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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
10章 待ち惚け王子
63/180

ライ

 あの日は夜だったのでよくわからなかったが、お店は「トランケ」という名前らしい。

 年季の入った看板に書いてあった。


 マリーやジュディが率先して飾り付けをしたパルフェと違い、たくましい感じのする店構え。

 ドアは開け放してあって、中からは賑やかな声が聞こえてくる。


 そもそも、普通のお店にも入ること自体がない私が、一人でこの賑やかなところに行くには少し勇気が必要だった。

 こっそりとドアに張り付いて中を覗く。


 カウンターに座っている男の人は、一人しかおらず、黒髪をしていた。

 ドアに背を向けているので、顔はわからない。

 あとは、テーブル席に2組のお客さんがいるけれど、昼間なのにお酒が入っているようで、なかなかに盛り上がっている。

 カウンターの前にはロジャーさんがいて、黒髪のお客さんと話をしていた。


「あの~。ほんっとに毎日来ていただいて、ほんっっとに邪魔なんですけど…」

「なんだ。うるさい。客がくるのはいいことじゃないか」

「普通のお客さんなら、ですよ。ライは朝早くから来て、ここでウジウジして帰るだけなんですから」

「ウジウジとはなんだ」

「ウジウジでしょう。まったく。かのお友達を見習って、女の口説き方くらい覚えておかないから、いざという時に逃げられちゃうんですよ」

「あいつみたいな節操無しになりたくない」


 入口から覗いていたのではわからないが、ロジャーさん、ライって言ったと思う。

 よし!入ってみよう!

 もし、あのお客さんがライではなかったら、ロジャーさんにさっきパルフェでもらった試食のパンをお裾分けして、ライを引き取ってもらったお礼を言って帰ろう。


 そろーっと店内に入ると、ロジャーさんが「いらっしゃい!」と声をかけてくれた。

 そして、私の顔を見る。

「おい、ライ。来たぞ」

「何が来たんだ…よ」

 黒髪のお客さんが振り返る。

 その人はやっぱりライだった。


 ライは目を見開いて私を見たが、次の瞬間破顔した。すごく、嬉しそうな笑顔だった。

 立ち上がって、入口の方まで私を迎えにきて、すぐに腕を取ってカウンターの自分の隣の席に座らせた。


「ロッテ、待ってたんだ。ずっと。ちゃんとお礼を言いたくて」

「いえ、あの。お礼はちゃんと言ってもらっていたので、大丈夫です。それより、体はもう大丈夫なのですか?」

 足は太もも全体に渡って切られていたはずだし、腕もちょっと触ると激痛が走るようだったし。

 なにしろ熱が高かった。


「おかげさまで体はかなり回復したよ。2日は動かないでここの二階でお世話になって、その後は結構動けるようになった」

 私に向かってニコニコと話すライ。

 ロジャーさんは、私にオレンジジュースを入れて出してくれた。

「何が2日で動けるようになった、ですか。その後もじっとしていなきゃいけなかったのに、トランケに来て。でも、オレからも礼を言うよ。ほんとにありがとう。あのライを見た時は、心臓止まるかと思ったよ」


 あんまり熱心にお礼を言ってくれるので恥ずかしくなる。

「そんな、私は何も出来なかったです。怪我の手当をしたのはアーサーだし、食事を作ってくれたのは食堂の人だし…」

「それでも」

 ライは私の目を覗き込む。

「オレを見つけてくれたのはキミだよ」

 私を見て、あんまりにも嬉しそうに笑うので、私も嬉しくなって微笑んだ。


 ライはポッと赤くなり、手にしていたグラスで中身を煽った。

「ライ、あんまり飲むなよ。ライはお酒は強くないんだから」

「うるさい、ロジャー。エールくらいなら酔わない」

「酔うでしょう。まだ治ったばかりなんだし、せっかくお嬢さんと会えたんだから、その辺にしときなさい」

 ロジャーさんはライのグラスを取り上げてお水を渡した。


 そうね。あんなに赤くなるのなら、きっとお酒は強くないんでしょうね。

人質姫と忘れんぼ王子をお読みいただき、ありがとうございます。

拙い作品ですが、先日PVアクセス3000を突破致しました。

他サイトの掲載でもやっているのですが、ある数字を突破したら記念に番外編をあげております。

他サイトでは同作品の別章に掲載しておりますが、こちらでは別作品として上げております。

下記URLにて、本日公開いたしました。


https://ncode.syosetu.com/n6725gd/

シリーズ登録をしたので、作品上部のリンクからも、行けるようになっています。


他サイト様の番外編とは違うお話になっておりますので、他サイトからいらした方はご一読いただけたら嬉しいです。


また、ブックマークや評価もありがとうございます。

とても励みになり、今回の番外編公開へと繋がりました。

たくさんの方に読んでいただいているのが目に見えるのが、嬉しい限りです。


まだまだ本編は続きますが、今後とも「人質姫と忘れんぼ王子」をどうぞよろしくお願いします。

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