鍛冶師
「着いたぞ」
三十分歩き続けて着いた場所は森の最深部といったところだろうか。
辺りは木々で鬱蒼と繁っており、うっすらと太陽の射す光で照らされている。
「ここに鍛冶師がいるの?」
「そうだよ。ほらあそこに家があるだろ」
「ん~・・・・・・あっ、ホントですね」
確かに目の前で広がる木々の無い場所に石レンガで出来た赤い屋根をした家が建っていた。
「なんかァ~かなり周りにミスマッチな家だね」
「そうね。鍛冶師の住んでいる家にも見えないしね」
本当に住んでいるのか疑わしかったが、家の近くにある切り株に斧が刺さっており、薪割りをした後がある。
「かなり大きい斧ですね」
「まぁ鍛冶師だからあれぐらいの物を持つのは余裕なんじゃないかな」
アルナールから鍛冶師の容姿がどんなのかは聞いていないから想像するしか出来ないのだが、あの斧の大きさからしてかなり体格のでかい男なのだろう。
「おい、ぼさっと突っ立てないだ行くぞ」
「あ、ごめんごめん」
アルナールはぼんやりと家を見る僕らをおいて一人ドアの前に立っていた。
「おい心結いるか俺だ」
ドンドンと乱暴にドアを叩く。
「ちょっ、アルナール。そんな乱暴にしたら出てこないんじゃ・・・・・・」
アルナールのノックに不安を感じている彩姫だが僕はそんなことよりもアルナールの言った心結という名前が妙に引っ掛かってしょうがない。
「出てこないですね。留守なのでしょうか?」
「そうかもな。しかたない出直すか」
そう言ってドアから離れようとしたとき家の中からドタドタとこちらに来る激しい足音がした。
「ごめんアルナール。剣造ってて気付くのが遅れた」
勢いよくドアが開かれたのと同時に姿を現したのは屈強な男性でなく、見た目彩姫と同じぐらいのか弱そうな女性だった。
「いや別に気にしてないから」
「ねぇアルナール。もしかして彼女が・・・・・・」
「あぁ鍛冶師の心結だ」
長い緑色の髪を三つ編みで結んでいる心結はアルナールにしか見ていなかったらしく、ようやく僕らの存在に気づいてくれた。
「アルナールが人を連れてくるなんて珍しいね」
「まぁいろいろあってな」
未だに彼女が鍛冶師なのが信じられなかったが、長袖の灰色のワンピースにはあちこちに炭が付いており腰に着いているポーチにはハンマーなど鍛冶で使いそうな道具が入っていた。
「心結、今日来たのはお前に頼み事があってなんだけど、ちょっと話が長くなりそうだから居れてもらってもいいか?」
「えぇもちろんいいよ。後ろの皆さんもどうぞ中に・・・・・・って! もしかして貴方ショウ!?」
いきなり名前をしかもあだ名の方を呼ばれビクッとしてしまったが、名前を呼ばれたことによりやっと引っ掛かっていたのが何なのかが分かった。
「もしかして苗字って近瀬?」
「そうだよ。私は近瀬心結。久しぶりだよね」
「やっぱりそうか。見た目が変わっていたから全然気づかなかったよ」
心結とは地球でいたとき同じ学校に通っていた同級生の一人だ。龍太と同じぐらい頭がよく、彩姫が転校してくるまでは僕と龍太と星華と心結でよく遊んでいた。
「フフ、まさかこんな所でショウと会うなんて。アルナールの話も聞きたいけどショウがこっちの世界に何していたか聞きたいから早く家に入って」
そそくさと一人家に入る心結に続くようにアルナール、僕と入り、後ろで僕と心結の関係が分からず首を傾げるミカ、彩姫の順で入っていった。