女、誰がもらってくれるというの?


 物語に出てくるような、王子様は迎えには来ない。


 皮肉なものだわ。

 私ってば、お姫様だったはずなのにね。

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