ボナールの第二王女
「わたくしの妹とは言え、貧相な娘では、王太子のお相手は務まらなかったでしょう」
ダンス故に、密着した体勢で妖艶に微笑まれる。
こんな風に誘惑されたら、世の男なら一溜まりもないだろう。
が、オレの好みではない!!
「あなたほどの女性であれば、わたしの方こそお相手は務まらないでしょう」
オレがそう言うと、ちょうどよくダンスが終わった。
礼をして、そそくさとセリーヌ王女を置いて会場を後にした。
足早に、オレたち専用の控え室に向かう。
ノックもなしにドアを開けるとフレッド、ディリオン、コンラッドの3人はすでに部屋の中に居た。
オレはタイを緩めて、3人が座っているソファへと腰を下ろす。
オレが落ち着いたのを見て、ディリオンが不機嫌そうに腕を組んでため息をついた。
「なんなのだ、あの王女は。ライリー王太子との結婚が決まっているかのように振る舞っているぞ」
めずらしくフレッドも眉根を寄せてオレの方を見た。
「ボナール産のワインの話だろ? オレも聞いたよ。でも、今日はボナール産の物だけではなくて、ザーランドの料理を取り入れ、エルシアの装飾品で会場を飾って、その他満遍なく取り入れているはずなのに、何故かセリーヌ王女の言うことをみんな信じてしまうんだ。違うって言っても、王太子の側近であるオレが言う言葉より、セリーヌ王女の言葉の方を取られてしまう」
「オレも聞いたが、あれでは他の令嬢に王子に想いを寄せてもらうのは難しいだろうな。売約済みと言われているようなものだ」
噂話や情勢に疎いコンラッドまでがそう感じたようだ。
「ところで、ボナールの第二王女を人質として預かる案があっただろ? あれって実行されたのか?」
オレの言葉にフレッドが目を丸くする。
「はぁっ? 何言ってんの、今更。とっくにランバラルドに入国してここで暮らしてるよ!」
「いや、ごめん。そんな話があったこと自体、すっかり忘れてた。さっき、ボナール第一王女に言われて思い出したんだけど、オレの側妃にする予定だったろ? 婚姻は結ぶ予定はあるのか?」
「ほんと、何言ってんの。もうとっくに結んでるよ!!」
「へ?」
「もう、とっくに、側妃として、ここに、い、ま、す!!」
「いや、結婚式とかしてないぞ」
「するわけないだろ。側妃だぞ。婚姻誓約書を書いて終わりだよ。ちなみに、ライリーはちゃんとサインしてるからね! 婚姻誓約書に!!」
あれ?
いつ、そんなものにサインなんかしたっけ?
「フレッド、そんなバカにかまってる時間はないぞ。こっちに来て対策を考えねば」
ディリオンにオレだけ仲間外れにされそうになる。
「ディリオン、その側妃、使えないか?」
オレがそう言うと、ディリオンの左眉だけがピクリと動く。
「バカが、何を考えている?」
「フレッド、第二王女はなんて名前だっけ? その側妃って王女は、セリーヌ王女のような女か?」
フレッドは不機嫌そうに答える。
「シャーロットちゃんはセリーヌ王女と比べるまでもなく、すごくいい子だよ」
「それなら、その王女を着飾らせてここに連れてきてくれ」
「……何すんの?」
「ボナールと縁があるのは本当だ。だが、セリーヌ王女とではない。第二王女が側妃として嫁いでいるからだと説明をする」
フレッドは一瞬、傷付いたような顔をした。
フレッドは優しいから、第二王女に同情してしまったのだろう。
「そんなことの為にシャーロットちゃんをここに呼ぶのかよ。ふざけるのも大概にしろよ」
「いや、それだけじゃない。セリーヌ王女に言われたんだ。ここに呼ばれていない時点で、側妃としての務めが果たせていないと。セリーヌ王女に貶められるような事を言われるくらいなら、きちんとした場で側妃としての立場を確立させてやるべきだ」
フレッドから見て、悪い女でないのなら、そうしてやるべきだ。
オレはフレッドの人を見る目を信じている。
セリーヌ王女にバカにされたりしないように。
そして、ボナールとの縁は、第二王女との縁である。セリーヌ王女とは関係ないと公言もできる。
ディリオンもオレの意見に賛成してくれた。
「側妃がいることは事実だ。正妃となる者にも知ってもらう必要もあるだろう。王子が側妃として認めるのであれば、第二王女もその方がよかろう。今のように、隠れて生きて行かずに済む。そして、おそらくだが、最初に考えたような筋書きを作っておく必要があるかもしれん」
フレッドがキツい目でディリオンを見る。
「筋書きってなんだよ」
「第二王女の王位継承権を行使する。国王しかり、あの第一王女しかり。あの王室はダメだ。予定通り、国王並びに第一王女の権利剥奪をして、第二王女と婚姻関係にあるライリー王子がボナールの指揮をとり、ゆくゆくは共和制にしてボナールに返すのが一番の理想だ。…できれば、そうしたくはなかったが、他に道はなさそうだ。と、なるとやはり側妃の存在は明らかにしておいた方が良かろう」
フレッドは納得のいかない表情をしていたが、渋々承知してくれた。
「わかったよ。女性を着飾らせてくるんだ。時間かかるけど待ってて」




