港町、かつての面影
オレは船に乗ってディデアの港町に来ている。
オレが最後にここに来たのは12年くらい前だろうか。
ディデアにある貴族学校に留学を予定していたが、戦争で領地を減らされ、貴族学校も規模を縮小したという知らせを受けて、留学の話はなくなったのだ。
港町には、下見に来たことがあったので、残念に思っていた。
まあ、ランバラルドの貴族学校でフレッド達4人と親交を深めることがてきたのだから、オレにとっては悪いことではなかったが、ディデアの様子は気になっていた。
今日は平民のライとして行動しているので、護衛は誰もいない。
自由に町の中を歩けるのだが、思い出の中の様子とはかけ離れていた。
港のすぐそばに市場があり、その奥には広場があった。
かつては年に一度祭りが開かれ、広場にはサーカスが興行にきていたりしたものだが…。
広場の噴水は予算がないのか壊れたまま放置されており、商店も閉まったままの店が目立つ。
逆に、元気よく営業しているのは大手の商会くらいだ。
手広く日用雑貨から食料品まで扱っている上に、大量仕入れができるからか値段も安い。
これでは個人商店は立ち打ちできまい。
ゴミの散らばる広場を、やるせない思いで見つめた。
漁師に話を聞くと、水揚げ高は減っていないようだ。
商人は貿易で関税が掛けられてしまうが、漁師は売り上げから税金が引かれるだけだから、なんとか生活していけるという。
関税は平均より下げるとして、ここまで荒廃してしまった町を元通りにするには、商人の育成からだな。
読み書きのできる者を教育し、帳簿がつけられるようにしよう。
やることがいっぱいだ…!
フレッドのやつ、よくこんな忙しい中、恋愛なんてする余裕があるよな。
町を歩き回り、店舗の状況を見た後、少し離れた教会へも行ってみた。
確か、町の外れに教会があったはず。
乗り合い馬車に揺られて着いたそこは、一部屋根もなくなり、オンボロ教会と言っても誰も非難しないようなところだった。
中に入ってみると、年老いた神父がひとりで神に祈りを捧げていた。
「こんなところにいらっしゃるとは。あなたも行き場所がないのですか?」
不意に話しかけられてオレはなんと言っていいか戸惑った。
「いや、オレは通りすがりで…神父さま、ここにはお一人でいらっしゃるんですか?」
「今は私ひとりですが、身寄りのない子ども達を預かっています。今、子どもたちは花畑の世話をしに出ておりますが」
あぁ、子どもたちが商品にする押し花なんかを作ってるって、誰かが言っていたな。
オレはポケットの中のコインを出す。
帰りの乗り合い馬車や帰りの旅費分だけ残して、残りのコイン全部を神父に渡した。
「これが今のオレに渡せる全部です。寄付をさせてください」
神父はコインを見て驚く。
「こんなに…!それではあなたの生活が…。見れば、失礼ですがそんなに裕福には。有難いですが、あなたもご自分のことを考えてください」
今日は平民を装っているから、裕福には見えないだろうし、所持金も平民が持てるちょっと多めのコインしか持っていない。
たが。
「その時その時で、オレにできることをしたいんです。今はこれだけですが、受け取ってください。でも、いつか、この教会の屋根が直り、子ども達が凍えなくて済むように、したいと思っています」
オレは神父にコインを渡して教会を後にした。
オレは博愛主義者じゃない。
全財産を国民に投げ打って、すべてを捧げようとまでは思わないし、それでは自国民が苦しむことになる。
オレにできることは、みんなが幸せになれるような政治をすることだ。
今日渡したお金はその場しのぎでしかない。
たが、その場だけでも凌げれば、次に続いていけるかもしれないじゃないか。
できれば、オレがきちんとこの領地の政治を立て直すまで、すべての人にがんばってもらいたい。




