ギルバート様来訪
私のランバラルドでの生活は、順調に過ぎていく。
メイド生活にも慣れた。
本宮の方へ行くと、ルーシーたちが話しかけてくれて、ポールに会えば調理室に連れて行ってくれて、新しい料理の味見や、この間はクッキーをサクサクに仕上げるコツを教えてもらった。
手間がかけられないからうち粉も薄力粉でやっていたけれど、強力粉を使うとサクサクになるんですって。
実際に作ってみて、こんなに変わるのかとびっくりしたわ。
お礼にたくさんクッキーを焼いて調理室のみなさんで食べていただいたら、大変好評だった。
今日はいいお天気だから、本宮には行かないで、離宮のお庭で栽培しているハーブのお世話をしている。
歌を歌いながらお水を撒く。
キラキラとお水が太陽をはじいてとても綺麗だし、ジョウロの出口に虹がかかって見える。
「はやく元気に育って食べられるようになってね~」
プチトマトの苗に言葉をかける。
「……すごいな。なんだ、この畑は?」
聴き慣れない声を聞き、後ろを振り向くと、知らない人が立っていた。
その人は、金糸の髪を揺らし、素晴らしく整った容姿をした人だった。
「……王子様?」
なんとなく、物語の王子様が、本を抜け出してきたらこんな感じだろうという姿だったのだ。
金髪美少年は不機嫌そうな顔で私に言った。
「お前は自分の夫と別人の区別もつかんのか。この国の王子は王太子のライリーひとりだ」
「えっと、では、失礼ですがどなた様でしょうか」
ジョウロを両手に持ち、おずおずと尋ねると、一層不機嫌そうな顔をした。
「ギルバート・フォンテール。まあ、王位継承権第二位だから、王子様と言って激しく間違っている訳ではないがな。ところで、いつまでこんなところに立たせておくつもりだ。さっさと中に入れんか」
「はあ、では、中へどうぞ」
勝手にやってきて、なんか納得できないけど離宮の中へ招き入れた。
お城の敷地内にいる人だし、怪しい人ではないのだろうし。
応接室のソファへ案内して、私は一度お茶を入れにキッチンへと足を運ぶ。
ここにお客様なんて来ないから、お客様用のお茶菓子なんて用意していないわ。
昨日焼いたマドレーヌが残ってるけど、とりあえずそれを出しておきましょうか。
カチャリと紅茶が入った茶器が音を立てる。
「どうぞ」
恐る恐るマドレーヌもギルバート様の目の前に置く。
なんとなく、お盆を持ってドアの前に控えた。
あれ?でもギルバート様は私に、私の夫がライリー王太子だと言っていた。
と、いうことは、私がシャーロットであることを知っていることになる……。
メイド服だけど、向かいに座った方がいいのかしら?でもフレッド様はメイド服の私とは同じテーブルにつけないと言っていたし……。
モタモタとしていると、ギルバート様は眉根を寄せて、私に座るよう促した。
「何をグズグズしているんだ。早く座れ。でないと話もできん」
「……はい」
お盆を腕に抱えたまま、私はギルバート様の向かいに腰掛けた。
ギルバート様は紅茶に口をつけ、更にマドレーヌも一口食べた。
「……ほぉ。これは……」
かじったマドレーヌをじっと見つめて、やがて私に声をかけた。
「このマドレーヌはお前が作ったものか?」
「はい。お口に合いませんでしたか……?」
「いや、そういうわけではないが」
「ところで、今日は一体どのようなご用件で?」
この人は質問されるのが嫌いな人なのだろうか。
イラッとしたように、また眉根が寄せられた。
「そうだな。用件と言うほどでもないが。ライリーが側室であれ、妻を娶ったというので会いにきた」
妻と言われても名前だけだし。
私はお盆を手でいじりながら話す。
「側室というのは建前で、人質です。そもそも、名前だけの側室なので、こちらの人間関係がよくわからないのですが、ギルバート様は継承権第二位でもライリー様の弟ではないということですか?」
「わたしは王弟の息子だ。父はもう亡くなっているがな。父の跡を継いで公爵を名乗っているが、ランバラルドでは成人は18歳だ。わたしはまだ16歳で成人していないので後見人に宰相がついている」
ライリー様のいとこ様であらせられるのですね。
嫁いびりに来るには、微妙な立場だと思いますけど?




