馬車はお城の門をくぐる
「姫様、朝ですよ。まったく。机にうつ伏せて寝ているなんて。本を読みながら寝ちゃったんですね」
ジュディの声で目が覚めると、窓の外はかなり明るくなっていた。
身体中がギシギシいってる。
首も痛いし。
顔を起こした私をみて、ジュディは悲鳴をあげた。
「姫様っ!目が真っ赤です!おまけに隈が!!」
タオルにお湯を浸して温湿布を素早く作り、ガッと私の目元にあてた。
うーん。私の侍女は仕事が素早い。
「お顔も少しむくんでますよ~。うつ伏せて寝るからぁ!どうすんですか、今日登城なのに」
「…私の顔なんて少しむくんでいてもたいして変わらないのだから、気にしなくていいわよ」
むくんでいようが目が赤かろうが地味な顔はかわらない。
「もぉ~っっ!せっかく姫様のためにドレスをリメイクしたのに!初対面は完璧な姫様で登城してもらいたかったのに~!!」
肩にも温湿布を乗せてもらい、気持ち良くてまた眠くなってきた。
「姫様、寝ちゃダメですよ。落ち着いたらこちらのドレスに着替えてくださいね」
眠い目をがんばって開けると、チュールが虹色に光るドレスが目に入った。
セレーネ様の選ぶドレスはどれも扇情的なので、私の容姿とはあっていなかったけれど、ジュディはドレスにハサミを入れられるとなったら大胆にリメイクしたらしい。
このドレスは、多分衣装部屋で見たことがあるはずなのに、まったく別物になっている。
「胸元が寂しいので、白いバラの造花をあしらってみました」
うん。そうね。
私の胸は少し貧弱。
栄養が胸まで行き渡らなかったからね。
コルセットを締めてもらって、ドレスを身に纏う。
ウエストも私に合わせて絞られているし、胸元のサイズも私に合わせてあるので、とても着やすい。
「いい感じですね~。さっすがわたし!」
「自画自賛……」
「姫様っ、なんか言いました?」
「いえ、何も言ってないわ」
ジュディも納得の出来栄えらしい。
「では、ドレッサーの前に来てください」
次にヘアメイクをやってもらう。
「姫様、やっぱり少し髪色が薄くなってますね」
「そうかしら…?あぁ、少し薄いかも…。今まで塔にいてあまり日が出ているうちに外に出なかったけど、日焼けって怖いのね」
「瞳の色も戻りませんし、それより寝不足で赤いですもんね。お化粧の色合いも少し変えてみましょう」
長い髪を手際よくアップにし、華美にならないように気を遣い、パールの髪飾りだけをつける。
「ところで姫様、夜を徹してのお勉強の成果は何かあったんですか?」
「それがねぇ、いろいろな本を読んでみたけれど、ボナールとそう変わらないみたい」
「だから言ったんですよ。まったく。顔がむくむまで無理する必要なかったじゃないですか」
支度が終わり、ジュディが使った備品を片付けているとドアがノックされた。
「護衛のルドルフです。そろそろ出発の時刻ですが、第二王女殿下のお支度はお済みでしょうか?」
私が応対に出ることはできないので、ジュディがドアの外に出て返事をしてくれる。
さぁ、いよいよランバラルド王城に到着するのだわ。
今まで道中でしていた軽装ではなく、しっかりと正装をした私は、ルドルフにエスコートされてホテルの階段を降り、馬車へと向かう。
ふと、ルドルフがじっと私の顔を見ているのが気になり、視線をルドルフに向けると、ルドルフは困ったような表情になった。
「ルドルフ、何かありましたか?」
「いえ、殿下。いえ…」
一度は否定したものの、ルドルフは足を止め、意を決したように話始めました。
「わたしはボナール国の第二騎士団に所属しています。ですが、戦場に出られることのできなかった下っ端です。アーサー副団長からは、殿下のお話しを聞くことがありました。出征隊と待機隊に分かれた時に、アーサー副団長からは、もしもボナール王都に戦火が及んだ時は、第二王女殿下を御守りするように言われておりました。それが、このような形となり、なんと申し上げていいか…。もっと、わたしたち騎士団や兵士団が精進していれば、戦場に連れて行ってもらえ、少しでもお役に立つことができたかもしれないと、そう思うと…。それに、国の犠牲になってランバラルドへ行く殿下の護衛が、第一騎士団ではなく、わたしたち第二騎士団の下位の者であることも申し訳なく…」
ここにも、心優しい人がいた。
私のことを気にしていてくれた人がいた。
思わずにっこりとルドルフに向かって微笑む。
ルドルフは心なしか少し赤くなって目を見開いた。
つんつんと腕を引き、ルドルフを先を急ぐよう促す。
「いいのです。あなたが強くなり、戦場に行くということは、人を殺めに行くと言うことです。それは、あなたが絶対にしないといけないことではないはずです。もちろん、王命により、戦場に向かった者はその責務を果たす必要がありますが、戦場に行けなかったからといって、あなたが気にすることはありません。騎士として精進することは大切ですが、それは万が一の備えであって欲しいのです。今後は、祖国ボナールが平和であることを望みます」
そして私は立ち止まり、もう一度ルドルフの顔を見た。
「…それに、一緒に来てくれた護衛の人があなたのような優しい人でよかったわ。このように、声を掛けてくれてうれしいです」
ルドルフも頬を赤く染めたまま、微笑んで私を送り出してくれた。
そして馬車まで到着すると、先に馬車の前で待っていたジュディが、ドレスの裾を捌きながら馬車に乗るのをサポートしてくれ、無事に馬車に乗り込んだ。
滞りなく、道を進み、馬車はお城の門をくぐる。
初めて見るランバラルドのお城は、ボナールよりも立派だった。




