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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
12章 告白への道のり
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初めてのひとりランチ

 ジュディと交互に町に出る日々を送っているが、とても楽しい。

 町も人も、お仕事もとても大好き。

 世界はこんなにもキラキラしていたのかと、塔の上から見るあまり色のない世界には戻りたくないなと、切実に思ってしまう。


 あれからフレッド様は離宮には訪れず、ボナールの様子はわからない。

 でも、フレッド様もギルバート様も、私がボナールへ帰らなくてもいいようにしてくれると言っていたので、少し安心している。

 それであれば将来を見据えて、どんどん働いて仕事をよりたくさん覚えないと。


 フレッド様かギルバート様のところでメイドとして働かせてもらって、お金が貯まったら、できればお菓子屋さんを開きたい!

 ほんとはカフェを開きたいと言いたいけれど、そんなに大規模なお店は一人でやっていけないから、持ち帰りのみのケーキや焼き菓子のお店がいいかなと思っている。



 今日は私が町に下りる日。

 またパルフェに卸すクッキーを持って馬車に乗る。

 この間から、パルフェに卸すクッキーと趣味で作るクッキーは焼き型を変えているので、今持っているのは大判のちょっと売り物っぽい感じにできている。

 少し多めに焼いたので、久しぶりにトランケに行って、ロジャーさんとライに渡そうと思う。


 馬車を降りて、まっすぐにトランケへと急ぐ。

 お昼より少し早めに町に着くようにして、ランチをトランケで食べようと企んでいるの。

 ひとりでランチなんて、初めてだからドキドキだ。


 トランケに入り、ロジャーさんに声を掛ける。

「こんにちは」

「お、いらっしゃい。ロッテちゃん」

 カウンターの中で洗い物をしていたロジャーさんは、顔を上げてにっこりと笑いかけてくれた。

 まだ少しお昼には早いからか、お店には私のほかにテーブル席に1組いるだけだ。


「今日はライと待ち合わせですか?」

「いえ、特に約束はしていないですよ。またパルフェの新作クッキーができたので、ロジャーさんにお裾分けです。ライにもあるので、渡してもらえますか?」

 私はカウンターに座って、2袋のクッキーをロジャーさんに差し出した。

「ライになら、直接渡してあげれば喜ぶのに…」

「もちろん、今日ライがいたら直接渡すのですけれど、いないので。あと、ランチをここでいただきたいのですが、いいですか?」

「もちろんですよ。何がいいですか?」

「あの、初めて外で食事をするので、よくわからないんです。お勧めのものがあれば、それをお願いしたいのですが」

 ロジャーさんがふ、と口元を緩める。

「初めての店をトランケにしてもらえたのは嬉しいなあ。じゃ、一番人気のサイコロステーキにしよう!ちょっと待っててください」


 席に座って見ていると、ロジャーさんが手早くお肉を焼いて、サイコロステーキと付け合わせの野菜、スープを用意して持ってきてくれた。

 お肉の焼けるにおいが、食欲をそそる。早く食べたい。

 思えば、ボナールにいた時はお肉にももあまり縁がなかったわね。


「あら、お肉の下に何かあるわ」

 ナイフとフォークで少しすくってみると、見慣れないものがあった。

「ロッテちゃんはこういう食事は初めて?お肉の下にはライスが敷いてあるんですよ。タレが染みて美味しいと評判で」

「まあ、ライス!あら本当。とても美味しいです」

 もぐもぐと必死に口を動かす。

 だって、早くたくさん食べたいんですもの。


 夢中になって食べていると、それを見ていてロジャーさんが話しかける。

「ロッテちゃん、ライスが珍しいかい?」

「そうですね。初めて食べました。とても美味しくてびっくりしています」

「貴族はあまり食べないからね。ライスは」


 あぁ、そうかもしれない。タレが染みたライスなんて、パーティのテーブルにはなかったかも…。

 と言っても、私が知ってる貴族の食事は、どうしても王族揃って出なければならなかった、ごくわずかな回数のものだけ。

 もしかしたら、私が知らないだけな可能性もあるけれど。


「ロッテちゃんさー、もしかして貴族のお嬢様だったりしません?」

 もぐもぐと動かしていた口を止めて、返事をする。

「いえ。違いますけれど…」

 貴族は貴族でも王族ですから。

「いやね、なんとなーく、所作がそこらの娘にはないものがあって…。貴族でなくとも、いいとこの商家のお嬢様とか?」

「いいえ。まったく。そんな裕福なところのお嬢様ではありませんけど…」

「そうか。そうですよね。そんな都合良くつり合ったりはしないよなぁ」

 ははは、と力の抜けた笑いをするロジャーさん。


「何とつり合うんですの?」

「いや、なんでもないです。こっちの話です。そりゃ、そうです。貴族のご令嬢がこんな下町の店で肉をあんなにガッツリ食べる訳がないんです。ええ、所作は綺麗でしたが、ほんとにガッツリと」


 なんか、すごくバカにされている気がします…。

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