私の秘密
「マリー、逃げ出すわけにはいかないわ。私が逃げ出せば、倍の賠償金を払わなくてはいけなくなるの」
マリーが私を心配して言ってくれるのはありがたかった。
でも、私は行かなければならない。
「姫様が背負うことはないんです。あの王の本当の娘でない姫様が…」
私の手を握る、マリーの手が震えている。
「…マリー、本当の娘でないって…」
私の手も震え始める。
マリーの手にしがみ付き、ソファの私の横に座らせる。
「マリー、落ち着いて。何を言っているの?私はお父様の子どもでしょう?この国の、王女でしょう?」
ペタンと、ジュディが私の足元に座り込む。
ジュディの顔を覗き込むと、ジュディの瞳は揺れていなかった。
そして私は理解する。
ジュディは知っている。私だけが、私のことを知らなかったのだ。
「…どういうことなの?マリー、教えて」
今まで不思議だった。
何故、お姉様ばかり可愛がられるのか。
可愛がられないにしても、私の扱いは実の娘に対するそれではないんじゃないかしらって。
本当に、本当の娘じゃなかったなんて…
「姫様、落ち着いて、私の話を聞いてください」
そうして、マリーは話し始めた。
ボナールの王は双子でした。
しかし、よくある話ですが、我が国にも王家に双子が生まれると、一人を隠して育てるという習慣があるのです。
一人がなんらかの事情で王位を継げなくなった場合のスペアとして。
お二人につけられた名前は、コルビー様でした。
"Colby""Kolby"違うのはスペルだけ。
お兄様は王宮の王族の居住エリアで、
弟様は離宮でお育ちになりました。
王様もお妃様も、どちらの息子にも平等に愛情を与えました。
離宮にいても、頻繁に両陛下が訪問され、弟様も寂しくはなかったはずです。
お兄様も、両陛下とは同じ居住エリアにいても、両陛下はご公務もお忙しくて、一緒に居られる時間は、弟様と同じくらいだったと思います。
真面目なお兄様は、帝王学も布に水が染み込むように吸収され、立派な王太子となられました。
お美しいお妃様を娶られて、仲睦まじくされておいででした。
一方の弟様は、学ぶことより遊びに夢中で、お城を抜け出し、城下町に降りては町人に混じって、いろいろな遊びをしてきたようです。
あまり良いこととは言えませんが、それにより学んできたこともありました。
今、国民が怪我をした時に王の管理下で治療を受けられるのは、その頃の弟様が国民の視線で見ることを遊びの中でしてきたからです。
真面目な賢王。
それを助ける王弟。
全てがうまくいくような気がしておりました。
王太子に弟がいることは、お二人が暮らしていく上で必要な最低限のものしか知りません。
弟様は王太子が即位をすれば、やっとご自分の存在を世に知らしめることができるのです。
存在を秘匿され、公に姿を現せるのはお兄様の代わりとしてだけ。
夜会などにはお兄様の代わりで出られておりましたが、そこには当然弟様の知り合いはおらず、声を掛けるのはお兄様のお知り合い。
秘密を守り抜かなければならない弟様は、お話しすることも出来ず、夜会と言えども楽しめなかったことでしょう。臣籍降下を望まれるものとばかり思っていました。
ですが、弟様は、お兄様が即位された後も世にお出にならず、離宮で暮らしておられました。
事情を知る、私たち一部の者は、遊んで暮らせる今の生活を続けたいのだろうと思っておりました。
それはそれで、今まで隠れた生活を強いてきたのですから、兄王様はそれでいいと、おっしゃっていました。
ご自分が倍働くから、弟は遊んでいても構わないと。
しばらく、平和な日々を過ごしておりました。
いつの間にか、弟様はどこから連れてきたのかわかりませんが、お妃様によく似た女性とご結婚されていました。
弟様ご夫妻も仲睦まじく、離宮で暮らしていらっしゃったようです。
そのうち、お妃様がご懐妊なさいました。
シャーロット様、あなたがお妃様のお腹に宿ったのです。
何故なのかはわかりませんが、その頃から弟様の行動はおかしくなりました。
お城を抜け出すことも多くなり、弟様の奥様も宝石やドレスを買い漁り、ご夫妻揃ってご散財されるようになったのです。
弟様は、城下町で賭け事に手をだすようになったと聞きました。
お金というものは、使う気になればいくらでも使えてしまうものです。
兄王様が、隠しきれないくらいの金額になった頃、兄王様は弟様にお金を使うのをやめるように申し入れました。
隠れて暮らさなければならなかった弟を不憫に思っても、言わなければならないほどの行いだったのです。
そのこととの因果関係は不明ですが、程なくして兄王様は、何者かに毒殺されました。




