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9。


新しい服が欲しくなった。お気に入りのスカートに、穴が開いてしまったからだ。


「ありゃりゃ、これは……」


気がついたのは、メープルから帰った夜だった。お風呂に入ろうとして、スカートのウエストのホックに手をやった時、見慣れぬブラックホールのようなものが目に飛び込んできて、私は焦ってしまった。


「ああっ、うそっ‼︎ なにこれー、これなにー⁉︎」


裾を持って目の前まで引っ張り上げる。そこには大きな裂け目があって、破れた穴から糸が垂れて、無残な姿を晒していた。


「全然、気がつかなかったあ。どこでやっちゃったんだろ」


お気に入りなので二年ほど履いた。まだまだ履けるはずだったのに、これは修復は無理。


裁縫は得意なので、だいたいのものは直せるが、流石にこれはワッペンでも貼らなければ修復はできないだろうと判断した。


「ワッペン……は、ちょっとなあ」


幼い子供なら許されるけれど、と苦く思いながら、開いた穴に指を突っ込んだ。


「こんなの、鹿島さんに笑われちゃうかも」


リビングに戻り、財布の中を確認する。


給料日はもうすぐなので、安いスカートなら買えるかも知れない。


そう思いながら、布団に潜り込んだ。


目を瞑る。少しだけ、ワクワクとしてくる。新しい服を買うのは、何ヶ月ぶりだろうか。


布団から飛び起きて、メープルから貰ってきたチラシを、テレビの横のラックからごそっと取る。


中から、服飾系のチラシを取ると、穴が開きそうなほど、食い入るように見た。


「……鹿島さんは、どんな服が好みなんだろ」


私はモデルが履いているスカートが、あ、これ可愛いなと思った。


けれど、モデルが履くくらいだから、このショップの目玉商品に間違いない。視線を彷徨わせると、『3800円』とあり落胆する。


結局、次の日ショップに駆け込んで、私は980円のライムグリーンのパンツを買った。


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