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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅

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熱が出て

 食事をジュディ達の部屋に4人分用意して、アーサーの部屋をノックした。


 中から返事があったので、そっとドアを開ける。

「ロッテ、もう処置は全て終わっていますから、中に入っても大丈夫ですよ」

 アーサーはベッドの横に椅子を用意して、そこに座っていた。

「ごめんなさい。全部アーサーにやらせてしまって」

「何言ってるんですか。若い男性の世話を、ロッテに任せられる訳がないでしょう」

「でも、私が連れてきたのに…」

「困っている人がいたら、助けるのが当たり前。そう思っているロッテがオレは好きですよ」


 すごく迷惑をかけているのに、アーサーは優しい。

「ありがとう。アーサー、隣に遅くなったけどお昼を用意してあるの。彼のことは私が見ているから食べてきて」

 私がそう言うと、アーサーは微妙な顔をする。

「ジュディは何をしているんですか?」

「?…ジュディは明日帰るから、その支度をしているけれど…?」

 私の返事を聞いて、アーサーはため息をつく。

「それなら仕方ないですね。ロッテ、あとは任せました」


 アーサーが椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。

 代わりに私がベッドサイドの椅子に腰掛ける。


 彼はさっきまで出血で青かったけれど、今は赤い顔をして眠っている。

 アーサーの話だと、打撲も酷く、傷も浅いけれど広範囲だったために熱が出ているということだった。


 額に濡れタオルを置いて冷やしていたが、うなされた拍子に横に落ちてしまった。

 タオルを拾い上げると、もう温くなっていたので、もう一度小さな桶に汲んである水で冷やして、彼の額に乗せる。


 それが冷たかったからなのか、彼が身動ぎして目を開ける。

 青い瞳が私を捕らえた。


「…キミは、さっきの天使…」

 彼は熱で浮かされているのだろう。

「天使じゃないけど、さっきあなたと出会った者よ」

「ごめん…もう一度、水が飲みたい」

「ちょっと待ってて」

 アーサーに言われて用意した水飲みで、彼に水を飲ませた。

「…あぁ、うまい」


「どお?少し気分は落ち着きました?」

「あぁ、ここは天国のようだけど、天国じゃなさそうだな。オレは生きているんだな」

「そうよ。ちゃんと生きているわ。動けそうならポタージュがあるけど、飲めますか?」

 ポタージュ、という言葉に反応して、彼は私を見つめた。

「飲みたい。すっごく、腹が減っているんだ」


 彼の体を起こそうとして、背中に両手を回してみたけれど、腕が痛いようだし、熱でクラクラすると言うので、少し枕を高くするに留めて、その姿勢で飲んでもらうことにした。


「もうそんなに熱くないと思うけど…」

 腕の使えない彼の代わりに、ポタージュをスプーンですくって、ふーっと息を吹きかける。

「はい、あーん」

 口元までポタージュを持っていったのに、彼はますます顔を赤くして、目を見開いてこちらを見ている。

 あら、熱が上がってきたのかしら。

「こぼれちゃうから、早く口を開けてくださいな」

「あ、あぁ」

 あーんと口を開けてくれたので、そっとスプーンでポタージュを飲ませた。

「うまい。丸一日以上、飯食ってなかったから、胃に染みる」

「それはよかったです」


 少しずつスプーンですくって飲ませ、お皿が空になった頃、満足したのかそのままスーっと彼は寝てしまった。


 私はお皿をテーブルに置いて、彼の頭を抱えて高くした枕を元に戻した。

 まだ熱は高いようで、彼の頭は熱かった。



 しばらく彼を見ていると、アーサーが食事を終えて戻ってきた。

「ロッテ、代わりますよ」

「ええ。ありがとう。私も支度があるからお願いするわ」

 私が椅子から立ち上がると、アーサーは困ったように私に声をかけた。

 もちろん、彼に聞こえないような小声で、だ。

「彼、このあとどうしましょうか。我々もあまり他人に知られるとマズいですしね。だいたい、ここは王族の使う施設だ。そんなところに匿ってると、彼に知れたら弱みを見せることになる」

「でも、あの状態で放り出せないわ」

「そうですね…。明日、彼を眠らせたまま、ここを出るのがいいでしょう。ここがどこか悟らせないうちに出てしまって、そして通り道にある医者のところに放り込んであとは任せましょう」

「それしかないかしら」

「それが一番安全でしょう」




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