#03
~洞窟最深部~
「ここのスライムちゃん達、可愛いですっ」
シレルの肩にポムスライムが乗る。
「…シレル、目的。」
「…え。あ、わ、忘れてませんよ!?セノさん救出作戦、ですよね!」
セルに声を掛けられ、ポムスライムと戯れていたシレルが慌てて顔を引き締める。
「シレルが言い出したんだろ…。早く見つけて帰るぞ。」
ノルダは先頭に立ってズンズンと進んで行く。
「あ、待ってください、ノルダさん!…この子が何か言ってます!」
「ポムポムポム…」
シレルの声に続くポムスライムの鳴き声。
「……ポムポム言ってるな。」
ノルダが半ば呆れながら振り返り、シレルの肩に乗るポムスライムを軽くつっつく。
その度にポムスライムがポムッと可愛い音を出した。
「そ、そうなんですけど!…ええと、この先にセノさんがいるみたいで!」
「…シレル、凄い。」
「お前…スライムと話すのか。」
セルの純粋な誉め言葉とノルダの若干引いた言葉が重なる。
…そしてノルダのドン引きした空気をまとう目がシレルを追撃する。
「な、なんとなくですよ。…ほ、ほら、あっちの方じゃないですか?行きましょう!」
ノルダの視線に耐え切れなくなったシレルは慌てて洞窟の奥を指さし、足早に歩いていった。
「…後でシレルにスライム語教えてもらう…」
「…冗談だろ?」
「…うん、冗談。」
そんな会話の後、遠ざかるシレルの後に二人が続いた。
「…!あそこに何かいます!」
しばらく歩いていると、シレルが足を止め、前方を指さした。
その先には巨大なスライムと、そこに…
「セノさん!セノさんが…食べられてますっ!」
スライムに取り込まれたセノの姿があった。
「おい、セノ!」
ノルダが背中から大剣を引き抜く。
セノの姿を確認した三人は一気に戦闘態勢に入った。
「…ノルダ。相手はLv.30。楽勝だけど、セノは…」
セルは瞬時に片手を振って分析を使い、必要な情報をノルダに伝えていく。
「…Lv.30…?こいつはセノの討伐対象じゃないのか。おそらく、洞窟内で誤ってこのモンスターと遭遇し、逃げられなくなった…といったところか。……ったく」
ノルダは一つ息を吐いた。
「ノルダ、相手の弱点は炎。…この程度のモンスターなら、あたしの魔法でも倒せる…けど…」
「いや、いい。セノが中にいるからな。…俺一人で十分だ。」
「…わかった。」
セルは構えていた杖を下ろし、後ろへ下がった。
「…なら、私が行って朝食になってしまったセノさんを助けてきます。」
そう言ってセルと入れ替わるようにシレルが前に出た。
「…行けるのか?」
「私、『居抜き』スキルを覚えてあるんです。これなら、安全にセノさんを助けられます!」
「そうか…。確かに、俺だと加減が難しいからな。…頼む。」
ノルダは横に避け、シレルがさらに前へと進んだ。
シレルはそこで足を止め、いつもより体勢を低くして双剣を構えた。
「…いきますよ!『居抜き』っ」
その言葉と共にシレルの体が青い光を帯びた。
トンッと踏み出した足から光が波紋のように広がり、助走とは思えない速度を生み出した。
シレルは閃光のような速さでスライムとの距離を一気に詰め、その凄まじい勢いで迷いなく突っ込んだ。
「セノさんを返しなさいっっ!」
風のようにスライムの体内を引き裂き、瞬きをするような一瞬でシレルはスライムの背後に立っており、その両手にはすでにセノを抱えていた。
「…全然、見えなかった。」
ノルダやセルの目には、一筋の青い光がスライムの体を貫通しているようにしか見えていなかった。
その光に貫かれたスライムは成す術などなく、攻撃前の姿勢で硬直したまま光に包まれて、あっという間に浄化されていった。
「セノさん、セノさん…!」
シレルはただ自分の腕の中でぐったりとしているセノにっ必死で呼びかけた。
が、セノから返事はない。
「…シレル。」
スライムの浄化を確認したノルダとセルが駆け寄り、セノを覗き込む。
「…さっきからセノさん、どんなに呼びかけても、起こそうとしても反応してくれないんです…!」
「わかってる。…連れて行くぞ。俺が代わろう。」
「は、はい…。」
ノルダはセノを肩に担いで洞窟を引き返す。
シレルとセルは無意識に早足になっているノルダについていくように後ろを追った。
向かう場所は一つ。
戦闘不能になった人間は一定時間が経過すると、モンスターと同じように浄化され、光となって消える。
それより前に教会へ辿り着ければ、魂の儀式を行い、復活することができるのだ。
この浄化されるまでの時間は、戦闘不能時に受けたダメージ量と関係する。
幸い、セノはHPが低いものの、受けたダメージも同程度。
まだ間に合う。
ノルダ達は最短距離で洞窟を抜け、街の教会へと向かった。