閑話『アリスの正体』
アリスは、偶然神話大戦の概要と神候補を召喚するための術を知り、早速街外れの森の中でその召喚の儀を行い加瀬シンヤという異世界の人間の召喚に成功した。
そして召喚した際、その代償なのかふわっと大量の気力を失った感覚に陥り、気づけば森の中でひとり寝ていたという。
「そしたら街が燃えてるのを見つけて。もしかしてと思ったらそこにキミがいたわけよ。」
「そして俺を家まで連れてきたわけか…」
「まあシンヤをあんな目に合わせた原因は実質的には私みたいなもんだし、ね?」
カイラが他の患者への看病のために一旦出ていった後、アリスはこれまでの経緯を一通り話を聞かせてくれた。
当初は突拍子もない出来事のフルコースに混乱していた加瀬だが、流石に徐々に現状把握が出来てきた。
「カイラとはどこで?」
「どうやら放浪の医者らしくて火事の話を聞き付けてやって来たらしいの。」
「ふうん、なるほどね…。」
まるでどこかの有名漫画に登場する黒づくめの医者みたいだ。
すっかり回復しきった体を起こし、窓の外を眺めるが見えるのは朝日に照らされた木々ばかりで、周りに家は無くとも特段何か変わった様子はない。
(どこまで行ったんだろうか?)
火事による影響や自分の体の状態も含めてカイラには聞きたいことが沢山あるが、あれだけの被害だ。生存者がどれ程かは知る由がないが、暫くカイラの手が休まることはないだろう。
そこで「おや?」と加瀬はアリスの先の言葉に少し引っ掛かりを覚えた。
「そういやさっき言ってた因みに偶然知ったってのは?さっきから気になってたんだけど。」
加瀬の問うとあからさまに「ギクッ」と肩をびくつかせ、アリスは恐る恐る上目遣いで加瀬を見つめた。
まるで何か許しを乞うかのように。
「な…何だよ。」
「あの何を言っても驚かないでね?」
「お、おう」
「実は私ね…」
そう言って体を加瀬に寄せる。
「盗人なの。」
「え」
「ぬ・す・っ・と」
「!」
「その、つまり人のお屋敷に忍び込んで金目の品物を盗んでそれを生計にして暮らしてるわけなの。」
ドアを気にしながらアリスは耳元でコッソリとそう囁いた。
当然加瀬は驚く。
「盗人って…まじか。」
「まじです。大まじめ。」
盗人を生業としている時点で既に真面目という言葉からは遠ざかっている気もするが。
「じゃ、じゃあ俺は犯罪者に召喚されたってことか?」
「な!なぬ!?犯罪者じゃないわよ!私は裕福で肥えてる人とか悪そな人からしか盗ってないもん!義賊よ!義賊!」
「同じだ!このアンポンタン!」
なぜだろうか、今まで恩人として加瀬は話アリスに誠意を抱いて接し、そしてこれからもそうしていこうと思っていたハズだが、そんな気持ちはすでに加瀬の心の中からどっかへ飛んで行ってしまったようだ。
仕方なく加瀬は話を続ける。
「ゴホン、それじゃつまりその神話大戦とやらのあれこれも盗み聞きしたわけだな?」
「話が早いわね。正しくその通り。大きなお屋敷に忍び込んだ時に偶然その話を聞いて急いでメモしたってわけよ!」
そう言ってショートパンツの尻ポケットから1枚のグシャグシャになった紙切れをやや自慢げに加瀬に見せた。なるほど、確かに加瀬に説明したような概要が走り書きされている。
「神になれる。それってどんな宝物より値打ちがあるしロマンがあるじゃない?」
まあ私がなるわけじゃないけど、と付け加えてアリスはニッコリと笑みを浮かべる。
先の笑顔よりも邪悪さを感じるのは気のせいだろうか。
「ということで♪これからよろしくね?マイパートナーのシンヤくん♪」
この時加瀬が抱いた一抹どころではない不安は後に起こる数々の出来事を考えるとあながち杞憂でないことは明らかだった。