パウンドケーキ入手
翌日、リサはパウンドケーキ2個とクッキー5袋を持って、執務室にやってきた。
「パウンドケーキ、昨日の今日でよく買えたな」
確か、ロッテは一度に3本しか卸していないと言っていた。
という事は、かなり大変だったのではないかと思う。
クッキーだって、そんなにたくさんはなかったはずだ。
リサは表情を崩さずに言う。
「メイド仲間でも人気の店ですので、知っている者も何人かおりまして。昨日のうちに予約に走ってもらったのでございます」
予約……!
そんなシステムがあったのか!
目から鱗を落としながら、執務室で仕事をしているディリオンを振り返る。
「ディリオン、切望していたパウンドケーキだぞ」
声を掛けると、メガネをクイッと持ち上げながらこちらを見た。
「早速いただこう。リサ、切り分けてくれ。ケーキの2つのうち1つは、白金の髪を編み込んだメイドに返しておいてくれ」
リサはディリオンにそう言われて首を傾げる。
「メイドのお名前はわかりますか?」
「知らん」
「……では、渡しようがございませんが」
「下級メイドだな。本宮に入れないと言っていた。白金の髪を編み込んで、ちょこまかと動くメイドだ。出会ったのも、城の厨房でだ」
あれ?
その特徴は昨日の……。
「でしたら、心当たりがございます。渡しておきます」
やっぱり、昨日見かけたメイドなのだろう。
リサはそう言うと、執務室内の給湯スペースでお茶を入れにかかった。
オレたち執務室にいたいつもの4人は、それぞれ机に向かい書類と格闘していると、リサからお茶が入ったと声がかかり、全員ソファへ移動する。
リサはお茶とお菓子を配膳し終わると、静かに執務室を退室した。
ディリオンはお待ちかねのパウンドケーキにご満悦だ。
「あぁ、生き返るな。やっぱり脳が糖分を求めている。できれば、ハーブティももらいたかったが、紅茶でも充分にうまい」
フレッドがゆっくりと紅茶を飲みながら、ディリオンに問う。
「だったら、そのハーブティも買ってきてもらえばよかったじゃん」
「そうしたいのはやまやまだったのだが、残った茶葉を持ち帰り、我が家のメイドに入れてもらったがうまくいかんのだ。あの白金のメイドでなければ入れられないのなら、茶葉を取り寄せても意味なかろう」
「じゃ、そのメイドちゃんに執務室にきてもらえば?」
「下級メイドを執務室付きにするのは大変だろう。下級メイドであれば、出自は確かなものではないだろうし、執務室付きにするだけの昇進理由がなければ、本人の城での立場も悪くなるだろう」
「まぁ~ったく、ディリちゃんは固いね。そんなの、ちょこっとだけきてもらって、人事は動かさなきゃいいんじゃん」
「オレは貴様とは違うのだ。曲がったことはやらん。第一、人事を変えねば執務室に来て茶を入れても仕事にならん。本人の本来の仕事の邪魔になるだろうが」
「……最初は、その本来の仕事じゃないことやらせたくせに」
「フレッド。何か言ったか!」
「いや、なんでもないでっす!」
もうパウンドケーキを食べ終わったコンラッドが、紅茶を飲みながら、オレの方に視線を動かした。
「ところで王子。もう間もなく夜会だが、部屋割りや入場の順番は決めたのか?」
「あぁ、だいたいコンラッドとフレッドの出してくれた第一案で変更はない。ボナールの王女の処遇だけ、まだ悩んでいる」
「隣国とは言え、我が国と戦争をして負けた国から来るのだ。厚遇することもないだろう。ま、この中の4人のうち、誰かが結婚したいと言うなら話はべつだが」
パウンドケーキを食べ終わり、クッキーに手を伸ばしディリオンが言う。
「この4人の誰かと結婚?あり得んな。セリーヌ王女が王位を継ぐなら婿を取らねばならんが、この4人はみんな嫡男だ」
フレッドは紅茶を持って立ち上がり、自分の机に戻りながら反論する。
「でもさー、あの国、王室はなくなりそうじゃん? だったら、ランバラルドでの縁を探してもおかしくないよね? 王位を継がずに嫁に行く、って感じで。そういえば、この間の訪問の時、王子に粉を掛けてたじゃん」
ディリオンとコンラッドが、白い目でオレを見る。
「王子……。女に慣れてないからって、ホイホイついて行っちゃダメだからね」
「ふん。いくら失恋したばかりでも、そこまでバカな王子ではないと、思わせて欲しいものだが」
「おまえら、ズケズケと人の傷口に塩塗り込むような事ばかり言うなよな……」




