きみは……
ピリピリとした空気をまとい、フレッドが控え室を出て行った。
オレは、ふーっと息を吐き、用意されていた水差しからグラスに水を入れて煽る。
「コンラッド、お前は会ったんだろ? 第二王女はどんな娘だ?」
「おいおい、王子。今それを聞くのかよ」
「いつ聞いてもやる事は変わらん。セリーヌ王女ばりの中身を隠し持っていたら、その牙を削ぐだけだ。どちらにせよ、側妃として公表してしまったら、その行動は制限させてもらう。今はどんな風に暮らしているんだ?噂も聞かないほど大人しくしているようだが」
オレの言葉に、コンラッドとディリオンは顔を見合わせる。
「オレはまったく聞いてないな。ディリオン、お前は知ってるか?」
「オレも知らん。第二王女の世話は、フレッドとフレッドが用意した侍女に任せてある。静かにしているようだし、セリーヌ王女のような女ではないと思いたいが。セリーヌ王女のように、人を惑わす才能があるならわからんがな。何しろ、フレッドは女に甘い」
コンラッドはソファに持たれて額に手をやる。
「フレッドはドニー宰相の息子だからな。ドニー宰相、いの一番にセリーヌ王女とダンスしてたぜ。まあ、オレたちが誰もセリーヌ王女に構わなかったからかもしれないが…」
「カエルだな。いくら他の国の王女たちと待遇が違っても、無視するべきなのだ。それをダンスを踊ってやるなどと。そもそも、招待したのもドニー宰相だ」
「まあまあ。そろそろ会場に戻った方がいいだろう。ところで、ディリオン、コンラッド、お前たちは婚約者探しは順調か?」
オレがそう言うと、ディリオンとコンラッドが勢いよくオレを振り返った。
「ふざけるな、王子。貴様の後始末のせいでそれどころではない!」
「そうだぞ、ディリオンの言う通りだ。お前がセリーヌ王女をうまくかわせないから、心配でおちおちダンスもできん」
「はいはい。申し訳ありませんね。はあー。引き続き婚約者なしの4人組でいるわけだ」
「何を言っているのだ。貴様は妻を公表するのだろう。オレたちのように清廉潔白な紳士と同じつもりでいるな」
「どういう意味だよ」
「まあ、オレたちが婚約者を探すより、側妃持ちの王子が正妃を探す方が大変だろうがな」
「だよな……」
ひとまず、オレたちは会場に戻ることにした。
会場には戻ったが、令嬢を誘う気にもなれず、フレッドが第二王女を連れてくるのをぼんやりと待っていた。
オレたち3人は会場の隅に固まって、ワイン片手に会場の様子を眺めている。
セリーヌ王女はオレが戻ったのに気がついていない様子だ。
さすがに噂の美姫だけあって、様々な男性から声を掛けられている。
話術にも長けているのだろう。
外国での夜会だというのに、気後れせずに対応していた。
あまりにそちらを見過ぎたのか、セリーヌ王女がオレたちに気付き、こちらに向かって来る。
「マズい、またこっちに来るぞ」
コンラッドがオレを見捨ててその場を去ろうとした時、会場の入り口がザワザワとし出した。
なんだろうと、そちらに目を向けると、フレッドが1人のご令嬢をエスコートしているのが見えた。
白金の光る髪をふんわりとカールし、両耳の上でダイヤの髪飾りをつけ、髪飾りと揃いの小ぶりなイヤリングをつけている。
薄い黄色のオフショルダーのドレスを着ているが、虹色に輝くショールを掛けているため、胸周りを隠しており、品の良さを出していた。
綺麗な鎖骨の上にはイエローダイヤのネックレス。
ふっくらとした胸元からシュッと細くなるウエスト。
遠目から見ても美しさがわかる令嬢に、まわりの男たちは胸を高鳴らせているだろう。
だが、オレは違う意味で鼓動を速くしていた。
訳もわからず、思考も追い付いていないが身体は彼女の元へと動く。
人を掻き分け、近付くにつれて見えて来るその表情は、緊張のせいかぎこちない。
白い肌に、くちびるにはピンクのルージュが塗られ、ツヤツヤと艶やかなのに、長い睫毛は不安そうに揺れていた。
エスコートするフレッドに何か言われ、おそるおそる彼女が視線を上げると、いつものすみれ色の瞳がよく見えた。
「……ロッテ」




