執務室にて
ボナールとの終戦から1か月が経った。
オレ、ライリー・ランバラルドは今日も側近たちが集まる執務室で書類と格闘している。
手元にある書類は、ボナールのその後と、ディデアの復興の報告書だ。
ディデアがボナールの領地となってから、オレは一度も行ったことがなかったが、税金が高すぎて領民は苦労していたらしい。
幼い頃に何度か行ったことがあるが、とても綺麗な町並みが印象的だった。
それが、かなり荒れ果ててしまっていたようだ。
鉱山の方も搾取できるだけ搾取していたようで、あとのフォローが大変だ。
ボナールから領地を取り上げたあとは、ディデアに自治権を渡すつもりだったが、そのまま渡すわけにはいかなそうだ。
「ディリオン、ディデアの港と鉱山の件だが、お前に任せてもいいだろうか?」
執務室で書類整理をしていたディリオンが顔を上げる。
「…いいだろう。任されよう。この数字を見る限り、ただ税率を戻せばいいということでもなさそうだ」
「失業者が町の中に結構いるらしい。破産した者はディデア本国では受け入れられず、浮浪者として港町にいるしかなかったようだ」
「そのようだな。まあ、安易に受け入れて、港町がゴーストタウンになるのも、またボナールから睨まれるだろうからな。できなかったのであろう」
「まず、食べることのできない者から救済して、次につぶれて放置されている小売店の店舗を綺麗にしてそこで何かしらの仕事や商売ができるようにしよう。資金はボナールから受け取る賠償金を充てればいいか?」
「まだ支払われる気配がないがな」
ディリオンはため息をつく。
執務室の中には、フレッドとコンラッドもいる。
外出の時はここにジェイミーが加わるが、今は騎士団の方で勤務についている。
「コンラッド、もう一月待って支払われないようなら取り立てに行ってくれ」
オレがコンラッドに頼むと、ディリオンが渋い顔をする。
「コンラッドは貴様の影武者としてボナールで交渉をしただろうが。バカめ。行かせるならフレッドにしておけ」
フレッドは普段ヘラヘラしているからな。
あまり交渉ごとには向かないが、仕方あるまい。
「あ、オレがコンラッドの影武者として行くのもいいな」
今度はコンラッドが身を乗り出して抗議する。
「ほんとにバカだな!お前は。王太子が一介の貴族の影武者なんか普通やらん!」
「いいじやないか。オレは自分の目で見て物事を決めたいんだ。ちゃんと自分で判断できる王になりたい。それには身軽な方がいいだろ?」
はあぁぁー。
執務室内にいる3人が、一斉にため息をついた。
「でも、まあ、ディリオンもコンラッドも、いいじゃないの。オレ達はそんな王子だからついて行こうと決めたんだろ?」
フレッドが諦めたような笑顔でみんなを見回す。
諦めたような、笑顔なのが気に食わん。
その後、ディリオンを中心に、ディデアの領地をディデア本国に返すための話し合いが執務室の中で行われた。
数時間経った頃「……王子、脳を使うのも限界だ。一息入れよう」と、オレ達の頭脳、ディリオンが根を上げたところで、一度休憩を取ることにした。
「脳の働きを活性化させるには糖分が必要だ。フレッド、脳筋のコンラッドと王子には少な目でいいいから、オレには多めに甘い菓子を頼む」
「あいよーん。リサちゃんに言って、多めに持ってきてもらうね」
リサと言うのは王宮のメイドで、オレ達よりも3つくらい年上の女性だ。
フレッドは本当に手が早い。
フレッドが執務室を出て行こうとするので、オレは呼び止めた。
「フレッド、オレ、あれが食いたい。いつだったか、みんなに分けてくれただろう?クッキーと木苺ジャムの添えられた、パウンドケーキ。あれが食いたい」




