奇蹟
「傷が何も…無い…?」
カイラの言葉に一同は唖然とする。
包帯から解かれた加瀬の肉体には、火傷はおろかかすり傷一つさえ無かったのだ。
「痛みは?」
「え?」
「お前自身は痛みを感じてないのかと言っている。」
カイラは切羽詰まった様子で加瀬を問い詰める。
「いえ…全くないです。」
現に先ほど目覚めた時も、全く普通に微睡みからゆっくりと覚めたような感覚だった。起きた時に昨晩の出来事についての記憶が朧気だったのも、あまりに普通の目覚めだったからである。
「俺はそんなに傷だらけだったのか?」
気になって思わずアリスに尋ねると、
「ええまあ…治療中は見てないけど、少なくとも私があっこから連れてきた時は身体中火傷だらけだったわ…!」
そう答え、その後は何かを考え込むかのように彼女は腕を組み眼を閉じた。
カイラの方は、
「おまけに背中には大きな刺し傷があったんだが…それも綺麗さっぱり無くなってるね。こんなことは医者をやってて初めてだ。」
幻でも見てるようだね、と苦笑を混じえながら額を押さえている。
その言葉で加瀬は思い出す。
(そうだ…!確かに俺はあのとき背中を黒コート男に刺されたはず。じゃあこれはどういう事だ?どうして俺はこんなに痛み一つ感じてないんだろう?)
三者三様で何かを考え込み始め、既に幾分か時間が過ぎていた。
「ねえ、さっきの話しの続きをしていい?」
最初に口火を切ったのはアリスだった。
どうぞと言わんばかりに他の二人はアリスを見る。
「さっき私が話したシンヤをここに呼んだ理由のこと…。ここに書いてる通り、ある条件を満たした異世界人に神話大戦に参加してもらうためって話したよね?」
「ああ、そのようだな。」
「その条件っていうのとシンヤの怪我の回復の速さが関係しているのかも知れないの。」
「それはどういう?」
「神話大戦の神候補の条件はね、人間の常識を覆すような能力を身につけていることなの。」
「常識を…覆す…」
加瀬は自分の傷一つ無い肉体を見下ろす。
「そう、通常では考えられない、不可能を可能にする力…異能…」
「不可能を…可能に…か…」
そう呟いたのはカイラだ。
そしてアリスはその綺麗な瞳で真っ直ぐと加瀬シンヤを見据え、こう言った。
「人はそれを“奇蹟”と呼ぶわ。」
来週辺りに出させていただきます。