パルフェの日常
次の週のよく晴れた日、パルフェはオープンした。
最初はガラガラだったのだけれど、なんとロジャーさんが早速買いに来てくれて、トランケに定期的にパンを卸す契約をしてくれたのだそうだ。
で、トランケでパンを食べたお客さんがロジャーさんから仕入れ先を聞いて、パンを買いに来てくれて。
口コミで、徐々に売り上げを伸ばしていった。
私が作ったクッキーはどうなったかと言うと、作れる時にたくさん作って、パルフェに持っていっている。
毎日置けるわけではないため、運がよければ買えるラッキーアイテムとして人気があるそうだ。
店主であるアーサーは、クッキーの売り上げをそのまま私に渡してくれた。
クッキーを店頭に並べて売れ残った日はないそうなので、作れば作っただけ私のお小遣いとなっている。
がんばれば、自分で服が買える日は近い!
ギルバート様の刺繍も、2枚ほど完成した。
できれば夜会前までにもう1枚作り終えたい。
刺繍も完成までの目処が立ったので、今日はクッキーを大量に焼いた。
と、言っても趣味の範囲にしては大量と言うだけで、店頭に並べてしまえば10袋くらいだけど。
「ジュディ、じゃあ行ってくるわね」
今日のお留守番はジュディだ。
「はい。姫様。お気をつけて」
「あ、もしギルバート様がいらっしゃったら戸棚のクッキーは全部差し上げてね。ギルバート様の分だから」
「かしこまりました。最近、ギルバート様はクッキーが食べられないって文句言ってましたもんね」
最近はギルバート様は私がいなくても離宮でお茶を飲んでいく。
ジュディはギルバート様の良い話し相手になっているようだ。
服をボナールから持ってきたシンプルな紺のワンピースに着替えて、バスケットにたくさんのクッキーを入れて、私はパルフェに向かう。
乗り合い馬車を降りて、パルフェに向かう途中でロジャーさんに会った。
「ロジャーさん、こんにちは」
「おおー、ロッテさん。こんにちは。ちょうど昨日の営業でパンがなくなったから、昼の分をもらいにパルフェに行ってきたところなんだ」
「まあ、いつもご贔屓にありがとうございます」
私は営業スマイルでロジャーさんに挨拶する。
「そういえば、ライとの約束は明日だっけ?ライが楽しみにしてたよ」
あ、そういえば2週間後に町に来ますと約束したっけ。
「はい。私も楽しみにしています」
ロジャーさんはそれを聞くと、パンを持ってトランケの方に急いで帰って行った。
パルフェに着くと、お昼時なのもあって、お店は繁盛していた。
パンのレジに人が何人か並んでいて、イートインコーナーにもお客さんが座っている。
レジはマリーが担当していて、イートインに食事を運ぶのはアーサーの役だけど、パンの焼き加減も見ながらだから大変そうだった。
もっと、暇なお店を想像してそのようにしていたので、明らかに人員が足りない。
「こんにちは、アーサー。私、手伝うわね」
「ひ、ロッテ。いや、そんなことをさせる訳には…」
「だって、忙しいでしょう?あまり役に立たないかもしれないけど、少しだけ。ね?」
私はアーサーにそう言い、マリーにも声を掛けてから、売り場の隅にバスケットからクッキーを取り出して並べた。
一度、奥に入って白いエプロンを借りて身に着ける。
「アーサー、今日のスープは何?」
アーサーが厨房から顔を覗かせる。
「今日はシチュー。紅茶はダージリンとアイスのアールグレイだけにしてる」
イートインコーナーは、お店で売っているパンを買って、その場で食べるものだ。
サンドイッチや具材の入ったパンがあるので、それをレジで買って、飲み物が欲しければレジで食券を買って、アーサーに渡すのだ。
アーサーは飲み物を用意してテーブルに持っていくだけのつもりだったのだが、ジュディが暖かいスープくらいはあった方がいいと言うので、日替わりでコンソメスープやシチュー、ミネストローネなども出している。
スープを飲みたい人は、飲み物と同じようにレジで食券を買う。
これがまた城で食事を作った経験のあるマリー作なので、大変好評らしく、あっという間に完売するそうだ。
厨房前の注文台には食券が溜まっている。
シチューが2つにホットの紅茶が4つね。
先に注文してくれているシチュー2つと紅茶2つをトレーに乗せる。
…ただ置くだけじゃだめよね?
お城で舞踏会をやった時に、メイドはどうやっていたかしら?
舞踏会に参加したことも数えるほどしかないので、うっすらとした記憶をたよりにテーブルに向かう。
「失礼します。お待たせいたしました」
背筋をピンと伸ばし、軽く腰を曲げてテーブルにシチューと紅茶を置く。
パンだけじゃ足りなくてシチューを頼んだのは、髭のある恰幅のいいおじさんと、多分その息子(若い方はスマートだけど、顔がソックリ!)だった。
そのお客さんの顔を見てにっこり笑うと、お客さんは私の顔をぽーっと見ていた。
何かおかしかったかしら…。
不思議に思いながらも、次の紅茶を入れに厨房へ戻る。
次の2人は可愛らしい女の子2人。
サンドイッチとクリームをつけて食べるパンをテーブルに置いておしゃべりに花を咲かせていた。
「どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
こちらも私が紅茶を置くと、顔を赤くして私を見ている。
最近、私を見て顔を赤くする人が多いけど、気のせいかしら…。
そのあとも、イートインにシチューや紅茶を運んだり、お客さんにクッキーを勧めてみたりと、人と触れ合うのがすごく楽しかった。
もし、私が町で住むことができたら、絶対にパルフェで働かせてもらおう。
できれば、支店とか任せてもらえたら嬉しい。




