セリーヌ王女
フレッドは感情を抑えて言う。
「戦争を仕掛けてきたのはそっちでしよ。責任転嫁はやめてよね」
…感情は抑えているが、言葉遣いがいつものものに戻っている。
だが、それを聞いて逆にオレは冷静になれた。
「宰相殿、国王の考えはわかった。貴公のお考えはどうなのかお聞かせ願いたい」
国王の戯言はもういい。と、オレは宰相に向き直る。
「わたくしは共和制にすることに反対は致しません。だが、その時は今ではないと考えています」
ボナール宰相は王の機嫌を取ることなく、まっすぐな目で答えた。
こちらの者はまともだな。
フレッドもオレと同じように感じたようだ。
「では、宰相殿。今後のことは国内で練っていただきたい。明日、また登城します」
フレッドのその言葉を残して、オレ達は席を立った。
ジェイミーを含めて3人、胸糞悪さを引きずりながら城の廊下を歩いていると、遠くから女の声が聞こえた。
「ライリー王太子殿下」
不意に呼び止められ、オレはそれまでの気分もあって、振り返ってしまった。
「なんだ」
あっ、しまった。
王太子だと認めてしまったと無表情の裏で
内心慌てていると、オレ達の後ろに金髪の派手な女が走ってやってきた。
髪にパールの飾りをつけ、多分ドレスに散りばめられているのはエメラルドだろう。
金糸の刺繍も目に痛い。
女がオレ達に近付く前に、ジェイミーが剣を抜こうとする。
「危ないものはしまってくださいませ。ふふ。やっぱりあなたが王太子殿下でしたのね」
女はオレの顔をじっと見つめた。
フレッドがオレを庇うように、女とオレの間に立つ。
「セリーヌ王女殿下。ご機嫌麗しいようで。こちらは王太子殿下の家臣コンラッド。お間違いなきよう」
フレッドの言葉にセリーヌ王女は目を見開いた。
「まあ!身分を隠していらっしゃるのね。大きな声でお呼びしてごめんなさい。でも、わたくしには隠さないでください。わたくし、わかるんですの。以前いらした王太子殿下には感じなかった、王族のオーラが見えますわ」
笑みを絶やさず、じりじりとこちらににじり寄ってくる。
長い髪を靡かせ、自分が美人であるとわかっている仕草に、オレはげんなりとする。
が、表には出さない。
「急ぎますので、失礼します」
礼を取ってその場を去ろうとするが、再度呼び止められる。
「王太子殿下。また、近いうちにお会いする機会もあるかと思います。その時はぜひ、#親しく__・__#させていただきたいと思いますわ」
分厚いメガネの奥から、王女を見遣る。
「親しく、する必要はないと思いますが?」
オレの言葉を聞いて、一瞬目を見開くが、次の瞬間、花が綻ぶように笑った。
「いやですわ。必ず親しくさせていただきます。だって、わたくしは選ばれた王女ですのよ?これから大国となるランバラルドには必要な人間だと思いません?」
「思わんな」
吐き棄てるように言ったが、王女にはわからなかったようだ。
「ふふっ。いつまでそう言っていられるか、楽しみにしていますわ」
大輪の花のような華々しいカーテシーをして、王女はその場を後にした。
「…フレッド。なんなんだアレは!」
「オレに言っても知らないよ」
オレとフレッドが二人で言い合いすることはよくあることなのだが、今日はジェイミーが話の中に入ってきた。
「あの女、危ないと思う。思わず、剣を抜きそうになった」
普段、優しくおおらかなジェイミーが、剣を抜きそうになるほどの何かを持っている王女。
「まあ、オレには関係ないな」




