医者とここにいる理由
「任せてしまってすまないねアリス。他にも患者がいてそっちに手がかかってしまって…おっと、アンタもう目が覚めたのかい?」
白衣を着て、長髪を一つに束ねた女性が扉から入ってきた。その風貌とどことなく色気のある大人な雰囲気から察するに医者であろうか。
ベッドに腰掛けている加瀬を一瞥し、カイラとだけ名乗ると、そのまま机に提げていた鞄をドスンと下ろした。
「あの、ありがとうございました。」思わず加瀬は彼女に向かって頭を下げる。
「なあに、まだ治療中だし感謝するのはまだ早いよ。」
カイラからはぶっきらぼうな返事が返ってきた。
「それに感謝するならアリスにしなさい。あの焼け跡から必死にあんたを引っ張り出してきたんだから。」
持っていた鞄から色々と取り出しながらそう言葉を続けた。
何という事だろうか。
自宅を貸して、つきっきりで看病したどころか、あの炎の中で瀕死の加瀬を助けてくれていたというのだ。
「すまん!ありがとうアリス!」
「いえ、私が呼んだパートナーなんだからこれくらい当然のことです。だからシンヤも気にしないで気にしないで。」
何でもないようにアリスは返すが、その言葉の中にもやはり加瀬にとっては腑に落ちない点はいくつもある。
(パートナーとはなんだ?それに呼び出したって)
「そうかい?まあいいや。二人で話してた途中だろ?私が色々準備している間に済ませときな。」
そう言ってカイラはカチャカチャと自分の作業に集中し始めた。
「あのさアリス。悪いけど今の俺はあなたの言ってることが理解出来てないようなんだ。」
だから教えてくれないか?とアリスに尋ねる。
「そっか…ううんそうだよね!私も早とちりしてたよ、ごめん。ちゃんと話すね?」
「ああ、頼む。」
アリスはフーッと一呼吸置いて、そしてゆっくりと話し出した。
「単刀直入に言いますと、加瀬シンヤ君。キミはキミの元いた世界から私がこの世界に呼び出したの。これから始まる神様を選ぶ戦いの為に。」
(………?)
(??)
(元いた世界から?神?戦い?)
予想だにしなかった答えに対して、いまいち頭の整理が追い付かずにいる加瀬をよそに、アリスはまだまだ語り続ける。
「えっと私たちの世界には一人の神様がいて、でもその神様の任期は100年しかないの。だから次の神を選ぶ為に、条件を兼ね備えている異世界から来てもらった神候補達によって選抜試験を行うことになってるの。それが新たな神の歴史を創る為の戦いで通称が『神話大戦』」
「いや待ってちょっと待って一旦待って。最初から最後まで徹頭徹尾いまいち状況を把握出来てないんだけど。」
「ええそんなあ…」アリスは嘆く。
「まあつまりはこういう事さ、患者の加瀬シンヤ君。」
そういってカイラがパッと何かが書かれてた羊皮紙を加瀬に渡す。
「ん…どれどれ…」
加瀬とアリスは顔を近づけ書かれている文字を読む。
【100年おきの神を選ぶ戦い『神話大戦』。
→神候補はある条件を満たした異世界出身の人が対象。
→アリスが加瀬をこちらへ呼び出した。】
「シンプルで分かりやすいわ!ありがとカイラ!」
アリスは喜ぶ。
「確かに分かりやすいけど…後アリス顔が近いって。」
加瀬は戸惑う。
「ハッハッハッハ!仲が宜しくて結構!さあ治療の準備が出来たから一回アンタの包帯を外させてもらうよ。話の続きはそれからだ。」
そう言ってカイラは慣れた手つきで包帯の留め具を外し始めた。
突然の出来事とはいえ、美女二人に半裸姿を見られることに対し、加瀬シンヤはウブ故に恥ずかしさのあまり少し頬を染めてしまう。
そんなことはお構い無しに、カイラはスルスルと体に巻かれていた包帯を剥がしていく。
そしてその様子をじっと見ているアリス。
ところが、カイラは途中で急に手を止めてしまった。
「おかしい…」
「どうした「の?」んだ?」
アリスと加瀬の重なった問いに対して、
やや間をあけてカイラはこう答えた。
「どういうことだ?傷が…何も…ないだと…?」