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二十三、


「ごめん、今なんて?」


信じられない気持ちが先に出て、鹿島は差し出されたものを受け取れなかった。


「……これ、いただけないです」


目の前には、見覚えのある紙袋。


「き、気に入らなかった?」


紙袋を持つ手が少しだけ下がった。


「違うんです。とても綺麗な……素敵なブレスレットで、」


「じゃあ、どうして、貰ってくれないの?」


思いも寄らない強い声が出てしまった。慌てて、口を噤む。


小梅は勇気を奮ってという風に視線を上げ、けれど直ぐにも目を伏せた。


「こ、こんな高価なもの、いただけません。せっかく選んでいただいたのに、すみません」


頭を下げる。


「別にそんなにするもんじゃないし、気にしないで貰ってくれると嬉しい」


「…………」


言葉を探すというより、断る理由を探しているように見えて、鹿島は慌てて言った。


「じゃあ、この前の病院でのお詫び、ということで。それなら、貰ってもらえるかい?」


「そ、それはこの前、お食事をご馳走になったし、」


「じゃ、今日のお礼ってことで」


それでも。


小梅が眉を寄せて苦く笑っているのを見て、ああ、本当に困っているんだな、と感じた。


(いや、困らせているのか、俺が……)


鹿島はそっと手を伸ばして、紙袋を取った。


紙袋の取っ手に指を掛けた時、小梅の指とは触れ合わなかった。それほど小梅は、直ぐに手を引っ込めた。


「ご、ごめんなさい」


小梅が、頭を下げる。


「い、いや、俺の方こそ軽率だった、のかな」


「わ、私の問題で。鹿島さんは悪くないです」


視線を下げると、ライムグリーンのパンツの膝小僧に、汚れがついているのが見える。


小梅は今日、公園で駆け回り、鹿島を引っ張ってはあちこち連れ回した。


子供の頃以来の、久しぶりに座ったブランコは、風を切って思いのほか気落ち良かった。


振り落とされないように、鎖をしっかりと握っていたので、まだ手のひらに痛みがある。けれど、ブランコの高みが頂点に達する時、青空がぐんと近くなった気がして、気持ちがスカッとした。


今日という日の空が、こんな透明な美しいスカイブルーだったのだと、気がついたのもこの時だ。


そして、ブランコから離れていき、次には回転遊具を楽しそうに一人で回している小梅を見て、鹿島も浮き足立って一緒に回したりした。


こうして自分の洋服も同じように汚れるくらい遊び倒して、疲れはしたが心は晴れ晴れして気持ちが良かった。


(ああ、こんな小さな公園でこんなに楽しいなんて。テーマパークとか行けば、もっと楽しいぞ)


鹿島は観覧車に乗ってはしゃぐ小梅を見たいと思った。


「鹿島さあん、すっごく高いですよ」


満面の笑顔で手を振る、小梅を見たいと……。


「……こ、今度は遊園地でも行こうよ」


小梅は顔を上げなかった。


「ご、ごめんなさ、い」


弱々しい、小さな声。


「あの、もうこれ以上は……」


繋がった。今日、待ち合わせした時の、小梅の表情が脳裏に浮かぶ。暗くどこか影のある顔の待ち合わせだった。


鹿島が慌てて、ポケットを探る。指先にひやりとした無機質の物体を見つけると、勢いよく引っ張り出す。


「小梅ちゃん、これ」


小ぶりのスマホ。小梅との連絡用にと、実はいの一番に用意していて今までずっと渡せていなかったものだ。


小梅のことが好きなのだと気づいた日、携帯会社に飛び込んで、自分の名前で自ら契約した。


「持っててくれないか。俺の番号も入っているから」


「で、でも鹿島さん、」


「料金は俺が払うし、君には負担をかけない」


「だめです、こんなの、」


「お願いだ、」


小梅の手を取り、押し付ける。そして踵を返して、改札を通る。


振り向かなかった。小梅の迷惑そうな顔を見られなかった。いや、実際はそんな迷惑そうな顔はしていないかもしれない。


悲しそうな。


どうしていいかわからないような途方にくれた困った顔をしていたのかもしれない。


(くそ、俺は一体何をしているんだ)


「だめです、こんなの、」


焦りを含んだ小梅の声が、何度も頭の中で繰り返される。


その残響が。


いつまで経っても消えることなく、鹿島の頭にうわんうわんと響く。


逃げるように電車に乗り込むと、座席は空いていたが、座る気には到底なれなかった。

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