閉店したお店
「まあ、落ち着いたらマリーも侍女に推薦をして城で雇ってやることもできる。アーサーも服の上からだが、かなり鍛えられているように見える。アーサーも騎士団に推薦して、ふたりとも登城できるようにもできる」
権力のあるギルバート様は事もなげに言う。
しかし、アーサーは首を横に振った。
「オレはボナールで騎士団に所属していました。この戦争では、王命とはいえランバラルドの戦士を傷つけた事もありました。オレは城には顔を出さない方がいいでしょう」
「そうか。それなら尚のこと、別の仕事をしなくてはな。ほら、そろそろ着いたようだ。降りろ」
促されて馬車を降りると、お店が立ち並ぶ町の一角だった。
もうすっかり暗くなっている時刻だけど、飲食店には明かりが灯り、まだまだ賑わっているようだった。
立ち並ぶ店のひとつ、closeの札のかかった店の前にギルバート様は歩いて行く。
鍵を取り出し、ドアを開けて中に入った。
ここがマリーとアーサーの家になるのかしら…?
お店の中は棚やレジのある場所と、少し離れたところに小さなテーブルが二つと椅子が置かれていた。
レジの奥は厨房になっているようだったので、食べ物屋さんだろうか…。
「ここは、ついこの間までパン屋だった店だ。小さなイートインコーナーもあり、そこそこ売れていたようだが、もっと土地の安いところを買って、店を大きくすると言って出て行ったらしい。必要な物は全部持って行ったそうだが、厨房の備え付けの設備と、古くなったレジは置いて行った。テーブルも向こうの大きな店では揃いで買うから置いて行ったそうだ。ここなら城から近いので、この店を買ってみた。どうだ?」
腕を組んでちょっと自慢気なギルバート様。
「仕事は別のところに働きに行ってもいいし、ここで商売をやるのもありだろう。馬鹿正直に食べ物屋にしなくてもいい。マリーが裁縫が得意なら用品店にしてもよい。アーサーが城で働く気がないなら、尚のこと商売を始めるには持って来いだ。わたしは先見の明があるな」
「商売、ですか…」
マリーとアーサーが微妙な顔でお互いを見つめている。
「考えたこともなかったです。ギルバート様、普通の家でもいいんですけれど…」
ぴくりと、ギルバートの眉が上がる。
「なにっ、わたしの提案が受けられないとでも言うのか!?だいたい、ここを手放したら、もうこんなに城に近い家は今空いていないぞ」
それは困ります。うん。
「マリー、ここに住んでも無理にお店を開かなくてもいいのではなくて?」
「そうですねぇ…」
マリーは思案顔をしていたが、アーサーは気持ちを決めたようだった。
「母さん、今オレたちは無職なんだし、お店を開くのもいいかもしれない。なんの店にするかにもよるだろうけど。ギルバート様、ありがとうございます。商売の内容は検討いたします」
「うむ」
満足気なギルバート様がちょっと可愛かった。
「シャーロットには城を自由に出入りできる身分証を発行している。ちょくちょくここにくればいい。二階は居住スペースになるが、シーツやタオル等は用意してある。すぐに眠れるぞ。さぁ。シャーロット、わたしたちは城に帰ろう」
ギルバート様は言いたいことだけ言うと、私の手をとり、さっさと帰ろうとした。
「と、その前に、マリー、アーサー、何かお前たちの私物とわかるものでいらないものを数点くれ」
ふたりの方に体を向けると、すっと手を出す。
「ギルバート様、私物はお渡しできますが、一体何に使うのでごさいましょうか?」
「ふたりが死亡したと偽装する。今、国境の森にはボナールからランバラルドに移住しようとして、入国許可が下りなかった者がボナールにも帰れず、森に住みついて盗賊になっている。マリーとアーサーも同じように入国できずに森を彷徨い、盗賊に襲われたように偽装しておく」
「そこまでする必要はあるのでしょうか」
「…念には念を入れて、だ。ボナールから暗殺者がランバラルドに来たら、シャーロットにも危険が及ぶかもしれない」
その言葉を聞いたふたりは、黙って荷物を開けて、何点かふたりだとわかる持ち物をギルバート様に手渡した。




