星華の過去~助けてくれた~
私は何で生きているのだろうか。囚われてからずっと考えていた。今自分が生きている意味を。
よく分からない実験の被験者にされ毎日地獄のような苦しみを味わうばかり。未だに封印扉と鍵もいまいち分からない始末。こんな毎日を送るぐらいならこの世界に来た時点で命を絶てば良かったんだと後悔ばかりの日々。
そして今日も私は暗い部屋で白衣の男性が来るのをボーッと虚空を見ながら待っていた。
そういえば昨日、手術が終わった後、『ついに成功した』とか『後は上手く調整できれば』と言っていたがもしかしたら今日からはあんな苦しいことをしなくてもいいのかなと淡い願望を抱く。
どれくらい待っただろうか。いつもなら白衣の男性が来てるはずなのに今日は来る気配がない。
「もしかしてもう実験自体終わったのかな?」
だがそれならあいつらが言った調整とは何の事だったんだろうか。
そんな事を考えていたら急に扉からドォンと何かを叩きつける音が聞こえた。
「何?」
白衣の男性がやっと来たのかと思ったがそれにしては様子がおかしい気がする。
ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォン、ドォンと何度も繰り返し聞こえてくる。まるで扉を破壊しようとしてるかのように。
「何なの? これも実験の一つなの?」
心が疲弊しているせいかまともな考えが浮かび上がってこず身動きが取れない以上、ただ次の段階に進むのを待つばかりだ。
ドォン、ドォン、ドォン、ドゴォーン!
さっきまでの叩く音と違い最後の音は完全に扉を破壊した音だ。
顔を上げると壊れた扉の隙間から光が射し込む。急に目元だけを照らされたからか、目が痛くなり少し目を瞑る。
急な光のせいかぼやけながら見える風景に何か懐かしい姿が見えた。
壊れた扉の前に立つのは白衣の男性でもなければローブを纏ったあのイカれた男でもない。うっすらと見える赤い服に死神のような大きな鎌を持つ女性を私は一人しか知らない。
鎌を持つ女性は部屋に入り徐々にスピードを上げながら私の元へ駆け寄ってくる。
「助けに来たよ星華ッ!」
私の前に現れたのはこの世界で私を助けてくれた大事な人、リアお姉ちゃんだった。
「良かった生きてた」
安堵の声を洩らしながら泣くリアお姉ちゃんを見ていると、本当に助けに来てくれたんだと遅れて実感する。
「十年間も一人にしてごめんね。今助けるから」
そうか私が捕まってもう十年も経っていたのか。普通なら十年なんてとても長いものだと思うのだがエルフだからか十年がとても短く感じてしまう。
「ちょっとだけ頭さげとってね。もし星華に当たったら大変だからね」
これからリアお姉ちゃんが何をしようとするのか察した私は素直に頭を下げる。
「はぁぁあああ!」
壁に繋がる鎖を鎌で水平に凪ぎ払うとパキンと壊れる音同時に、私は前のめりに倒れる。
「おっとっと、大丈夫だった?」
倒れる私を支えてくれたリアお姉ちゃんに私は顔を上げて十年ぶりの笑顔で答える。
「うん大丈夫だよ」
「・・・・・・ッ!」
その時、私が見たリアお姉ちゃんの顔は何故か畏怖と悲痛の目をしていたが、首を横に振ると何時もの明るいリアお姉ちゃんの顔に戻った。
「待ってて今度は足の枷を壊すからね」
先程と同じような手口でリアお姉ちゃんは足枷も壊してくれた。
「これで大丈夫よ。さっ速く逃げるわよ」
私がお礼を言うよりも早くにリアお姉ちゃんは私の手を掴み走り出した。
そして私が部屋を出たと同時に廊下全体が赤く点滅しうるさいサイレンが鳴り響く。まるで侵入者を報せるかのように。