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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
10章 待ち惚け王子
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ギルバート様のハンカチーフ

 ギルバートは、今日も離宮に向かっていた。


 ダンダン、とノッカーを叩くと、シャーロットの侍女、ジュディがドアを開ける。


「ギルバート様、申し訳ございません。主人は今、不在にしております」

「よい。中で待たせてもらおう」

 そう言うとギルバートは離宮の中に入った。


 案内もされずに、我が家のように室内を歩き、リビングへと向かった。

 リビングのソファに腰を下ろすと、ギルバートは不満をもらす。

「ジュディ、いつも思うが玄関でのあの他人行儀な挨拶はなんだ」


 ジュディは紅茶を入れて、ギルバートに出しながら答える。

「だって、どこで誰が見てるか分からないでしょ?不敬罪とか嫌ですよ、わたし」

「わたしがそんなことはさせない。それに、ここは人は来ないのであろう?」

「まぁ、そうですけどね~。念のため。あ、これは姫様からです。ギルバート様の分のクッキーですよ」

 菓子皿に山盛りに積んであるクッキーを見て、ギルバートは微笑む。

「シャーロットもわかってるじゃないか。シャーロットの菓子を食べると、不思議と調子がよくて、勉強の効率も上がるから欠かせないのだ」

「なんなんですかね~。同じ材料で作っても、わたしが作ったのではダメなんでしょ?」

「そうだな。シャーロットには今度別のモノも作らせてみたいな」


 ギルバートはサクサクとクッキーを食べてご満悦だ。

 ジュディも配膳を終えて、ギルバートの向かいに座ろうとした時、ダンダンとまたドアノッカーの音がした。


 2人は顔を見合わせる。

「ギルバート様はここにいるし、一体誰でしょう」

「いいから早く出ろ」

 ジュディは慌てて玄関に向かった。

 ここは王城敷地内にある離宮だ。

 危ない者のはずはないが、慎重にドアを開ける。


「あら、リサさん。珍しいですね、離宮にいらっしゃるなんて」

 ドアの前に立っていたのは本宮勤務のメイドのリサだった。

「ジュディ、忙しいところ悪いわね。わたしと離宮のジュディが仲が良いのを知って、フレッド様に頼まれたのよ。離宮の主人、シャーロット様と言う方はいらっしゃる?」


 ジュディは内心焦ったが、表情には出さずに答える。

「ええ、いらっしゃいますけれど、何か?」

「これからフレッド様がお会いになられるそうです。後ほど、こちらにいらっしゃるので、そのように伝えてね」

「わかりました」


 平常心を保ちつつドアを閉めて、急いでギルバートのところへ行く。

「ギギギギギルバート様、どうしましょう!」

「うるさい。ギが多い」

「ギルバート様!」

「落ち着け。一体、なんだったのだ」

 ジュディへ行儀が悪いと知りつつも、立ったままで冷めた紅茶を飲み干す。

「あー、落ち着いた。あのですね、先触れがございまして、フレッド様が間もなく離宮にいらっしゃるそうです」

 ジュディの言葉を聞くまで、優雅に紅茶を飲んでいたギルバートは、思わず吹き出す。

「なんだって!?」

「だから、フレッド様が離宮にいらっしゃるそうです」

「一度聞けばわかる!なんの用があって…」

「用もないのに離宮に来るのはギルバート様も同じじゃないですか」

「うるさい。フレッドもよくここに来ていたのか?」

「いえ、最初の案内の時と、姫様をお医師に診せた時の2回だけですね」

「なんでシャーロットがいない時に…。まあ、いい。ジュディ、とにかく応接室の準備をしておけ。わたしが町まで行ってシャーロットを連れてくる」

 ジュディは慌てて首を横に振る。

「えぇっ、そんな!なんて誤魔化せばいいんですか?嫌ですよ。ギルバート様が残ってくださいよ」

「バカ者!わたしが離宮にいる意味がわからん。本当なら、わたしはこんなところにいてはいけないのだ。今も家庭教師がわたしを探しているはずだ」

「ギルバート様…サボっていたんですね…」

「そんなことより、なんとか誤魔化しておけよ」

「ええっ、なんて言えばいいんですか!?」

「風呂にでも入っていると言っとけ」

 そう言い残し、ギルバートは足早に離宮を出て行った、


「そんなぁ…」

 ジュディはしばらく茫然としていたが、気を取り直し、応接室の準備を始めた。

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