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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
10章 待ち惚け王子
70/180

ライと待ち合わせて

 次の日、ライとの約束の日(昨日まで忘れていたけど)。

 若草色のワンピースはもう着ていかない。

 今日はボナールでも着ていた、深緑のワンピースにした。

 丈が、町娘とは言い難いけれど、華美ではないのでまあセーフでしょう。

 せめてもの乙女心で、髪型だけはジュディに気合をいれて編み込んでもらった。そこに白いレースのリボンをつけて。


 あとは、昨日焼いたクッキーをバスケットに入れてパルフェに卸す準備をする。

「じゃあ、ジュディ。行ってくるわね」

「姫様、ほんとにお一人でお買い物なんて、大丈夫ですか?」

 実は、ライと会うとは言えなくて、クッキーでもらった売り上げで、買い物をしたいと言ってある。

「大丈夫よ。もう町には何回も行っているし、お金の使い方も知ってるわ」


 ランバラルドの貨幣は「ラン」という単位になる。

 パンが1斤200ラン。クッキー1袋が500ラン。

 金貨銀貨は他国共通通貨だけど、単位が大きいので町中では使いずらいそうだ。

 5000ラン以上は紙幣がある。


「おつりも計算して間違えないようにもらうんですよ」

「子どもじゃないんだから、大丈夫です!」

 私は頬を膨らませて離宮を後にした。



 いつも通り、乗り合い馬車で町まで行く。

 先にパルフェに行こうかと思ったけれど、ライが待っているといけないので、トランケに顔を出すことにする。


 トランケの中に入ると、ライはすでに待っていた。

「ロッテ、来てくれてありがとう」

 満面の笑みで迎えてくれる。

「約束ですもの。あ、でも少し寄り道をしてもいいかしら?パルフェにクッキーを卸したいの」

 バスケットを見せると、カウンターの中にいたロジャーさんも顔を覗かせる。

「それ、町で話題になっているクッキーだろ?ライ、そのクッキー、すごい人気なんだ。売り場に出たら即完売らしいですよ」

 私は照れながら言う。

「卸している数が少ないので、すぐ完売してしまうだけですわ」

 ライもニコニコと話を聞いている。

「へぇ、それはオレも買わなくちゃ」

「ライの分は用意してあります。ロジャーさんの分もありますのよ。はい。クリスさんと召し上がってくださいね」

 バスケットの中から一つロジャーさんに渡すと、私とライはその場を後にした。


 ライと一緒にパルフェまで行く。

 ドアの前で、待っていてとライに伝えて、私は店の中に入って行った。

 今日もお客さんで賑わっている。

「マリー、こんにちは。アーサー、こんにちは」


 マリーはレジの前にいて、アーサーは厨房から顔だけ出して、手を振った。アーサーは忙しいらしい。

「まあまあ、ロッテ。よく来てくださいました。もう少ししたら落ち着くと思うので、中でお待ちいただけますか?」

 マリーがレジを打ちながら言う。

「あ、今日はクッキーを持ってきただけなの。すぐに帰るわね」

「そうですか…?また今度ゆっくりいらしてくださいね」

 しょんぼりとマリーが言う。

 そういえば、最近マリーともゆっくり話せない。

 お店が忙しいのはいいことだけど…。

 そういえば、このお店、いつがお休みなのかしら?


 そんなことを考えていると、お客さんに声をかけられた。

「あの、昨日のウエイトレスさんですよね?昨日オレもクッキー買ったんですけど、美味しかったです。今度、一緒に食事でも…」

 そのお客さんは昨日一番最初に、シチューを持って行った席に座っていたお客さんだった。

「まあ!クッキーも買ってくださったの?ありがとうございます」

 ニコニコとそう言うと、そのお客さんは私の手を取ろうとした。

 そこに、今まで外で待っていたはずのライが、いつの間に中に入って来て、お客さんより先に私の手を取った。


「お客さん、毎度ご贔屓にありがとうございます。売り子に手は触れないでくださいね」

 私の後ろに立ったライがそう言うと、お客さんは何故か怯えて手を引っ込めた。

「いや、あの、またクッキー買いに来ます!じゃ、さよならっ!」

 お客さんはそのまま走ってお店を出て行った。

 ? お急ぎだったのかしら?

 不思議に思って後ろのライを振り返るけれど、ライはニコニコとこちらを見ている。


「さ、ロッテ。早く行こう」

 ライがそう言うので、素早くクッキーを店頭に並べて、マリーに声をかけた。

「じゃ、マリー、また来るわね」

「ちょっと待ってください! ロッテ。ライがいるのはどういうことです!?」

 お客さんが並んでレジから離れられないマリーは、マリーに言わずにライと出かけようとしている私を睨んでいる。


 後で、言い訳を考えてからマリーには報告しよう。

「じゃ、マリー、またね!」

 私はライの手を取って、マリーが引き止めるのも無視してパルフェを出た。


「さあ、ロッテ。どこに行こうか?」

 ライは蕩けるような笑顔で、私を見つめた。

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