炎に包まれて
加瀬シンヤくんは高校2年です。
加瀬が街の入り口へ到着した頃には、西洋風の建物が連なる街は、既にその全域が真っ赤な炎によって包まれていた。
建物はもはや見る影もなく、一つ一つの建物骨組みが顕になるほど焼け落ちてしまっている。文字通り全焼だ。
(それでも、もしかしたら…)
と息を切らしながら加瀬は唾を飲み込み炎の街へと足を踏み入れる。
走っている最中も煙やら匂いやら熱やらを感じていたが、今はそれら全てがより勢いを増しながら加瀬の侵入を拒むが如く体を容赦なく貫いてゆく。
「誰か!誰かいないか!!?」
それでも声の限り何度も叫ぶ。が、返事は無い。無いどころか街に着くまで聴こえていた悲鳴の一つも全く聴こえない。
叫ぼうと息を吸い込むが、入る空気のあまりの熱さで思いきりむせ、疲労も相まって思わず膝に手をつける。
ただ誰かを助ける為だけに何もかも分からないまま、ただ必死に走って来た加瀬にとって、この現状はあまりにも残酷であった。
その時だった。
「ーーーーー…!!」
「!?」
メラメラと燃え盛る炎の轟音のなかで、確かに人の声が聴こえた。
何もかもが絶望だと思われたこの状況で、確かに一抹の希望を見出だせるかも知れない。
(まだ間に合う!)
心に宿る何かが限界寸前の身体を奮い立たせ、声のする方へ一心に加瀬は進みだそうとした。
「悪いが…その必要はない。」
ほんの一瞬の出来事だった。
ドスッと後ろから押される感覚があった。と同時に鋭い激痛が背中を襲いかかった。
「グッ…!!?」
あまりの痛さと衝撃で、加瀬は俯せのまま地面に倒れた。地面に接触してる部分が熱でジリジリと焼けつくのを感じる。
力を振り絞り後ろを振り返ると、ダガーを持った黒コートの男がそこにはいた。顔は見えない。
体を起こそうとするが全く言うことを聞いてはくれない。
背中の痛みが激しい部分から妙に湿った感触が広がってゆく。どうやら出血もしているようだ。
(俺は死ぬ…のか…?)
こんな所で?
何も出来ず?
何も分からず?
誰も助けられず?
いくつものクエスチョンマークが加瀬の朦朧とした意識の中をいっぱいに埋め尽くす。
ふと気がつけば黒コートの男は姿を消していた。
「…クソッ…」
最後に振り絞った言葉さえも悪態で思わず独りでに苦笑する。
(かっこつかないなぁ…まあ…もう…どうでもいいか…)
何もかも全て丸投げし、加瀬シンヤは炎に包まれながら体を委ね、ゆっくりとゆっくりと意識を失っていった。