#04
~???~
「仲間達は頑張っているようじゃのぅ。」
(僕は、助かるんでしょうか。)
「時期にな。…ほれ。」
オジサンがみせる映像に映る皆は、もう街の中へ入り、僕の体を教会へと運びこんでいる。
ノルダがそのまま僕の体を教会の中央にある魔方陣にそっと置いた。
すると教会の魔方陣が反応し、共鳴するようにこっちの世界で魂となった僕の体が光出す。
その光と共に少し引っ張られるような気がした。
(や、やったぁ!僕は帰れるんだ!)
「ふぉふぉ、一件落着じゃな。…して、転生の件じゃが…」
(あ、それは…もういいです。なんか色々あって、白魔導師で落ち着ければいいやって思いました。)
「ふむ…では別の形での提案じゃ。」
(…僕に神様を祀る趣味はありませんよ。僕は白魔導師であって、神官ではありませんから。)
「わかっておるわい。そう根に持つな。…提案というのはじゃな、ワシをお主と共に外の世界へ連れて行って欲しいのじゃ。」
(…無理です。)
知らない人について行ってはいけないのと同義で知らない人を連れて行っちゃいけないよね。
という理由で僕は迷わず即答しておいた。
「話は最後まで聞かんか。…悪い話ではない。ワシは外の世界では物質になろう。そうじゃな、装飾品とかでいいじゃろ。それをお主は身につけるだけでよいのじゃ。ワシはそこから外の世界が見える。…また、昔のように、人間のように世界を楽しめるのじゃ。」
(…あなたは一体…?)
「…というわけで、どうじゃ?お主のメリットとしてはワシを身につけ触れている間、恩恵を受けられるのじゃ。」
(恩恵…とは?)
「一時的に別の職業になれる。」
(…はあ。)
「なんじゃ、間の抜けた返事をしおって。悪くないじゃろ?」
(本当に僕は別の職業になれるんですか?)
「ワシに触れている間じゃ。離せばお主は元の白魔導師として魔法を使うじゃろう。」
(…なんかそれ、凄くヤバくないですか?複職業っていいんですか?)
「じゃが、なれる職業は一つだけじゃ。今、決めるといい。お主はワシを身につけた時、何になりたい?」
もし、これが本当の話なら。
…そんなの、決まってる。
(僕は…剣士になりたいですっ!)
これでやっと、夢が叶うんだ…!
ありがとう、神様!
さっきは色々言って本当すみませんでしたぁぁぁ!
最後の最後に素晴らしい提案をありがとう!!
「それは無理じゃ。」
(……え。)
なんでぇぇぇ!?
職業選べるって言ってたじゃん!選んでいいって言ったじゃぁぁぁん!?
そんなのムキムキイケメン剣士がいいに決まってるじゃないかぁぁぁっ!!
「お主な、人には向き不向きがあるのじゃ。」
(僕はイケメン不向きだって言いたいんですかっ!こう見えても僕は昔、女の子にチョコレートを貰ったことがあるんですよ!義理かもしれないけど!純粋な僕の心にとっては、あれはいつでも初恋チョコレートですよっっ!!)
「なに訳のわからんことを言っておるのじゃ。向き不向きはそういうんじゃないわい。」
(じゃあ、なんですか。僕に何が足りないんですか。)
「…まぁ、筋力じゃの。」
筋トレしてくればよかったっっ!
(じゃ、じゃあ今から筋トレします!毎日します!剣なんてブンブン振り回せるくらいにしますからっっ!)
「今決めねばならん。」
(じゃあ今筋トレしますね!)
そう言うと、僕は魂のまま腕立て伏せの体勢をとった。
「こんなところで始めても意味ないわいっ。なんで魂が筋トレ始めようとしてるのじゃっ」
(…くっ!僕の体よ、帰って来いぃぃぃぃ!)
「お主が今から体に帰るんじゃろがい」
…そうでした。
(じゃ、じゃあ…ええと…)
「そうじゃの、お主がなれるのは…おぉ、これがよい。」
(…え、何ですか?)
「おっと…もう時間がないな。すまんが、お主と話し合う時間はなさそうじゃ。…外の世界、楽しみにしておるぞ、少年。ワシのこと、忘れるでないぞ。…では、あちらの世界でまた会おうぞ。」
(えぇぇぇ!?そこ、一番大切な場面じゃないですかぁぁぁ!僕がお父さんだったら、自分の娘がお嫁にいくくらい大っっ切な場面じゃないですかぁぁ!?…って、聞いてます!?)
さっきまで話していた声がまったく聞こえなくなっていた。
僕を包む光はどんどん輝きを増していく。
(まっ……、僕は一体、何になるんですかぁぁぁぁっ!)
そんな叫びを最後に、僕の視界は真っ白になり、最後は勢いよく体が引っ張られた。
~教会~
「……ん…」
僕はようやく白い世界から視界を取り戻した。
ここは確か…あの時の映像で見た続き…?
「…セノさんっ!起きましたか!…よ、よかったですぅぅぅ!」
僕の視界に真っ先に飛び込んできたのはシレルだった。
「え…と、シレル…?」
「はい、私です!記憶もあるんですね!助かって本当によかったです!」
「あ…うん、僕は…平気。」
……本当に生き返ったのか。
「スライムに体当たりされただけだ。記憶が無くなるわけないだろう。それにしても……随分長い昼寝だったな?」
ノルダがゆっくりと歩きながら視界に入ってくる。
僕に向けられた声色は若干いつもより低く…。
僕がチラッと目だけでノルダを見ると、やや睨んでいるような…。
「…ご、ごめん…なさい。」
ノルダさぁぁぁん、怒らないでくださいぃぃ!
「……何ともなくてなによりだ。…今回はな。」
溜め息まじりのノルダさん。
ちゃんと最後に釘を刺してくるあたりが流石です。
次、こんなことあったらノルダさんに葬られますね。わかります。
二度としません。はい。
「……セノ、バカ。」
そうですね、セルさん。
こういうときはシンプルな言葉が沁みます。
でも…なんだかんだ皆が僕のことを凄く心配してくれていたのは十分に通じた。
「…皆、その、ありがとう…助けてくれて。」
「セノさんは仲間ですからね!何回でも助けてあげますよ!」
「…次はまず、俺達に相談しろ。…わかったな。」
「今度セノの魔力が無くなるまでサポートしてもらう…から。」
皆が僕を見る。
僕は無茶苦茶に言われながらもつい嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
…あぁ。
今日は散々な一日になったと思ったけど、変なオジサンに出会ったけど…またこうして皆と話せてよかった。
この世界に帰って来れて…よかった。
僕は顔を上げ、皆を見て口を開いた。
「……皆、ただいま」
呆れ顔のノルダ、相変わらず無表情に見えるセル、安心して若干涙目になっているシレル。
その時は色んな表情をしていたけれど、皆が本当に心配してくれていたことを僕は知っている。
「…おかえり、セノ」
皆から告げられる言葉。溢れる笑顔。
…こうして僕達はまた一つのパーティーになった。