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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅
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マリーの現状

「マリーが命を狙われるって、何故今更?」

 これまでだって、ずっと機会はあったはずなのに。


「おそらく、姫様のお世話をする者が必要だったから今までは生かされていただけで、姫様が居なくなった今、母が居なくなっても城のものは誰も困らないから、だと思います…」


 なんてこと…!

 マリーの年を考えて、ボナールに居るようにしたことが裏目に出るなんて…!


 震える手で手紙に目を落とす。

 手紙は、アーサーの字で綴られていた。



 私達がランバラルドへ到着するとほぼ同時に、アーサー達捕虜はボナールへと返された。

 アーサーは当初怪我をしていたが、ゆっくりと静養すれば元通りになるくらいの怪我だったのに、帰国してすぐ、騎士団から除籍されたそうだ。

 その時、国からの補償なども雀の涙ほどしか出なかったと。

 時を同じくして、マリーにも解雇が言い渡された。

 マリーにしてみたら、アーサーのキズが癒えたら私を追ってランバラルドへ来るつもりだったので解雇はどうでもよかったらしいが、やはり退職金などの支給はなかったそうだ。


 アーサーとふたり、落ち着くまではボナールで過ごそうとしていたところ、自宅に強盗が押し入る。

 たが、金目の物には目もくれずに、マリーを殺そうとした。

 いち早くアーサーがそれに気付き、足の傷を押して強盗を撃退し、ことなきを得たと言う。


 それ以降、町を歩いていると馬車が走り込んでくる道で背中を押されたり、いきなり口を塞がれ連れ去られそうになったりと、命を狙われているとしか思えないことが次々と起こった。

 幸い、強盗のことがあったので、アーサーが常に一緒に行動していたため、ことなきを得たと。


 アーサーは騎士団にいた時の伝手をたどって城に探りを入れたところ、暗殺部隊が動いている案件があるとのこと。

 内容は極秘で、そこまではわからなかったそうだが、マリーの件で間違いないだろうと、手紙には綴られていた。


「兄は母を連れて、早々にランバラルドへの移住をしようとしたらしいですが、関所で止められてこちらに来ることはできないと…」

 ジュディは悔しそうに俯いた。


「ギルバート様、何故ですの?移住が拒否されるというのは、本当のことですか?」

 手紙からギルバート様に視線を移す。


「…今、ボナールからの移住希望者が増えている。条件もなしに、全てを受け入れられるほどランバラルドも大国ではない。そのため、選別をして受け入れられる数だけを受け入れているのが現状だ」

「ボナールからの移住希望者が増えているって、どうしてですか?私が人質としてこちらに来たのは、賠償金を減らして、国民の負担をなくすためでしたのに」

「わたしも詳しくは聞いていないが、かなり環境は悪くなっているようだ。国を捨てて移住したいと思うほどに」

「そんな…」

 私は力が抜けてソファに手をついた。


 私が人質でいることには、なんの意味もなかったと、そういうことなのだろうか。

 ボナールにいた頃も、いなくていい存在だったが、ここに来てまでなんの役にも立てないのだろうか…。


 ソファに置いた手に、ポタポタと涙が落ちてくる。

「マリーにまで迷惑をかけて…私など、いなければよかったのに…!」


 溢れる涙で目の前が見えなくなった頃、そっとギルバート様が私に近づいてきた。

 下を向いていた、私の両頬に手を当て、上を向かせる。

「シャーロット、お前はいらない存在なんかじゃない。いなければよかったなどと言うな」

 そっと、指で涙を拭ってくれる。


「よくわからないが、マリーという者はお前の大事な人なのだな。だったら、わたしがなんとかしよう」

 私は目を見開く。

「ギルバート様、いけません。そんな、ギルバート様にはなんの関係もないことではありませんか」

 ギルバート様がなんとかしてくれるというのは、公爵としての権力を使うということだ。

 まだ後見人もついているギルバート様が無理をされると、あとでどんなことになるかわからない。


 ギルバート様は私の言葉を聞き、切なそうに目を細めた。

「関係ないなどと言うな。シャーロットはわたしの大事な友人で、そのマリーとかいう者は、わたしの大事な同胞ジュディの母親なのだろう?力になりたいと思うことは、当然ではないか」

 私はギルバート様の手をきゅっと握りしめる。

「ありがとうございます。ありがとう…ございます!」



 その後、マリーが持つ秘密とはなんなのかと問い詰められ、私とジュディはギルバート様に全てをお話しした。

 ギルバート様は話を聞き終えると、驚愕の表情をし、すぐに悲しそうな目で私を見つめた。

「つらかったであろう。もっと早くに知り合えていたら、力になれることもあっただろうに。隣国のこととは言え、知ろうとしなかったことが悔やまれる」

「いえ、他国のことです。ギルバート様がお気にすることはございません」

「…それでも、幼いシャーロットを助けてやりたかった」



 すぐにギルバート様は気を取りなし、ジュディに手紙を書くように指示した。

 手紙が着き、内容を確認でき次第、また荷物を準備してランバラルドへ向かうようにと。

 手紙には関所を通過するための許可証を同封するそうだ。

 私とジュディの書く手紙は検閲があるため、表の封筒はギルバート様の名前で出す。

 マリーはランバラルドからの手紙なら、知らない名前でも中身を確認するはずだ。

 ジュディの筆跡の手紙で内容を伝えれば、信用してくれるだろう。


 ギルバート様は急いで本宮の自室に戻り、関所を通過する許可証発行の手続きをしてくれるそうだ。


 あとは、マリーが無事にランバラルドに到着するのを祈るだけ。

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