城下町の酒屋
オレは平民の服を着て、城下町に来ている。
王宮で報告書だけ読んでいたのでは、本当の政治はできないと思っている。
視察で来ることも可能だが、それだと領主等の接待で終わり、本当に問題があっても隠されてしまうからだ。
一度、ザーランドとの国境付近の町に行った時に懲りた。
あそこでは、領主による横領が行われていたが、視察と銘打った時には発覚しなかった。
接待に不満を感じたオレが、隣の領地の視察の時に、コンラッドに影武者を頼んで、コンラッド達が接待を受けている間にオレが調べて領主ふたりの横領を発見したのだ。
隣同士の領主がつるんでいたなんて、腹立たしい。
と、いうわけで、行ける時には民に混じって、町の人たちの様子を見るようにしている。
ふらりと街の食堂に入る。
「いらっしゃい!」
店主のロジャーが声をかけてくる。
この食堂は、夜は酒屋になる。
店主のロジャーと、妻のクリスのふたりで営んでいる店だ。
ロジャーは元騎士だが、戦時中に足を負傷し退役した。
大変優秀な者だったので、オレがこの店を用意して、下町の情報を流してくれるよう頼んだのだ。
本人も、もともと料理が趣味だったのもあり、快く了承してくれた。
「ロジャー、変わりはないか?」
カウンターに腰を下ろし、周りを窺う。
昼間の3時ということもあり、店の中は1組の客がいるだけだ。
窓際のテーブル席にいるため、ここの会話は聞こえないだろう。
「はい、殿下。大きく変わったことはありません。戦争は国はずれで起こって、そのままランバラルド軍が進軍を許さなかったので国民の生活にはあまり影響は出ていません」
「そうか。ってかいくら周りに人がいないからって、殿下はやめろ」
「あぁ、すみません。なかなか習慣は抜けないもので…」
出された果実水を飲む。
「たまにはエールくらい出せよ」
「ライが一人じゃない時ならいいですよ。成人したばかりの時に飲んだら、すぐに潰れたのをお忘れですか?」
ライと言うのはオレのもう一つの名だ。
街に下りる時に使っている。
さすがに、「ライリー」と呼ばれる訳にはいかないからな。
「ライ、ひとつだけ気になることが」
「なんだ?」
「最近、ボナールからの移民が増えているようです」
「なんでだ?戦争が終わったからと言って、国民感情として負けた戦争の相手国に移民してくるのはおかしくないか?」
「生活が苦しいようです」
「そんなはずはない。賠償金も減らして、税金は上げないようにボナール国王との話ができている」
「反故にされたんじゃないですかね。国民が逃げ出す先は近い国になるでしょう。旅費もかかりますからね。ボナールの隣はディデアと我がランバラルド。ディデアは海を渡らねばなりませんから、敵国であったとしてもランバラルドへ来ることになるのでしょう」
これは一度調べる必要があるな。
「オレに報告が上がってきていないが?」
「無条件に受け入れられないですからね。国境の衛兵が選別しているのでしょう。実際に移り住んできたのはわずかなものです。ランバラルドと取引があった商家の者等、何かしらの縁があったものに限られていますから」
やはり、フレッドに一度ボナールへ飛んでもらうか…。
思案していると、後ろからガッと肩を組まれた。
「よぉ、ライ。来てたのかよ」
「いてぇ…。ミゲルのオヤジ、乱暴はやめてくれよ」
ミゲルは城下町のはずれにある鍛冶屋のオヤジだ。
オレがフラフラとしてるときに、店を覗き、仲良くなった。
もちろん、オレの正体は知らない。
「たまにはうちの店にも顔を出せよ。いい斧ができたぞ」
オレは森で木を切って薪を作ったり木の実を集めて町へ下ろしていることになっている。
「まだ新しい斧は買えないよ。この前新しくしたばかりだ」
「なんだ、相変わらず貧乏なんだな」
「最近は油の値段が下がったから、薪もなかなか売れなくてね」
その後、昼間っから飲む鍛冶屋のオヤジに付き合って、果実水で乾杯した。
ランバラルドは今日も平和だが、ボナールの様子が気になった。




