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人質姫と忘れんぼ王子  作者: 雪野 結莉
15章 ボナールの王女

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第一王女と第二王女

 ロッテもこちらを見て、目を見開いている。

「……ライ?」

 オレの名前を呼んだ。

 間違いなく彼女はロッテだ。


 オレがロッテの前まで来ると、フレッドは眉間に皺を寄せたが、ロッテをオレに引き渡し、エスコート役を交代する。

 すれ違う瞬間、フレッドがオレに耳打ちをした。

「この子が第二王女シャーロット殿下だよ」

 オレはロッテの手を取り、細い腰に手を回した。


 ロッテは戸惑うようにオレを見上げる。

 何がなんだかわからない。

 どうしてロッテがここに居るんだ。

 シャーロットって、どういうことだ。

 問い詰めたいのに、この夜会の会場ではどうすることもできない。


 不自然に見つめ合うオレたちに、周りから声がかかる。


「ライリー王太子殿下、こちらのご令嬢をご紹介いただけないでしょうか」

 どこぞの国の、どこぞの貴族子息が頬を染めてオレに言う。


 頬を染めるな。これはオレのだ。


 そう言いたいのをグッと堪えて、口元に笑みを浮かべてオレは答える。

「彼女はわたしの妻、ボナールから嫁いできたシャーロット王女ですよ」


 一瞬、しんと静まり返ったその場が、一斉にざわめき始める。



 どういうことだ。

 王太子は婚約者もいなかったのではないか。

 王家の婚姻に式も挙げたと聞いていない。

 ボナールとの縁は先ほど居た第一王女との婚姻ではなかったのか。



 ええい。うるさい。

 一番聞きたいのはオレだ!


 だが、そんなことはおくびにも出さず、ロッテの耳元に唇を寄せる。

「ロッテ、みんなに挨拶して。シャーロットとして。できるね?」

 ロッテはコクンと頷く。


「みなさま、只今ご紹介に預かりましたシャーロットにございます。以後お見知りおきを」

 輝く笑顔と共に、見事なカーテシーが披露される。

 その美しさにあちらこちらからため息が聞こえた。


 しかし、その空気を壊す者がいた。


「まあっ、シャーロットなの? わたくしの可愛い妹、シャーロット。先にランバラルドに来て、わたくしを待っていてくれたのね」

 セリーヌ王女がそう言いながら、ロッテに近付く。

「側妃という立場でありながら、このような場に出てきてくれてありがとう。正妃として嫁ぐわたくしを心配してくれたのね」

 セリーヌ王女は微笑みながら、オレの手からロッテを奪って行った。

「シャーロット、この髪はどうしたの? やはり、あんなに嫌っていたアッシュブロンドを隠したかったのね。髪も染めてこんなにお化粧も厚く塗って。肌に良くないわ」


 セリーヌ王女はまるでいたわるようにロッテの髪を撫で、頬を撫でる。

 しかし、その真意はすぐに判った。


 遠くからロッテに対する批判が聞こえる。



 髪を染めた?

 あぁ、ボナールの第二王女ね。見たことあるわ。

 ボナールにいた頃はみすぼらしい王女だった、あのシャーロット王女なの?

 なんでも、ボナール国王は美しくもない第二王女は表に出したがらなかったと噂だった。やはり、今見てる美しさは作り物?




 何を言っているんだと、恫喝したかった。

 でも、オレは彼らが噂する、ボナールの第二王女であったロッテを知らない。


 この場をどう収めようかと思案している時に、ロッテが動き出した。


「セリーヌ様、ご冗談はおやめくださいませ。髪も染めておりませんし、お化粧も厚くはごさいませんわ」

 ロッテはセリーヌ王女の手を離し、頬を染めて紹介をねだったあの、どこぞの国の貴族子息に近付いた。

「ねえ、そこの方、見てくださる?私の髪、染められているかしら?根元から髪の先まで見ていただけませんか?」

 貴族子息の手に、自分の髪を乗せる。

「ほら、お顔も見てくださいまし。何をそんなに厚く塗っていると言うのでしょうか」

 潤んだ瞳で貴族子息を見つめる。


「うっ、か、髪は染められた気配はありません。触っても色が落ちません。か、か、顔も、よく見ても厚く化粧されているとは、思えません……」

 貴族子息は顔を真っ赤にし、汗をかきながらみんなに聞こえるように言った。


 ロッテは振り返り、別の者に問う。

「あなたも、そちらのあなたもご覧になって? さあ、そこのご令嬢も。近くで見て、どちらが本当のことを言っているのか確かめてくださいな」

 上目遣いに見つめられたら、どの子息も令嬢も、頬を染めてロッテを見つめている。


 近くにいた子息が、ロッテが差し出す髪に手を触れようと伸ばしたところで、オレはロッテを後ろから抱き寄せた。

「失礼。これ以上、可愛い妻を他の男に触れさせたくないもんで」

 その子息は残念そうに、伸ばした手を下ろした。


「噂は噂。これ以上我が妃を困らせないでいただきたい」

 ロッテの腰を引き寄せ、オレはロッテとぴったりくっついた。


 先ほど手を伸ばした子息から、声が掛かる。

「お妃様とおっしゃるのに、王族として式の発表がなかったようですが?」

 オレはにこやかに答える。

「それは、我が国とボナールが戦争をしていたからですよ。まだ今も、戦争の傷跡が残る両国で、発表するには早いと思い、延期をしていただけです」


 すると、周りの女性からの囁きが聞こえる。



 許されぬ恋に身を焦がし、それがやっと身を結んだのね。

 敵国の姫を思って一途にしていらっしゃった王子。

 だから、ボナールは敗戦したにも関わらず、こんなに穏やかに復興していけるのか。




 いいぞ。オレの話に、みんな乗ってきてる。

 緊張していた頬を、オレが緩ませた時、余計な事を言う者がいた。


「では、セリーヌ王女とのご結婚の話は、なんだったんだ?」

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