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#02

 ~ギルド~


朝8時。


コンコンコン。


「セノさーん、起きてくださーい!」

二階に響く声。

扉の前には少女がいた。

「私です、シレルですー!寝ているんですか?…入っちゃいますよー!」

沈黙が続く。

しばらく間をおいて、首をかしげたシレルは控えめにドアノブを回した。


キィィ…。


ゆっくりと開かれた扉は暗い室内を覗かせ、そこにはすでに誰もいないことを物語っていた。

「セノさん?」

シレルは狭い部屋の中を見渡す。

ベッド、小さなテーブル、椅子、クローゼット、鏡、窓…。

セノと同じで、ギルド二階の別部屋に住み込んでいるシレルにとっては、どれも見慣れた構造である。

あとは部屋の隅にセノの荷物が置かれているだけだ。

「…?」

あともうひとつ。

部屋の中に足を踏み入れたシレルは、そのベッドサイドのテーブルに手紙を見つけた。

「なんでしょう、これ?」

手紙を手に取り、彼女は無言で読み始める。

…途端、シレルの目が大きく見開かれた。

「…ふえぇっ!た、大変です~!」

シレルはいきなり大声を出し、手紙を握ったまま慌てて一階へと駆け下りて行った。



「…ノルダ。シレル来た。」

「あぁ、だな。…妙に慌てているが。」

一階の定位置であるテーブルには朝食を囲むノルダとセルの姿。

ノルダはカップに入ったコーヒーを一口飲み、階段の方を見る。

一拍遅れてシレルがドタバタと駆け下りて来て、その勢いのままいつもの仲間のいるテーブルに到着した。


「シレル…どうした?お前がそんなに慌てるなんて珍し…」

「ノルダさん、セルさん!た、大変です!セノさんを起こしに部屋へ行ったら、…ここ、こんなものが!」

シレルが朝食のパンをよけて、一枚の紙を広げた。


『僕は皆のためにもっと強くなりたいので、今日から単独依頼(クエスト)に行きます。きっと帰って来るので、心配しないでください。』

その手紙にはこう書かれている。


「…セノさんが死んじゃうっっ!」

シレルが顔を真っ青にする。

「シレル…少し落ち着け、大丈夫だ。アイツもバカじゃない。討伐系の依頼じゃなくて採集系のやつに行ったんだろ。だったらせいぜい星1~2程度だ。セノ一人でも、そのうち帰って来る。」

ノルダはそう言って、パンに手を伸ばした。

セルはスッと立ち上がり、スタスタとカウンターの方へ歩き出す。

「こうしている間にセノさんに何かあったらどうしましょう…」

「シレル、心配しすぎだ。お前も落ち着いて、飯を食え。」

ノルダがシレルにパンを渡す。


そんな少しの間にセルがテーブルへと戻ってきた。

「…ねぇ。いまカウンター行って来たら、星4のスライム討伐依頼がセノの名前で受注されてたけど。」

「…白魔導師の単独依頼…。」

セルの情報にノルダがパンを食べる手を止め、溜め息を吐く。

「…セノさん、スライムに潰されちゃいますぅぅぅ!」

シレルは再び慌て始め、ノルダは片手で頭を押さえた。


「……………アイツは…。」



~???~


(…僕はバカかもしれない。)


体の感覚がまるでなくなった今、僕は悟った。

まだこの依頼は早かったのかもしれない、と。


結局あの後何もすることができず、抵抗虚しく肉体と離され魂だけになった僕は、真っ暗な空間にいた。

(…これが死後の世界ってやつなのかな…)

何も聞こえず、何も見えない。

(こんなことになるなら、皆といつもみたいに依頼を受けてればよかった。…今更後悔しても遅いけど。)

自虐的に言っていたら、なんだか胸が苦しくなってきた。

(白魔導師は白魔導師らしく、皆をサポートしていればよかったんだ…!)

この世界の『白魔導師は回復役』という固定観念を変えようとした僕の末路なのかもしれない。

ポタリと涙が頬を伝い、落ちた。

(僕は…。僕は…!)



「おぉ、本当に来よったわい。」


(………はい?)

突然、僕の前に蛍のような光が現れた。

しかもこれ…なんか喋ってるんですけど!?

「ふぉふぉ、驚いておるな。まぁ、無理もない。ワシのような神を見るのは初めてじゃろ?」

(あ、そうですね。はい。はじめまして……って、神って言ったこの人!?…ヒト?人…なのか…?)

「さぁて、お主の望みを叶えてやろうとここに呼んだ訳じゃが。…何でもするんじゃよな?」

(え?何か言いましたっけ、僕。…初対面の方に何かお願いするほど図々しいキャラじゃないんですけど…)

「言ってたじゃろ、さっき。『やり直させてください、何でもしますから』と。」

(…あぁ、そんな独り言、言いましたね…。)

「だから、やり直させてやると言っておるのじゃい。」

(…え、う、嘘!本当ですかっ!?)

「ワシは神じゃからな、人一人の転生くらい何ともないわい。して、『何でもする』のじゃな?」

(……はい?)

「なんじゃ?『何でもしますから』と言っていたではないか。」

(…いや、神様。あの…ですね。これは悪ノリと言いますか、『何でもするとは言ってない』という切り返しがハッピーセットになっている一連の…)

「そこで、お主と交換条件じゃ。」

(あぁぁ…無視のやつだぁぁぁ…!)

「ワシはお主を望み通り転生させてやろう。代わりにお主は神官となってワシをもとの世界で祀ってもらおうかの。」

(……え。)


途端、暗い世界の中で光が僕を包み込んだ。



そして、目が覚めた時に僕は街の教会にいて……『神官』に転生していた。

それはあっという間の出来事であり、ほぼ強制的であった。

…が、白魔導師から新しい職業になれた僕は、どこか晴れ晴れとした気持ちだった。

「僕は本当に生き返ったんだ…!これからは神官として、僕の命の恩人であるあの神様に尽くしていこう…!」


僕はそれからギルドを脱退し、仲間に別れを告げ、毎日教会へ行くようになった。

そして僕を助けてくれた神様に祈りを捧げる日々を送り、なんだかんだで幸せに……。




(…って、そんなわけあるかぁっっ!)


僕は渾身のツッコミを入れて、包み込もうとしていた光を振り払った。

人の人生を勝手に妄想すんなっ!って話ですよね!


「ぬぉっ!な、何をする!」


物語(この人の妄想)を書き換えようとする僕に、さすがに神様(オジサン)も驚いたようだ。

(僕は神官になりたいんじゃない!僕には仲間がいるし、悪いけどあなたのようなよく知らない神様を祀る気もないです!)

…初対面なのに色々言ってすみません。

でも、失礼を承知で僕は言う。

(…僕は仲間が大切なんだ!あなたの筋書き通りになるくらいなら、僕はスライムにやられた運命を受け入れます!)

「な…っ!スライムにやられた恥ずかしい運命をも受け入れるというのか!」

(恥ずかしい運命とか言わないでくださいっ!…自覚してるんですから!)

「本当にスライムにやられたという恥ずかし…」

(だから何度も言わないでっ!?僕、老人じゃないから!何度も言わなくても聞こえてるの!地味な嫌がらせしないでもらえません!?)

…魂になってもこんなにツッコミする力が残っているとは。

「…ぬぅ。そんなにワシを祀るのが嫌か?」

(…いや、そこまで嫌なわけでもないですけど。僕にはそれ以上に大切なものがあるだけですよ。)


「……仲間、か。」

やけに神様(オジサンでいいよね?)が大人しくなりました。

(…えと。言い過ぎちゃいましたかね?…すみません。)

「…よいのじゃ。ワシも昔はそうやってボケたり、ツッコんだりしてふざけておったわい。」

(マジですか!予想以上に精神若いな神様っ!…まさかあなたの口から『ボケ』とか『ツッコミ』とか出てくるとは思いませんでしたよ!)

…本当に、このオジサン神様は終始わからないことだらけである。

…別に知ろうとも思わないけれども。


「それよりも…お主の仲間、とやらが迎えに来たようじゃの。」

(…え?ここに来たってこと…ですか?)

それってある意味大丈夫なんですかね?

だってここは…

「まさか。お前さんみたいにバカに死んだりはせんよ(笑)」

(…今『バカ』って言いましたよ。しかも『(笑)』って。)

「まぁ、これを見るのじゃ。」

なんかムカつくオジサン(神様)は自分の光を使って僕に映像を映し出した。

そこには…


(…っ!皆っ!!)

僕の大切な仲間が、見慣れた洞窟にいた。


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