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いじめっ子といじめられっ子の間に恋物語など生まれない  作者: 勇樹のぞみ
「幼い悪役令嬢に忍び寄る完全屈服のワナ!」悪役令嬢のメイド編
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第11話「私はアドルフィーネお嬢様を戒める『鎖』です」(エルフメイド)

 ご希望の声にお応えして本編の過去話第2弾、主人公である悪役令嬢のメイド編を書いてみました。

 今回は短く2話構成でお送りします。

「お嬢様?」

「はいいぃっ!」


 私が声に力を込めて言うと、アドルフィーネお嬢様は背筋をビクンと跳ねさせた。


「ロ、ロズ?」


 おそるおそるこちらを、ベッカー公爵家のメイドのお仕着せをまとった、お嬢様の侍女である私の方をうかがう。

 ため息が出た。


「弟君をかわいがりたい気持ちはよく分かります。ですが、そのように甘やかされるのはウィル様のためになりません! そもそも、ご姉弟とはいえ年頃のご令嬢としての距離感というものをですね……」


 私のお嬢様はふだん完璧な貴族令嬢を演じることができているのに、弟君のことになると途端にただの姉バカ、残念なポンコツお嬢様になってしまわれる。


「だ、だってね……」


 もじもじと視線を逸らすアドルフィーネお嬢様。

 これは…… 久しぶりにお仕置きが必要ですかね。

 ぴん、と長く尖った耳を跳ね上げると、お嬢様の端正なお顔が引きつります。

 この耳が示すとおり、私は珍しい先祖返チェンジリングりのエルフです。

 両親の祖先に妖精族と交わった者が居たために産まれた隔世遺伝だと、お嬢様は仰っていました。

 そして、更に私が片眼鏡モノクルの奥の右目を細めると、お嬢様はぶるりと身震いして、


「ごめんなさい!」


 と頭を下げて走り去ってしまう。


「逃げられましたか……」


 やれやれです。


「姉さまって、ロズだけには本当に弱いよね」


 残された弟君、ウィル様が感心したように私の方を見ています。

 そうですねぇ、ウィル様も無事、思春期を迎えられましたしそろそろ話しておいたほうが良いのでしょうね。

 私は自分の無駄に大きな胸に手のひらを当て、こう言う。


「私はアドルフィーネお嬢様を戒める『鎖』ですから」




 私の名はロズ・マクラミン。

 アドルフィーネ様専属の侍女である私は、ベッカー公爵家の分家筋で、代々主家に仕えるマクラミン男爵家の三女。

 これでも一応、貴族令嬢と呼ばれる身ではあります。


 ベッカー公爵家はモンスター・テイマーの家系ではあるが、その力は分家には伝わっていない。

 その代わり、分家の者は別の様々な技術や技能をもって、主家に仕えることとなる。

 そして私が選ばれたのは、歴代でも最高と言われるモンスター・テイマー、魅了の力を持たれたアドルフィーネお嬢様の『鎖』役を務めるためだった。


「『鎖』役?」


 初めて聞く言葉にウィル様が首を傾げられる。


「はい。ベッカー公爵家では、時に特別強いモンスター・テイマーの力を持たれた方が生まれますが、そういった方々が暴走しないよう、マクラミン男爵家の者が『鎖』となるのが習わしなのです」


 モンスター・テイマーが持つ力は絶大ですからね。

 万が一のための歯止め策というわけです。


「でも『鎖』って……」


 不思議そうにウィル様は私を見ます。

 そうでしょうね、マクラミン家の者は特別な力も異能も持ち合わせていません。

 この無駄に大きな胸も動くのに邪魔ですしねぇ。

 今は仕事のために結い上げている金の髪はきれいだとほめられるし、男性の目を惹く程度には容姿は整っていますけど。

 これでどうやってお嬢様を止められるのか不思議なのでしょう。


「ウィル様は『鎖につながれたゾウの話』をご存知ですか?」

「姉さまの話してくれた?」


 ゾウを調教するには、まず幼いうちに鎖で杭につないでおくのだ。

 当然、ゾウは嫌がって逃げ出そうとする。

 でもどんなに頑張っても頑丈な杭は抜けず、そうしてついにゾウは自由になることをあきらめてしまう。

 そうなってしまったゾウは大人になって力が強くなり、簡単に杭が引っこ抜けるようになっても、鎖でつないだら動けなくなってしまうのだ。


「そのためにこそ、私はまだ小さかったアドルフィーネさまに引き合わされたのですわ。そうして幼い小鳥の羽根を切って飛べないようにした」


 いいえ、違いますね。


「翼をブチブチとむしり取って、回避不可の『絶望』を味合わせた。『やっぱりロズには敵わない!』そう骨の髄まで教え込んで差し上げたのですわ」


 挑んでくる気さえ起きないほど徹底的に心を折ればいい。

 そうしてしまえば、お嬢様は二度と私に逆らえなくなる。


 ウィル様が息を飲みます。

 でも、残酷なようですが、それがマクラミン家の『鎖』の役目ですからね。


「幼いアドルフィーネ様に、私は誠心誠意仕えて信頼を得ました」


 もちろん最高のタイミングで裏切って、絶望を与えるためですが。


「貴族の子供たちの躾けには、お尻叩きが一般的です」


 お嬢様は人権侵害だとか、旧弊な慣習だとか言っていましたが、だからといって避けられるものでもなし。


「まさか、姉さまをハメたの?」


 ウィル様が、かすれた声で聞いた。


「いいえ」


 そんなことをして、万が一ばれたら効果が薄れるでしょう?


「お嬢様が失敗をして、お仕置きを受けても仕方がないと納得して自ら私にそのお尻を差し出してくれることに意味があるのですから」


 お嬢様はそのころから利発で失敗などそうそうしなかったけれど、やはり幼い子供のこと。

 じっと待ち続ければ、機会は訪れました。

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