ライと待ち合わせて
次の日、ライとの約束の日(昨日まで忘れていたけど)。
若草色のワンピースはもう着ていかない。
今日はボナールでも着ていた、深緑のワンピースにした。
丈が、町娘とは言い難いけれど、華美ではないのでまあセーフでしょう。
せめてもの乙女心で、髪型だけはジュディに気合をいれて編み込んでもらった。そこに白いレースのリボンをつけて。
あとは、昨日焼いたクッキーをバスケットに入れてパルフェに卸す準備をする。
「じゃあ、ジュディ。行ってくるわね」
「姫様、ほんとにお一人でお買い物なんて、大丈夫ですか?」
実は、ライと会うとは言えなくて、クッキーでもらった売り上げで、買い物をしたいと言ってある。
「大丈夫よ。もう町には何回も行っているし、お金の使い方も知ってるわ」
ランバラルドの貨幣は「ラン」という単位になる。
パンが1斤200ラン。クッキー1袋が500ラン。
金貨銀貨は他国共通通貨だけど、単位が大きいので町中では使いずらいそうだ。
5000ラン以上は紙幣がある。
「おつりも計算して間違えないようにもらうんですよ」
「子どもじゃないんだから、大丈夫です!」
私は頬を膨らませて離宮を後にした。
いつも通り、乗り合い馬車で町まで行く。
先にパルフェに行こうかと思ったけれど、ライが待っているといけないので、トランケに顔を出すことにする。
トランケの中に入ると、ライはすでに待っていた。
「ロッテ、来てくれてありがとう」
満面の笑みで迎えてくれる。
「約束ですもの。あ、でも少し寄り道をしてもいいかしら?パルフェにクッキーを卸したいの」
バスケットを見せると、カウンターの中にいたロジャーさんも顔を覗かせる。
「それ、町で話題になっているクッキーだろ?ライ、そのクッキー、すごい人気なんだ。売り場に出たら即完売らしいですよ」
私は照れながら言う。
「卸している数が少ないので、すぐ完売してしまうだけですわ」
ライもニコニコと話を聞いている。
「へぇ、それはオレも買わなくちゃ」
「ライの分は用意してあります。ロジャーさんの分もありますのよ。はい。クリスさんと召し上がってくださいね」
バスケットの中から一つロジャーさんに渡すと、私とライはその場を後にした。
ライと一緒にパルフェまで行く。
ドアの前で、待っていてとライに伝えて、私は店の中に入って行った。
今日もお客さんで賑わっている。
「マリー、こんにちは。アーサー、こんにちは」
マリーはレジの前にいて、アーサーは厨房から顔だけ出して、手を振った。アーサーは忙しいらしい。
「まあまあ、ロッテ。よく来てくださいました。もう少ししたら落ち着くと思うので、中でお待ちいただけますか?」
マリーがレジを打ちながら言う。
「あ、今日はクッキーを持ってきただけなの。すぐに帰るわね」
「そうですか…?また今度ゆっくりいらしてくださいね」
しょんぼりとマリーが言う。
そういえば、最近マリーともゆっくり話せない。
お店が忙しいのはいいことだけど…。
そういえば、このお店、いつがお休みなのかしら?
そんなことを考えていると、お客さんに声をかけられた。
「あの、昨日のウエイトレスさんですよね?昨日オレもクッキー買ったんですけど、美味しかったです。今度、一緒に食事でも…」
そのお客さんは昨日一番最初に、シチューを持って行った席に座っていたお客さんだった。
「まあ!クッキーも買ってくださったの?ありがとうございます」
ニコニコとそう言うと、そのお客さんは私の手を取ろうとした。
そこに、今まで外で待っていたはずのライが、いつの間に中に入って来て、お客さんより先に私の手を取った。
「お客さん、毎度ご贔屓にありがとうございます。売り子に手は触れないでくださいね」
私の後ろに立ったライがそう言うと、お客さんは何故か怯えて手を引っ込めた。
「いや、あの、またクッキー買いに来ます!じゃ、さよならっ!」
お客さんはそのまま走ってお店を出て行った。
? お急ぎだったのかしら?
不思議に思って後ろのライを振り返るけれど、ライはニコニコとこちらを見ている。
「さ、ロッテ。早く行こう」
ライがそう言うので、素早くクッキーを店頭に並べて、マリーに声をかけた。
「じゃ、マリー、また来るわね」
「ちょっと待ってください! ロッテ。ライがいるのはどういうことです!?」
お客さんが並んでレジから離れられないマリーは、マリーに言わずにライと出かけようとしている私を睨んでいる。
後で、言い訳を考えてからマリーには報告しよう。
「じゃ、マリー、またね!」
私はライの手を取って、マリーが引き止めるのも無視してパルフェを出た。
「さあ、ロッテ。どこに行こうか?」
ライは蕩けるような笑顔で、私を見つめた。




