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31。


「お見舞いに来てくださって、ありがとうございます」


おばあちゃんの前では泣かないし、弱音は吐かない。もちろん、お金の話もしない。


鹿島さんに偶然会って、おばあちゃんのお見舞いにまで来てくれて、そんな奇跡が起こって嬉しいはずなのに、私は今日、口から鉛でも入れられたかのように、身体中が重かった。


数日前、泣き腫らしたこともあり、その直後はデトックスでもしたような爽快感があった。


けれど、現実というものは直ぐに、私を打ちのめしてくる。支払いの期日は迫ってきていて、その日付と金額は容赦なく、私をこれでもかと言うくらいに痛めつけてくるのだ。


破り捨ててしまった請求書を失くしてしまってと言って、再発行してもらう。支払いの期日を伸ばしてもらうように、会計の事務局長さんに話をする。


何とかしましょうと言われてほっと胸を撫で下ろして戻ると、鹿島さんはナースステーションでいつもお世話になっている看護師の婦長さんと話をしていた。


「……世間話を、ね」


鹿島さんが、にこっと笑って、エレベーターのボタンを押した。


そっか。


私は、目を伏せた。


婦長さんが、鹿島さんに何か頼んでくれたかもと思い、少しだけ期待してしまったんだ。


(……嫌な子だ、私)


認めると、泥水に浸かったような、最低な気分になった。


(鹿島さんのことを……おばあちゃんに友達だって言っちゃった)


けれど、鹿島さんは否定しなかった。


(……結局は、そういうことなのかな)


そんなことをぼーっと考えていると、エレベーターの中で並ぶ鹿島さんが、突然、手を握ってきた。


絡みそうになる指を、慌てて伸ばす。けれど、私の手はすっぽりと鹿島さんの手に包まれた。


眠るおばあちゃんを見て、可哀想になったのかな、そう思った。


おばあちゃんでなく、私が。


鹿島さんの手は優しくて大きい。


体温の熱が伝わってきて、私はその間だけはうっとりとできた。


夢は醒めるものだ。


きっと、これも私の願望。


(こんな汚い自分は、鹿島さんには相応しくない)


人として失格、のような気がしている。


しかも、住んでいる世界も違い過ぎて。


エレベーターが一階に着くと、鹿島さんは握っていた手を離した。


それが、現実なのだと、私は思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次々に話数を重ねても、まだ先へ読み進めたくなる。 本当に、素晴らしい作品です。 今から、いつか終わる物語なんだという事が、惜しい気さえします。 何度か、目に涙がにじみました。 「あなたに私…
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