四、は永遠に4。
結局、申込書は見せてもらえなかった。
深水がその件については何も言わないので、そうなのだろうな、とは思っていたが、やはり深く傷ついた。
拒否。拒絶。
そう思いたくないが、そうなのだろう。
「ふふ、小梅ちゃんは相変わらず、頑固だなあ」
社長室の真っ白な天井を見上げる。
「もう、諦めないといけないのにな」
奨学金制度を創設した時に作ったチラシに目を戻す。
要項を読んでいると、自分がまるでピエロにでもなったかのように、可笑しみが湧いて出てきた。
「いい歳のおっさんが、本当にみっともないな」
親戚からはお見合いをしきりに勧められているし、元恋人の花奈の父親からは、復縁できないかとの申し出もあった。
パーティーや会合に顔を出せば、すぐに女性が寄ってきて、携帯番号やらIDやらを訊いてくるし、押しつけてくる。
皆、鹿島の資産を知っているからこそ、結婚したがるのだ。
「金なんかなくたって、幸せになれるのにな」
口から、ぽろっと零れ落ちた。
それは鹿島にとって、すでに証明されている数式の解だ。けれど、その金に振り回されていた小梅にとっては、この解は当てはまらなかった。
(だから、わかったような口をきいてはいけない)
鹿島は、口を噤んだ。
その時、トントンとノックがし、深水が入ってきた。
「社長。申し訳ありませんが、須賀を迎えに出ても構いませんか?」
須賀が、二週間の海外出張を終えて戻る日だということを知り、鹿島は言った。
「ああ、いいよ。そのまま、直帰でもいいからな」
「ありがとうございます。須賀の荷物があまりに多いので、助けが必要なんです」
「あはは、行きの荷物が半端ない量だったんだろ? お土産やら何やらで、おおいに膨らんでるだろうな」
「考えなしなんですよ、あの人」
鹿島は苦く笑った。
深水が部屋から出て行くと、息を吐いてコーヒーを飲んだ。
「小梅ちゃんに告白したんですけど……」
須賀にそう言われて、ぎょっとした。
小梅の祖母が亡くなって、葬儀が滞りなく終わった直後だった。鹿島が小梅と別れて、すぐのことだ。
「前からずっと気になっていたし、おばあちゃんが亡くなって、あまりに可哀想なものですから、俺が力になってあげたいなって思って、」
元恋人の鹿島を前にして、よくぞ言ったな、と思うほどだった。
粗雑な性格とわかってはいたが正直、いい気はしなかったし、鹿島も小梅と別れたばかりで、余裕も何も持ち合わせていなかった。
言葉を言いあぐねていると、須賀は次から次へと話し始めた。
「そしたら、小梅ちゃん、好きな人がいるのでって言うんです。それって、社長のことですよね?」
「それはどうかな、でもそうなら……素直に嬉しいけど」
振られたばかりで、落ち込んでいるのも知ってか知らずか、須賀は続けて言った。
「あ、でも違うのかな。あのメープルの双子の片割れが小梅ちゃんのこと、好きみたいだし」
むっとはきたが、抑えながら言う。
「あの双子はどちらも結婚しているだろ」
「一人は離婚して、バツイチだそうですよ。モリタのパートさんがそう言ってました」
その時、ああ、あの真斗って奴の方だ、と思った記憶がある。
「まあ、好きな人がいたって別に構わないですけど。落としてみせますよ」
殴り倒したくなって、それはさすがにまずいと部屋を出た。
その須賀も、玉砕したのか今では深水のフィアンセとして、深水に首根っこをぐっと掴まれている。
鹿島は、ふっと笑った。
(もし、小梅ちゃんがメープルの男と付き合っていたとしても、)
きっと、祝福できるだろう。
君の幸せを、願っているんだ。
君が、笑っていてくれるなら、それでいい。
鹿島は弱々しい笑みを浮かべると、深水が帰り際に置いていった書類に手を伸ばした。




