フレッド様がお帰りになって
「あら、ギルバート様、いらっしゃいませ」
閉じようとしたドアを開けて、ギルバート様を迎え入れる。
「応接室はすぐ使えますよ。紅茶は何を入れますか?」
「ダージリンで」
私は紅茶を用意して、応接室へと向かった。
中に入ると、不機嫌丸出しのギルバート様がソファに踏ん反り返っていた。
「シャーロット!なんだ、あの砂を吐くような会話は」
ギルバート様は差し出したアップルパイを口に入れ、紅茶に口をつける。
怒るか食べるか飲むか、ひとつにできないんですかねぇ。忙しい人です。
「ギルバート様、怒って召し上がると胃に良くありませんわ。そして、何を怒っていらっしゃるの?」
私も来客対応が終わって、一息つくために紅茶のカップを取った。
「ジュディから、今日はフレッドが来るが自分はお使いに行かなければならないからと、シャーロットのことを頼まれたんだ。だから、こっそりと中の様子を窺っていれば、なんだあの身体中がかゆくなるような2人の会話は」
「先ほどから、なんだなんだと言われましてもなんのことだかわかりません!」
チラッと、ギルバート様が私を横目で見る。
「本当にわからないのか?」
「わかりません」
正直にそう告げると、ギルバート様は大きなため息をついて、ソファにだらんともたれた。
「いい。もうわかった。ギルバートがしたことは全部無駄なことだ」
何かお疲れになったご様子で、ギルバート様は目を閉じた。
「もしかして、ご心配をおかけしてましたか?」
「いや、別にそんなことはない。なんでわたしがシャーロットの心配なんぞしなければならないのだ」
つん。と横を向くギルバート様。でもお耳が赤くなってますわよ。
「ところで、シャーロット。フレッドが言っていたボナールが共和制になるというのは本当なのだろうか」
「さぁ…。もうボナールの情報は何一つ入って来ないので…。ただ、国王が大人しく玉座を手放すとは思えないのですけれど」
人を殺してまで得たその地位を手放す時は、それに代わるものを得ようとするに違いない。
綺麗な所作で紅茶を飲んで、ギルバート様は私を見る。
「まあ、共和制を取ろうが王政のまま行こうが、シャーロットは安心してランバラルドにいろ。わたしが身の安全は保証してやる」
「ふふ。ありがとうございます」
「ところで、頼んでいた刺繍はできたのか?」
「あ、はい。すっかり遅くなりまして申し訳ございません」
私は立ち上がり、二階の自室にそれを取りに行く。
そして、引き出しから3枚の刺繍を持ち出した。
両手でそれを持ち、急いで応接室に戻る。
「ギルバート様。ご覧くださいませ」
3枚ともギルバート様に手渡した。
「ほお。苦手と言っていた割にはよくできているではないか」
ギルバート様はテーブルに3枚とも広げて見ている。
糸の色が違うが、デザインはみんな同じだ、
「うん。この緑のものが一番気に入った。蔦が絡まるように刺されている飾り文字も気に入った」
「気にいってもらえるものがあってよかったです」
ギルバート様は上機嫌で刺繍したハンカチーフを眺めていた。
「まあ、次の夜会で奴らに婚約者ができるかどうかは疑問だがな」
面白そうな顔をしてギルバート様が言う。
「あら、何故ですの?王太子様とその側近の方々の婚約者選びの夜会なのでしょう?」
「この間、ディリオン主導で大規模な盗賊の捕縛作戦が決行されたのだが、空振りに終わった。シャーロットもボナールから来る時に通って来たと思うが、国境の森に盗賊が住みついていたらしいが、どうやら事前に情報が漏れたようだ。そんな訳で、あいつらはみんな機嫌が悪い」
「フレッド様はご機嫌悪くなかったようですけど…?」
「フレッドは表情に出さないようにするのが上手いやつだ。それに今日はデレデレしていたからだな」
デレデレになるほどお菓子がお好きなのね。
また今度差し入れして差し上げよう。
「まあ、わたしは夜会で高見の見物をしてくる。面白いことがあれば、教えてやるからな」
ギルバート様は、ニヤニヤしながら残りのアップルパイとクッキーを根こそぎ持って、帰って行った。
だから、私の分のオヤツを残して置いてくださいって何度も言っているのに!
ギルバート様は非情だ。
人質姫と忘れんぼ王子をお読みいただきありがとうございます。
たくさんの方に読んでいただけて、嬉しい限りです。
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まだ、続きますので、また読んでいただけたら嬉しいです




