表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4「よしこさんの事情2」

「そうだったんですか。その先生の名前は?」


「聞くの忘れちゃった。それに、もうこの学校にはいないわ。退職したみたい。噂では、職場の人間関係に疲れ切っていた、とかなんとか」


「そう……ですか」


「類は友を呼ぶのかしらね。あなたはどう? 佐久間くん」


「俺、ですか?」


「あなたは私の同類なのかしら? それとも違うの?」


「……」


「ふ。違うわよね。あなたは幸せだもの」


「……よしこさんは、金曜日に、その先生がいなくなっても登校してきているんですよね。そしてピアノをひいて屋上へ来る」


「まあね。なんとなく、あの先生との思い出が懐かしくって……。私の居場所はあそこだけだったし。職員室で鍵を借りて、音楽室でピアノを弾いているのよ。屋上にくるのは、そうね、あなたがいるからよ。佐久間くん」


「……よしこさんが今話したことって、全て本当ですか? 作り話じゃないですか?」


「どういう意味?」


「いや、なんとなくですよ。都合が良すぎるような気もするし……。昔、俺の気を引くために不幸な話ばかりでっち上げる女がいたんですよ」


「そうなの。そう言う人間は私も知っているわ。でも、信じて欲しいの。いま話したことは全て本当よ。嘘じゃないわ。だいたい私、あなたの気を引きたくなんてないもの」


「……すいません。ひどいことを言ってしまって」


「いいのよ」


 俺はパックの牛乳を両手でくしゃっと潰し、校庭の方へ投げ捨てた。気まずいのをごまかしたかったのだ。


「不良」


「不良です」


 よしこさんと目があう。夕闇の中で、彼女の瞳は爛爛と輝いて見える。

 俺が何を言おうか考えあぐねているうちに、よしこさんは、暗くなってきたし帰るわ、と言って、屋上のドアを開けて校舎の中に入っていった。

 俺は何を言えばいいんだろう。何をすればいいんだろう。俺は今日聞いた言葉の数々を頭の中で反芻しながら、帰宅の途につく。

 

 家に帰って鞄を開けると、小さいメモ用紙が入っていた。そこには綺麗な筆跡で、


「気にするな!」


 と、たった一言、そう書かれていた。よしこさんだ。間違いない。俺は可笑しくなって、夜中に一人でニヤニヤしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ