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#05

~ギルド~


「さてさて、セノさんも無事に帰ってきたことですし、今日はどうしましょうか?」


教会からギルドに帰った僕達は、いつものようにテーブルを囲み、だいぶ遅めの作戦会議だ。


「今、夕方…。あんまり大きいのは、難しい。」

「…だな。セノもまだあまり万全じゃないだろう。……セノ?」

「…あ、は、はい?」


ノルダに名前を呼ばれて、僕は慌てて顔を上げた。

僕は首から下げていたペンダントを眺めていて、話をよく聞いていなかった。

そんな僕の反応に、ノルダは眉を(ひそ)めてそれを見た。


「お前…そんな装飾品つけてたか?」

「確かに、見慣れませんね!」


何故かシレルも横から身を乗り出すようにして、僕の首のペンダントに興味を示す。

掌ほどの大きさで、ガラスのように透けた石を金属が縁取る…といういたってシンプルなデザインの装飾品。

光に当たるとキラキラと反射して、石になにか模様のようなものが浮かび上がる。

…まあ、僕にとってはどんなデザインでもただの装飾品であることに変わりないんですけどね。

ただ、女の子のシレルにとってはそうではないらしい。


「とっても綺麗なペンダントですね!ついにセノさんも装飾品に目覚めましたか!?…でしたら、私がおすすめの物を紹介しますよっ!」


ズイズイと目を輝かせながら迫るシレル。

僕はそんなシレルの勢いに負けて少し机から体を離した。


「あ、いや…これは…。」

向こうの世界で会ったオジサンだなんてとても言えない!


…あの時。

教会で復活の儀式を終えた僕の手に、このペンダントが握られていたのだ。

しかしまぁ、事情が事情である。

皆に話すのは長くなるし、もう少し先のことになりそうだ。


「…不思議な力…感じる。…セノ…何か変わった…?」

セルが首をわずかに傾げながら僕を見る。


「……あ、そのことで。ちょっと皆、この後のことなんだけど…」

僕は控えめに挙手をする。


そう。僕には一つ、確かめなければならないことがある。

それは僕が一体何の職業になったのか、ということ。


「…僕が受注したクエストの続き、もう一度やってもいいかな…?」

「…おいセノ、そのクエストは…」

「大丈夫。今度は皆と一緒だから。あの時みたいに討伐対象じゃない、予想以上に強いモンスターが来たら皆に助けを求めるから。」


今度こそ、大丈夫。

皆がいれば、絶対に!


僕はそう確信する。


「しょうがないですねぇ~、今日はもう新しい依頼を受けるのはなんか嫌になってきちゃいましたし、私がついて行きますよ!」

「…あのクエストの洞窟くらいなら…今から行って…まぁ、帰って来れる…多分。」

「…いくら洞窟内は弱いモンスターばかりといえど、この時間帯の街の外は何があってもおかしくない。…俺もいた方が安心だろう。早く行って夕飯までに帰るぞ。」

「うん、ありがとう、皆!」


皆がそれぞれ席を立つ。

そして僕達は再びあの洞窟へと向かうことになった。




~初心の洞窟~


*モンスターが現れた!

*ボムスライム Lv.20 HP 200/200 属性:火  今回のクエストの討伐対象


―そして今。

僕は、僕と同等の強さのスライムを前に、一人で岩陰に隠れている。

仲間は僕のさらに後ろ―戦闘範囲外の距離から見守る。


僕の仲間のいいところ。

あくまで僕が助けを求めるまで、僕のやりたいようにやらせてくれる。


さぁ、今こそ確かめよう。


僕は首から下げたペンダントを軽く握った。

すると手がほんのり温かくなり、光出す。

その光は僕の手の中で武器の形を作り始めた。


光はだんだんと横に長くなっていく。


(これは…短剣にでもなるのかな?)


やがてその光は僕の片手に武器を残して消えた。

僕の手には綺麗な弧を描いた……弓。


「えぇぇぇ!?な、なんで僕が弓なんて持ってるんですかぁぁぁっ!」

『お主の筋力ではこれが限界じゃ。しかし、お主には魔力がある。ほれ、右手に魔力を溜めてみぃ。』

「あ、しゃべった!オジサンやっとしゃべった!!ちょっと、どういうことですか、これ!」


僕はペンダントを握りしめ、抗議なう。


『誰がオジサンじゃ。…ほれ、お主がうるさくするから、敵に気づかれたぞ。』

「…え?」


*ボムスライムは気配を察知した!


(…げ。本当に気づかれてるっ)

ボムスライムさん、ガン見してるぅぅぅ!


「…なんでアイツは一人で騒いでるんだ?」

離れたところから聞こえる、仲間の声。


ノルダさん、めっちゃ引いてる!

そうですよね!ペンダントと話してたらめっちゃ不審者ですよねぇぇ!?

僕もそう思います!


「誰かとお話しているみたいですよ!」

「…セノ、ついに頭が…。」

シレルとセルもやめてぇぇぇ!

お、オジサンのせいだっ!

僕が皆にドン引きされてるじゃないかっっ!


『何をしておる。…ほれ、右手に集中して魔力を集めるのじゃ。矢をイメージしての。』


おっといけない。今は戦闘中だった…!

…この職業のことが何もわからない今、このオジサンに従うしか僕の選択肢はないのか…!

…し、仕方ない…。


僕は一度深呼吸すると、オジサンから手を離した。


(ええと…み、右手に集中して…魔力を集めて…矢をイメージ……。)


すると、僕の右手に光の矢が現れた。

僕はそのまま、まるで前にやったことがあるかのように体が自然に動き、弓の弦を引いて構えた。


おぉ、なんか凄いですね、オジサン!


『そうじゃ。…次は目を凝らしてよく敵を見る。…どうじゃ?』

(目を凝らして敵を……。)


「せ、セノさんがいきなり弓を…!?それに、目が金色に光っていますっ!」

目が金色…?

シレルには僕がそう見えるのか…。


(あ。………視えた。)


ボムスライムのど真ん中。

あそこが光って視える。

敵の核が、ある。


「……狙撃。」


自然と僕の口からこぼれた言葉に魔力が反応した。

弓から勢いよく光の矢が放たれ、一本の線のように正確に敵の核を射抜いた。


*ボムスライム Lv.20 HP 0/200 討伐成功


…これが僕単独で挑んだ初めての勝利だった。


『うむ、見事じゃった。ワシには敵わんが、中々いい腕をしておる。…まぁ、ワシの教えが上手いこともあるじゃろうが、な。

…これからも楽しみにしておるぞ、少年…』


オジサンの声が遠ざかっていく。

同時に僕の手からも弓が光となって消えていく。

…一時的に、というのはこのことらしい。


……つまり僕は、強制的にもう一つの職業で『弓使い』になった…ということなのだろうか。


僕は意識を集中して、ペンダントに手をかざす。

すると、またさっきのように温かくなるのを感じた。


…本当に、戦えるんだ。


弓が手元にあったときは、抗議しようと思ったけど(若干抗議したけど)、戦闘を終えた今、剣士になれなかった残念さよりも何故かしっくりくるものがあって…不思議な感覚だった。

…これが僕の天職だったとでもいうのだろうか?


「…セノ、魔導師なのに、弓使いにもなった…?」

「す、凄い!とってもかっこよかったです!!何が起きたかよくわかりませんでしたが、セノさんは今日、戦って回復できるかっこいい白魔導師さんになったんですね!やりましたね!憧れちゃいますっ!」

「白魔導師が弓使い…か。後で何があったのか説明しろよな。」


僕は後ろから歩いてくる仲間を振り返った。


「僕も不思議な気分です。なんかその…色々あって、弓使いになったみたいなんだけど、今まで通り魔法も使えるみたいで…。……その、長くなるから、帰りながら皆に話しますね。」



…こうして僕の長い長~い一日が終わった。




~数カ月後、北の洞窟58階にて~


「セノさん、サポートよろしくです!」

「…セノ。いつもの…。」

「セノは後ろ下がってろ、怪我するぞ。……いや、あそこの岩陰でチェンジだ。あと、いつもの。」


僕は岩陰に隠れ、杖を構える。


「癒しの加護」


僕の言葉に反応して白魔法が発動し、仲間全員を大きく回復した。

そして僕は、首元で揺れるペンダントを片手で握った。

途端、扱い慣れた弓が手元に現れる。

それから魔力を集中させ、狙いを定めた。


*サイバーウルフ Lv.58 HP 600/5800 属性:無し  今回のクエスト討伐対象


「…見つけた。皆、弱点は右目と胸。…セル、動きを止めてくれ!」

「…了解。……ダークコール。」


セルが横に振った手から黒い煙が勢いよく飛び出し、駆け回る敵を縛りつけた。


「…よし、セノ行け!」

「セノさん、今です!」


動きが鈍くなるのを確認すると、前衛のノルダとシレルが後方に下がった。


「…貫通狙撃」

僕は皆からの合図を受け、勢いよく矢を放つ。


僕の手から放たれた一筋の光が敵を射ち、遠吠えと共にウルフは浄化した。


*討伐成功

*経験値を獲得した。

*ノルダ Lv.58 剣士 / シレル Lv.54 戦士 / セル Lv.51 黒魔導師


僕は戦闘を終え、ホッと息を吐く。

握っていたペンダントをゆっくりと離し、オジサンに向けて「やりましたねっ!」と小声で呟いた。


*…セノはレベルアップした!

*セノ Lv.42 白魔導師/弓使い



そして僕は…弓使いになったのです。

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