髪の色、瞳の色
フレッド様は私を見ると固まった。
?
あ、そうかメイドのお仕着せを着ていることにびっくりなさっているんだわ。
「フレッド様、こんな格好で失礼いたしました。どうぞ中へお入りくださいませ。ジュディは本宮へ行っておりますが、冷たいお茶を御馳走しますわ」
「シャ、シャーロットちゃん!?」
「はい。シャーロットですけど……」
何を今更。
「どうぞ、暑いですから中へお入りになって」
パンパンとスカートの土埃を払って、フレッド様を連れて離宮の中へと入っていった。
離宮の中の小さな応接室へとフレッド様をお通しして、私ははずしていたエプロンをつけ、アイスティーと昨日の残りのクッキーを持ってフレッド様のところへ急いだ。
「フレッド様、お見苦しい姿をお見せしました」
アイスティーとクッキーをフレッド様にお出しして、向かいのソファに腰掛けた。
フレッド様はお仕着せを着る王女が珍しいからか、私をじっと見ている。
「いやですわ。あんまり見ないでくださいな。今日はどうかされましたか?」
「いや、でも、あんまりの変わりようが…。あ、これは昨日のお菓子のお礼」
フレッド様はそう言って小さな箱を渡してくれた。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
ワクワクしながら箱を開けると、小粒のチョコレートがたくさん入っていた。
「チョコレート、こんなにたくさん!!」
チョコレートは高価なものなので、ボナールにいた時はほとんど口に入らなかった。
とってもとっても大好きなチョコレート!それがこんなにたくさん!!
「ありがとうございます!ジュディとふたりでいただきますね」
フレッド様は困惑気味に口を開いた。
「そんなに喜んでもらえるとオレも嬉しいけど…。ところで、なんで変装してるの?」
「変装って、変装なんてしていませんけど?」
「いやいや、メイドに変装してるじゃん!」
「これは、変装ではありません。ジュディとふたりで暮らしているのです。私もお掃除やお料理をしないとジュディが大変でしょう?お手伝いをするために、お仕着せを借りているのです」
「だから、お城のメイドを寄越すって言ったじゃん」
「無用です。全部メイドさんにやっていただいたら、私が退屈じゃないですか」
「普通の王女様はそういうもんなんだよ! ボナールって、一体どんな国なんだよ!? 王女が掃除って」
別にボナールは普通だと思う。
セリーヌ様はそのように過ごしていたし。
私だけがおかしいのだけど、それは言えない。
はぁ~と、フレッド様がため息をつく。
「じゃ、ほんとにあのクッキーはシャーロットちゃんが作ったの?」
「当たり前です。どうですか? 美味しかったでしょう」
私の自信作に胸を張る。
「美味しかったよ。炭なんかじゃなくってサクサクしてて美味かった。一緒にあったケーキも美味しかったけど、ジャムも手作り?」
「そうですよ。ジャムは焦げ付かないように煮るから少し手がかかりますけど、手間をかけただけあって絶品だったでしょう?」
「あぁ、美味かったよ。ところで、お仕着せを着ている理由はわかったけど、カツラはどうしたの?瞳の色はどうやって変えてるの?」
カツラ?瞳は……そういえば旅の間に瞳の色が変わったんだった。
「そうでした。そういえば、ランバラルドに着いたらお医者様を紹介してもらおうと思っていたんでした。この瞳、ボナールとの国境を越えるくらいの時に、何故だか少し紫ががってしまって……。でも、痛かったり痒かったりしなかったもので、忘れていたんです」
フレッド様は立ち上がり、ソファの私の横に座り直した。
フレッド様の両手で頬を覆われ、顔をフレッド様に向けられる。
「……本物の、瞳?ランバラルドに到着した時はこんな色はしていなかった……。充血してるなとは思っていたが、すでにあの時には変わっていた? たった10日でこんなに色が変わるものなのか……。髪は?まさか、髪の色もこの10日で?」
そういえば、ジュディも髪の色が薄くなったと言っていたけど、毎日鏡を見ていたらわからないわ。そんなに変わっているのかしら。
「髪は、よくわかりませんがカツラをかぶっていないことは確かです。今までの生活ではあまり外に出なかったので、陽に焼けたのでしょう」
フレッド様は頬から手を離し、今度は髪を触る。
「待てよ、おい。金髪だったよな?今はプラチナブロンドだ……」
フレッド様のお顔がだんだんと青くなっていく。
「なんで早く言わないんだ! 瞳の色や髪がこんなに変わるなんて、普通じゃない! 病気だったらどうするんだ!!」
フレッド様は私を怒鳴りつけると、私の手を取って立ち上がらせ、そのまま私を連れて玄関へと向かった。
「フレッド様、どこへ行くのですか?」
「こんのバカ! 医者に見せるに決まってるだろう!!」
……こんなに激しく、バカって言われたのは初めてです……。




