誰彼構わず声をかける?
フレッドはドアノブに手を掛けた状態で、ゆっくりオレの方へ振り返った。
「な、なに?王子。あのお菓子、気に入っちゃったの?」
心なしかフレッドの笑顔が引きつっている。
「ん?ああ、あれはうまかったな。素朴だったが。なんかディリオンの言い方を借りれば、糖分が疲れを癒すのに丁度いい配分だったんだろうな。あれを食った後、すごく疲れが取れたんだ」
「そ、そっか。でも、ごめん。あれはオレが知り合いに頼んで作ってもらったものでさー。店で売ってるものじゃないんだ。だから、リサちゃんに言って、街で評判のお菓子を買ってきてもらうから、それを食べようぜ」
「そうか。では、その知り合いをオレに紹介してくれ。オレから頼もう。商人の娘か?できれば、定期的に購入したいが、商売にする気はないだろうか?」
フレッドの交友関係は幅広い。
そのうちの一人なのだろう。
フレッドは一瞬、表情に暗い影を落としたが、すぐにいつもの笑顔を向けた。
「うーん、ごめんね~王子。ちょっと、王子と合わせるのは無理かも。いつかまた、作ってもらってくるから、街のケーキ屋のでがまんしてね~」
これ以上は話したくないのか、フレッドはさっさと部屋を出て行った。
「なんだ、あいつ」
「大方、その娘に振られたのだろう。王子、傷口はつつくものではないぞ」
コンラッドが楽しそうに身を乗り出す。
「そういえば知ってるか?少し前に、フレッドの恋人の噂がたったの」
「「知らん」」
ゴシップに興味のないオレたちの声が重なる。
「なんでも、どこの令嬢か知らんが、一度一緒に登城したことがあるらしいぜ。薄い黄色のドレスを着た令嬢で、たいそう美しかったらしい」
「どこの令嬢だ?まさかフレッドのやつ、デビュー前の令嬢には手を出さんだろ?デビューしていればある程度は身バレするものだが」
「それが、誰も見た事のない令嬢だったらしいぞ。白金の豊かなウェーブのかかった髪に、太陽の光が反射してキラキラ輝いて見えたって。すみれ色の瞳をした華奢な令嬢だったと聞いた。エスコートするフレッドの顔が、見たこともないくらい赤かったってのが噂になってた」
「んで?なんの用で登城したんだ?城に用があるなら、オレも知ってそうなもんだが」
仮にもオレ、王子だし。王太子だし。
「いやあ、その令嬢、城のどこに行ったかまではわからないんだよなぁ。」
「フレッドに聞けばいいではないか」
ストレートな性格のディリオンが言う。
「いや、何人かは聞いたらしいけど、フレッドは頑として明かさなかったらしい」
「フラれたな」
ディリオンが切り捨てる。オレもその意見に同意だ。
フレッドは愛想もよく、愛嬌のある顔立ちをしているが、真面目にしていればかなり美形の部類に入る。
ただ、ヘラヘラといつも笑っており、言動は軽くてチャラチャラしているからか、声をかけて友人になる女性は多いが、いざ結婚相手となると敬遠され振られてしまう。
なので、18歳の今でも婚約者もいない。
まあ、この執務室に出入りする4人は、オレも含めてみんな婚約者はいないんだけど。
ガチャっとドアが開き、フレッドがリサと共に入ってくる。
「お待たせ~。ディリちゃん、ご所望の甘いお菓子だよ。時間がないから今日は街に買いには行けなかったけど、城のパティシエが作ってくれたモンブランを、ゲットしましたー!やっぱり、本職のパティシエが作るケーキはうまそうだよね」
リサが押しているワゴンに乗せたケーキを、フレッドはオレ達に配る。
その間、リサは紅茶を入れ、終わればちょっかいをかけてくるフレッドを軽くいなしながら退出して行った。
「ちぇっ。さすが王城のメイドだよな。守りが硬いね」
「…フレッド、振られたからってやけを起こしてはいけない。誰かれ構わず声をかけるから、振られるんだ…」
フレッドの肩に手を置き、諭してやる。
「へ?なに?なんのこと?ちょっと、オレがいない間になんの話をしてたんだよ」
「いや、なんでもない」
「さぁ、休憩したら、計画書の作成を再開するぞ」
フレッドとリサが用意したケーキも、ちゃんとうまかったが、やっぱりあのケーキほどは疲れが取れなかった。




